2025/10/23

アトリエ ドゥ カカオバリー チョコレート講習会レポート【後編】

価格高騰中の今こそチョコレート菓子に新しい魅力を

カレボーチョコレートアカデミー
責任者兼テクニカルサポート
尾形剛平氏/Kohei Ogata

▼Profile
1997年 東京製菓学校卒業。
サロン・ド・テ・スリジェ(東京都調布市・現閉店)、ドゥー・シュークル(東京都江戸川区)にて修行し、渡仏。M.O.F.の称号をもつアルノー・ラエール氏に師事しパリで1年間、その後フランス、キブロンのアンリ・ルルーで研鑽を積み、同店ジャポンのシェフパティシエとして帰国。その後、アンリ・ルルーと提携し、日本で展開している株式会社ヨックモックの商品企画開発担当として7年間勤務した。2015年4月、バリーカレボージャパン株式会社に入社。現在は同社のチョコレートアカデミーセンター東京の責任者として世界各地のプロフェッショナルや企業向けに技術指導および商品開発のコンサルティングを行う。
=受賞履歴=
2006年 メープルスイーツコンテスト グランプリ 優勝
2007年 ガストロノミックアルパジョンコンクール ピエスアーティスティック部門 準優勝
2015年 カリフォルニアピスタチオコンテスト 準優勝・優秀賞
など、国内外の受賞歴多数
2019-2023年 チョコレート イノベーション コンテスト大会審査委員長
2021、2024 年 日経プラスワン「何でもランキング」審査委員

9月2日から9月11日にかけて、東京・札幌・京都・熊本の全国4か所で開かれたカカオバリー®︎のチョコレート講習会。
レポート前編のこだわりが詰まったガトーショコラに続きご紹介するのは、リッチなケーキとトレンドの焼き菓子。チョコレート菓子の新たな魅力を探ります。

ほのかな塩味と酸味がたまらない、「チョコレートチーズスフレ」

2品目は、カカオの風味をしっかりと感じられるチョコレートスポンジとクランチの層を合わせた、ガトー仕立てのスフレ。
こちらのレシピを考案されたきっかけは、アジアやヨーロッパで担当されたセミナーだそう。ふわふわでしっとりしたスフレチーズケーキは海外では珍しく、SNS映えすることもあってかリクエストが多かったそうです。
ただ、チョコレートの配合を増やすと生地が重くなるうえに原価も上がってしまいます。そこで生まれたのが、スフレの軽やかさとチョコレートの風味を両立させた今回のレシピ。軽さを維持しつつギリギリまで濃厚に仕上げたスフレに、チョコレートのスポンジとクランチの層を合わせてチョコレートの存在感をプラス。スポンジの層には、スフレの水分を受け止めてクランチの食感をキープする意味もあるそうです。

試食してみると、チョコレートにクリームチーズの塩味と酸味が合わさることで濃厚なのに重さは感じません。スポンジとクランチの層があることで食感にもメリハリがあり、最後まで飽きることなく「美味しい!」が続きます。クセになる美味しさで、リピーターさんが増えそうです。

複雑さが心地よい、リッチなトリュフケーキをレパートリーに

きらびやかな「トリュフケーキ カシス&アールグレイ」のキーは、カシスとアールグレイ、チョコレートが合わさった複雑味。ですが、カシスの風味は小麦粉でマスキングされてしまうため、ケークショコラは小麦粉を使用しないレシピを提案されています。
こちらでは、グラッサージュにはカカオバリーのパータグラッセブロンドを、上に飾ったブラケットショコラにはモナリザの製菓用転写シートを活用してコストと手間を削減されたそうです。
とはいえ、パータグラッセには同じくカカオバリーのエキストラビターを合わせることで濃厚な風味に。さらにサラダ油を加えることでソフトな食感に仕上げてあります。

サンドするガナッシュクリームは、カシスの酸による凝縮を防ぐため、クリームを温めてからカシスピューレを混ぜ合わせます。ガナッシュクリームではこのほかに、保存期間に合わせた乳化やテンパリングのテクニックなど、レシピにはない手法も数多く紹介されていました。セミナーに参加すると、レシピに記載されている以上の情報が得られるので、気になるセミナーがあったら一度参加されることをお勧めします。

こちらを一口いただいて驚いたのは、グラッサージュのなめらかさ。舌触りが良いのでしっとりしたケークショコラやガナッシュともなじみ、絶妙な一体感があります。コストと手間を抑えたと知っていても、全くそれを感じさせないリッチな美味しさでした。

フランスの古典菓子、タルトシトロンを愛らしい焼き菓子として提案

お次は常温保存が可能なタルトシトロンセック。爽やかなレモンイエローと刻印入りのホワイトチョコレートが愛らしく、目を惹きます。日持ちもするので、贈答品として地方発送が可能というメリットもあります。

一口食べると、マーマーレードシトロンの鮮やかな酸味とほのかな苦味が広がり、それをホワイトチョコレートのマイルドな甘みが包みます。タルト、ビスキュイ、メレンゲのニュアンスの異なるサクサク感が重なっているのもたまりません。

こちらでは、人手不足解消や人件費削減のためラ ローズ ノワールの焼成済みタルトを活用。もちろんそのまま使うのではなく、ビスキュイシトロンを入れて焼成した後にバニラシロップを塗ってひと手間かけます。これを再度焼くことで香りと焼き色を付け、既製品を使いながら個性を出すことができるそうです。

シンプルなレシピで作る、トレンド感のある焼き菓子

最後は、スイーツのトレンドとして上がっているクッキーを、ショコラティエの視点で取り入れた「スペキュロスPGC」。カルダモンやシナモンで香り付けしたベルギーの伝統的なクッキー「スペキュロス」を砕き、カカオバリーのパータグラッセブロンドに混ぜ込んで固めます。
テンパリングをはじめとしたテクニックが必要なく、経験の浅いスタッフでも作ることができるシンプルさも魅力のこちらのレシピ。スペキュロスに関しては規格外の焼き菓子に置き換えても良いとのことで、アップサイクルレシピとしても有効です。

販売方法に関しても、ガラスのジャーに入れてカジュアルな焼き菓子として販売したり、シガー風のラッピングでギフトとして提案するなどのアイデアをいただきました。お店やブランドの特性に合わせて無限にアレンジできる、汎用性の高いレシピと言えそうです。

コスト、人手不足、食品ロス…さまざまな問題をレシピで解決

尾形氏には、チョコレート価格の高騰だけでなく人件費と人手不足の問題など、現在の製菓業界が抱える悩みにレシピで解決策を提案していただきました。
セミナー中は素材の扱いなどに関する質問も数多く上がり、参加者の皆さまの熱意を感じました。

チョコレート価格が高騰している今こそ、お客さまを笑顔にするチョコレート菓子を

尾形氏はセミナーの中で「お菓子は幸せを運び、笑顔を生むもの。もしチョコレート価格の高騰をそのまま商品と価格に反映してしまうと、お客さまを笑顔にできない。レシピを工夫し、アイデアとインスピレーションで新しく魅力的なものにすることがこれからのチョコレート菓子に必要。」と想いを語っておられました。

このセミナーから生まれたお菓子がたくさんの方に届き、笑顔を生むことを心から願っています。

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