2017.05.9

モロッコのパン

週末を利用して、モロッコの古都マラケシュを訪問しました。現地でのパン事情について、お伝えしようと思います。

モロッコはアフリカ北部、地中海を挟んでスペインの真南に位置しています。フランスが長年統治していたこともあり、モロッコの都市部ではフランス語が通じ、フランス文化が濃く残る国でもあります。首都はラバトで人口は120万人。

モロッコで一番有名な街、カサブランカという名前は耳にされた方も多いと思いますが、首都ラバトよりもその規模は大きく、エジプトのカイロに次いで北アフリカでは2番目に大きな街で、人口は約370万人となっています。

今回訪れたマラケシュは人口が70万人弱ですから、上述の2都市についで大きなモロッコ第3の都市ということになりますがこの街の最大の特徴は、街の外周の城壁に取り囲まれた巨大なメディナ(旧市街)であり、これは、北アフリカ最大の規模を誇っています。カサブランカが商業都市、ラバトが行政都市として比較的新しい街並みが整備されているのに対して、マラケシュはメディナの古き良き情緒豊かな表情を楽しむことができ、多くの欧米人がそれに魅せられ、この街を訪れています。

当地のパン事情です。

モロッコは1日3食、パンを食すパン文化の国。フランスでモロッコを含む北アフリカのマグレブ地域の食文化といえば、クスクスやタジン、ケバブなどが連想されます。これらマグレブの食文化は移民が多いフランスにおいて、大衆料理の分野ですでに根付いていますが、フランスで一般的に提供されるこれらマグレブ料理のシーンでは、パンといえば平たく焼いた「ピタ」パンが主流であり、現地で最も提供される食事パンはピタである、と筆者も思い込んでいました。今回の滞在でそのステレオタイプ的な考え方が一掃され、改めて、現地を訪問する大切さを痛感しました。

とはいえ、モロッコではピタが食べられていない、というわけではありません。今回はマラケシュのみの訪問でしたので、マラケシュだけの話になりますが、ピタも一部食べられています。ただ、ピタがマラケシュにおいて最も一般的に食べられているパンではありません。それではどんなパンが食べられているのか、というと圧倒的に下の写真のようなパンでした。

このパン、現地でなんという名前か尋ねたのですが、みんな「パン」としかいいません。この日本人はなんという質問をするのか?おかしな表情で見られたりしたのですが、みんなこれは「パン」だといいます。最後になって「パン・ド・フルニル」だと答えてくれた方がいましたが直訳すると「窯焼きのパン」ということですね。ピタが中華なべの底を裏返したような形状の鉄板で直火で焼いたり、空洞型な特殊な窯に貼り付けて焼くことに対して、こちらのパンはオーブンで焼く、ということの意味合いでしょうか。

このパンは現地の方は基本的に朝昼晩3食口にするようで、主流は直径が15cmほど。サイズはこれより小さいものはなく、逆に20cm、30cmくらいの大きいものは目にしました。厚さは2~3cmほどでしょうか。味わいは素朴で、お店によっては少し甘みも感じます。日本で言えば、コッペパンのような味わいですが、しっとり感はそこまでなく、どちらかといえば、パサパサなものが多かったです。これをお店で購入すると一つ1ディルハム。約10円です。

表面に日本のあんぱんのように芥子の実がついているものもありますし、ダッチブレッドのようにごつごつと表面が割れているものもあります。が、基本的には上の写真のパンが圧倒的に食べられていました。

現地の人々が食するレストランでも出てくるのはこのパンです。屋台では一つ2ディルハム程度。パンにつけるトマトベースのソースと一緒で3~5ディルハム。下の写真が屋台での食事風景ですが、揚げ物や焼き物1品をパンとトマトソースと一緒に食べて、大体30ディルハム(約300円)も出せばおなかいっぱい食べられます。

屋台ではなく、地元民のちょっとリッチな人々が出入りするカフェなどの軽食屋さんでは料理を頼めば、かごに入れられたこのパンとトマトソース、オリーブが大体運ばれてきます。こちらは料理とは別途の料金は請求されませんでしたので、料理代に含まれているかと思います。

で、この丸いパンはどこで売っているのでしょうか?そりゃ、パン屋さんでしょう、という声が聞こえてきそうですが、その通り、パン屋さんでも売っています。しかし、メディナ(旧市街)ではいわゆる自分のところで焼いているパン屋さんはあまり見かけません。一部、大通り沿いにあることはあります。下の写真がそれ。

こちらは奥にオーブンもあり、しっかりとパン屋さん(ブーランジュリー)でした。

同じ通りにあるパン屋さん(ブーランジュリー)。こちらはクロワッサンやパンオショコラなど、よりフランス的な雰囲気でしたが、お店の主人に写真はダメと強く言われたので、こんな写真しかありません・お店の外、通りに出てガラス越しでもダメと言われましたので、パンの写真がないのは残念ですが、きれいなパンを並べていました。

メディナ内ではパンの販売店も見かけました。店にオーブンはなく、近くの焼き場から配達されて、販売だけを行うお店です。写真の2店舗はパン専門の販売店。やはり丸いパンが主流ですが、バゲット状のパンもあります。

数の少ないブーランジュリーやパン専門販売店よりもパンをたくさん見かけるのは生活雑貨店舗だったのです。

いずれのお店も飲み物や缶詰、洗剤やシャンプーなどの生活用品を取り扱う雑貨店なのですが、陳列棚の上にはパンが並べられています。スーパーのないメディナ内ではこの生活雑貨店舗が日本のコンビニのようにあちこちにあり、地元民はここで買い物をするわけですが、ついでパンも買っていくようです。

