アトリエ ドゥ カカオバリー チョコレート講習会レポート【前編】
魅力を高めてコストは抑えるカカオ高騰期のチョコレート菓子

カレボーチョコレートアカデミー
責任者兼テクニカルサポート
尾形剛平氏/Kohei Ogata
▼Profile
1997年 東京製菓学校卒業。
サロン・ド・テ・スリジェ(東京都調布市・現閉店)、ドゥー・シュークル(東京都江戸川区)にて修行し、渡仏。M.O.F.の称号をもつアルノー・ラエール氏に師事しパリで1年間、その後フランス、キブロンのアンリ・ルルーで研鑽を積み、同店ジャポンのシェフパティシエとして帰国。その後、アンリ・ルルーと提携し、日本で展開している株式会社ヨックモックの商品企画開発担当として7年間勤務した。2015年4月、バリーカレボージャパン株式会社に入社。現在は同社のチョコレートアカデミーセンター東京の責任者として世界各地のプロフェッショナルや企業向けに技術指導および商品開発のコンサルティングを行う。
=受賞履歴=
2006年 メープルスイーツコンテスト グランプリ 優勝
2007年 ガストロノミックアルパジョンコンクール ピエスアーティスティック部門 準優勝
2015年 カリフォルニアピスタチオコンテスト 準優勝・優秀賞
など、国内外の受賞歴多数
2019-2023年 チョコレート イノベーション コンテスト大会審査委員長
2021、2024 年 日経プラスワン「何でもランキング」審査委員
カカオ相場の現状と今後の見通し
セミナーに入る前に、カカオバリーの担当者から昨今のカカオ価格について説明がありました。
2024年以降、カカオ豆の収穫量減少のためカカオの価格が最高で従来の約5倍となることもあり、チョコレートメーカーがチョコレート製品を軒並み値上げ。2025年はやや復調したものの、一度高騰した価格が元の状態に戻るには時間がかかるため、チョコレート製品の価格は引き続き高い水準を維持するのではないか、とのことでした。
レシピを見直し、カカオ価格の高騰に負けない商品を

チョコレートの高騰に立ち向かう手段として、尾形氏が提案されたのがレシピの再構築。
そのポイントとしては、
①単にチョコレートの使用量を減らしたり、クーベルチュールの質を下げるのではなく、材料や配合などを見直してコストを抑える
②焼成済みの素材やテンパリングの必要がないパータグラッセ等を活用して人件費を削減
③商品の魅力を高め、価格以上の価値を感じられる商品を提供する
の3点が挙げられます。
特に重要なのは3つ目で、手に取りやすい価格にして質が落ちてしまっては、せっかく購入していただいても結果的にはお客さまが離れてしまいます。美味しさはもちろんのこと見た目や新しさ、トレンドで商品の付加価値を高める必要性について説かれました。
味のペアリングとデコレーションで、ガトーショコラをブラッシュアップ

最初のレシピは「ガトーショコラ Zephyr Caramel&ほうじ茶」ですが、調理を始める前に尾形氏から衝撃的な一言。
「ホワイトチョコレートのガトーショコラはそのままでは売れません。」
その理由の一つに、バターケーキやマドレーヌなどの焼き菓子と焼き色が変わらず、見た目に差が無いことを挙げられました。
そこで、ガナッシュモンテのフリルで飾って華やかなルックスに仕上げ、ガトーショコラ生地もフードペアリングの発想で見直して進化させたのが今回のレシピです。
ほうじ茶の香ばしさ、キャラメルの塩味が決め手のガトーショコラ生地
ガトーショコラ生地はシフォンケーキ型で焼き上げます。中心が空洞になっているシフォン型を使用することで、中央に火が通りにくいというガトーショコラの欠点をカバーしつつ、コストを抑えるのが狙いだそうです。
ホワイトチョコレートは、豊かなミルクの風味と塩バターキャラメル の香りを持ち合わせたカカオバリーのゼフィールキャラメルを使用。こちらの商品は試食が提供され、「キャラメルを炊く手間が省ける上に品質も良い」と参加者からも好評でした。
風味付けには香ばしい炭火ほうじ茶を使用されていましたが、抹茶やカルダモンなどのスパイスに変更するのもよいとアレンジの提案もありました。
浅煎りのプラリネアマンドで、彩りと味わいを自由に
生地にサンドされたほうじ茶風味のプラリネアマンドにも細やかな心配りが。
ベースとなるのは、カカオバリーのプラリネアマンド。こちらは最高級のバレンシア産アーモンドが使われているため、浅煎りでも風味がしっかり感じられるのが特長です。また色が薄いので、フルーツのフリーズドライパウダーや抹茶と合わせても発色が良いとのことでした。
ここにカカオバターやグレープシードオイルといった性質の違う油分を合わせ、さらにテンパリングをとって安定させます。この作業によって融点をコントロールし、口に入れた時に冷蔵のガナッシュモンテとも馴染むよう仕上げます。
生ケーキやアイス、焼き菓子等どのようなパーツと合わせるのか、お店でどのように保管するのか、持ち帰りの際に温度がどう変わるか。さまざまな要素やシチュエーションを加味し、テンパリングの温度を調整する緻密な理論に、参加者のみなさまが真剣に耳を傾けておられました。セミナー全体を通してもテンパリングへの言及が多く、「テンパリングの概念が変わった」と驚く参加者もおられました。
ガナッシュモンテをより美しく、立体的に

最後はほうじ茶風味のガナッシュモンテで飾ります。
ガナッシュモンテは、時間が経ってもダレずに綺麗な形をキープできるよう、ゼラチンと水飴を添加。ゼラチンが水分を抱え込むことで冷蔵で保管してもガナッシュモンテが乾燥しにくく、なめらかさを保てるというメリットもあるそうです。また、口溶けと作業性の向上のためテンパリングをとるなど、クリームひとつにもこだわりが満載です。
今回のデコレーションは、例えば母の日に人気のカーネーションのケーキにも応用が可能とのこと。一般的には削りチョコレートでカーネーションを表現しますが、それをガナッシュモンテに置き換えることで、美味しさがアップするだけでなく見た目もボリューミーになります。コストを抑えて商品の魅力を高める、有効な手段になりそうです。
理論とアイデア、テクニックが満載

と、1品目からかなり内容の濃いレクチャー。ガトーショコラ1つにもテクニックやアイデア、商品として成立させるためのさまざまなこだわり が詰まっており、圧倒されました。
セミナーで紹介されたレシピはあと4品。
レポートはここでひと休み。
後編では贅沢な生ケーキと焼き菓子をご紹介します。