これら生活雑貨店やカフェなどに売り物のパンを届けるのはバイクや自転車に荷台をつないだ配達人たちです。手押し車の配達人も見かけました。

この写真の配達車なんて、配達途中に落ちるんじゃないかと思うくらいの量のパンを一度に積んでいます。見難いですが、パンの右端の方に黒い毛布が見えますが、ホコリよけの意味合いも兼ねて、運んでいる最中は落ちないようにこれできちんと覆っていました。販売店に到着すると決まった数を納品し、次々と販売店を巡るといった感じです。

ここまでくれば、焼き場も見たいな、と思っていたところに、通りを歩いていると、一台の手押し車が筆者を追い越していきました。荷台には小麦粉。そして数十メートル先で荷を降ろすではありませんか。

アラビア語はわかりませんが、フランス語が見えた!荷台の小麦粉。これはチャンスかも、と近づくと、荷を運び込むのは、人が一人やっと通れるかというほど小さな通りの土壁の中にある洞窟のような暗い先。大の大人が入るにも躊躇するほど、怪しげなところでしたが、思い切って足を踏み入れるとありました、焼き場が。

黒いすすが上がっている下が窯です。右上に人が見えるかと思いますが、ここが粉の納品先、生地を捏ねている場所だったようです(中は見せてもらえなかったのでわかりませんが)。

窯の前にいたおじさんに声をかけると、「フランス語少しだけ、僕、ベルベル人(マグレブ地域の先住民)。フランス語わからない。フォトOK、でもチップくれ」とのこと。片言のフランス語でのやりとりで聞きたいことの半分くらいしか、答えが返ってきませんでしたが、貴重な体験でした。

ベルベル人のおじさんとのやりとりでわかったことは、
○おじさんのお父さん、おじいさんもここでパンを焼いていた。
○朝早くから、夜まで働いている。毎日働いている。休みはなし。
○納品先はレストランや販売店。基本的に丸いパンを焼いている。
○レストラン用には1日3000枚焼く。販売店には????枚(わからなかった)
○それ以外は家庭から持ち込まれた生地も焼く。

今から焼くという一般家庭から持ち込まれた生地。見せてくれた生地がこれ。

大きな板に布が敷かれてパン生地が置かれています。モロッコではいまだにパンの生地は自宅で捏ね、街の焼き場で焼いていもらう習慣が根強く残っているようです。街中を歩いていると布に覆われた大きな板を抱えて歩く少年を何人も見かけました。家で母親がこねた生地を焼き場に持っていって、焼いてもらっていたのですね。それぞれの家の味がありますので、生地は色も大きさも様々。

このベルベル人のおじさんは焼くだけ。焼くことに特化した職人です。生地を作るのは別の人。そちらの現場は見せてもらえなかったのは残念でした。

毎日朝から晩まで休み無く働いて、大変な苦労だと思いますが、突然やってきた日本人のフランス語での質問に終始笑顔で答えてくれた姿が印象的でした。

右は筆者ですが、左の壁の中にある窯の前に人が一人ようやく入れるかというスペースがあり、おじさんはその中にすぽっと収まり、そのすぐ目の前の窯に生地を入れてずっとパンを焼き続けるのです。夏は相当な暑さになることを考えると過酷な重労働ですね。

また、実際に焼いている姿を目にしたのはメディナのあちこちにある、軽食屋さんの店先もそうでした。こちらでは丸いパンではなく、ピザのような薄い生地のパンを油を塗った鉄板に押さえつけて焼いています。

こちらは女性が多く、日本でいうところの駄菓子屋さんのおばさん、といったところでしょうか。実際に夕方は学校帰りの子供たちがおばさんと鉄板を取り囲むようにして、このピザのようなパンをほお張っていました。トマトソースやオリーブを乗せた塩系とはちみつがかかった甘系があるようです。

こちらはホテルの朝食に出た同じ油を敷いた鉄板で焼いたパン。はちみつがかかっていました。素朴な味わい。

ホテルでは日替わりでモロッコ伝統のパンが朝食で提供されていたのですが、セモリナ粉のクレープもでました。トッピングはドライレーズン。ソースはアーモンドとアルガンオイル、はちみつから作るアムルーというもの。こちらも甘すぎず、重すぎず、上品な味わいでおいしかったです。

モロッコの伝統的なパンといえば、スムル(セモリナ粉)を使ったものが多いといいます。

ちらもホテルの朝食で出たスムルのパン。中が空洞になっています。ピタがもっと分厚くなった、ような感じ。

地元民が足を踏み入れることのできない高級レストラン(客は外国人ばかりで、お酒が提供されるようなレストラン。モロッコは厳格なイスラム教徒の国でアルコールはご法度)ではこのパンが多かった。上で紹介してきた丸いパンは一切でませんでした。丸いパンはあまりにも大衆イメージだから、でしょうか。

ちなみにホテルでは毎朝おいしいフランス風のヴィエノワズリーやパンが提供されました。クオリティーは高く、毎朝の朝食が楽しみになるほど。

モロッコはさすがパン文化の国です。おいしいパンがたくさんありました。

今回はマラケシュでのパン事情について、一部ですが、お伝えさせていただきました。

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