2021.09.22

アルデッシュ地方で栗林を100年守り続けた
『サバトン』の情熱とは【Chef’s choice vol.2】

Chef’s choice とは…


何を選び、どう使うか。
“これはいいね”とシェフが選ぶ素材を料理にどう展開するのか……。
素材を軸にしたシェフの読みをひも解きます。

不定期になりますが、本マガジンでひとつの素材をテーマに「Chef’s choice」を配信していきます。

今回は、マロン製品の『サバトン』。3世代、100年、厳格に守り続けるこの品質をシェフはどう料理するだろう。

今回、この素材についてご意見をいただいたシェフは、
レストラン ラフィナージュ(東京・銀座)オーナーシェフ 高良 康之さんです。

香り、甘み、コク、色、テクスチャー、すべてから栗の命を感じる。〝ナチュラル〟という評価は、このブランドのためにある。


―『サバトン社』のマロン製品の良さは、どういうところにあるのでしょうか。

そうですね、フランスの栗の名産地アルデッシュ地方の栗を使って、とにかく品質のいいものをつくり続けたいというシンプルな志が製品から強く伝わってくること、簡単に言えばそういうことになります。

私は18歳からホテルで仕事をはじめましたが、冷たいオードブルやデザートの手伝いをしていると必ず目にするのが『サバトン社』のマロンピューレやマロンクリームでした。当時から「マロンクリームをお願いします。」と問屋さんに頼むとこれが届く。日本の料理人のほとんどの方はこのブランドが入り口ではないでしょうか。

以来、今もずっと使っていますが、品質のブレを感じたことは一度もありません。原料になる栗は自然に育まれるわけですから、毎年毎年気候の違いなどによって収穫される品質にはばらつきがあるはずです。これを1世紀、3世代にも渡り変わらない品質を厳格に守り続けることは想像以上に大変なことでしょう。

長年守られてきたレシピに従ってつくられる『サバトン社』のマロンクリームやマロンペーストなどの製品は、栗本来の味わいが深く、フランスだけではなく世界中で高い評価を受けています。私も凄く信頼していますし、これからも使い続けます。

 

ー100年変わらない品質の安定を支えるものは何だと思われますか。

私は残念ながらサバトン社をお訪ねしたことはありませんが、伺ったところによると、ビジネスで『サバトン社』を訪れると、お客様はいつも栗林に案内してもらい、丁寧な説明を受けるそうです。

サバトンの栗林

その時期が収穫時期ではなくても、現地農家の方々と共に栗林を歩き、地域の歴史と栽培から収穫までの詳しいお話を聞かせてもらえるそうです。どんな時でも栗林への案内だけは欠かさない、要するにアルデッシュの栗林をいかに大切にしているかの表れでしょう。収穫した栗の品質だけを見て加工するのではなく、栗の成長の様子と合わせて加工の要素を総合的に判断する。長く品質が安定しているのはこうした栗への愛情からなのだと思います。

【サバトンをこう使う①】
自然な香りと味わいが魅力の『マロンピューレ』は、個性ある豚の血にも負けない


マロンとショコラの ブーダンノワール

マロンとショコラのブーダンノワール

ーサバトン社のマロン製品は落ち着いた香りと甘さを持っていて、風味に自然な広がりを感じます。今回はどのような料理でこの特長をいかしますか。

今回はまず、〝豚の血〟を使った料理に『マロンピューレ』を使います。
〝豚の血の料理〟と聞くとちょっと構えてしまうかもしれませんが、フレンチではブータンノワールは人気の高いポピュラーなメニューです。

今回はシャルキュトリーとして腸詰めにするのではなく、料理として提供します。
ポイントは豚の血の風味とマロンの風味を合わせて一体化させることです。

血の風味が強いと生臭いし、マロンの風味が強いと味気ない。そのために血が持っている鉄のような風味の中から感じる甘さと、『マロンピューレ』が持つ栗本来の甘さのトーンを揃えることがポイントです。

豚の血に『マロンピューレ』を合わせ、更にカカオマスの渋味と苦みを加えることで、豚の血とマロンのバランスを取ることにしました。

マロンにはもともと渋皮がついているので、カカオマスの渋味とマロンの相性が悪いわけがないと思ったからです。

いがぐりの時にはまだ青っぽい香りがあって、それをイメージしてパセリも加えました。
ですから、もともとのマロンの原形から風味の要素をバラしていって何と相性がいいかなというのを探していったのです。

ー豚の血の風味に『マロンピューレ』の風味は負けませんか。

鍋で豚の背脂で玉ねぎのみじん切りを透き通るところまで炒め、そこに生クリームと溶かしたカカオマスと『マロンピューレ』を加えて火を止め、温度を下げながらゆっくりとのばしていきます。この『マロンピューレ』は凄く溶けやすく生クリームに直接入れても綺麗に溶けて馴染んでいきます。ザラザラ感も出てきませんから漉す必要もなく、凄く使いやすいですね。そこにコーンスターチと塩、キャトルエピスを加えて綺麗に馴染ませたら、今度は豚の血を入れます。

ここで温度が落ちていないと豚の血に火が入ってしまいますから、一旦温度を落としてあげて豚の血を入れてから再度火にかけます。豚の血50ccに対して『マロンピューレ』を50g入れましたが、それだけでも十分味わいが出て『マロンピューレ』の風味は負けていません。香りづけのパセリは最後に加え、器に流して湯煎で蒸します。

仕上げは表面をキャラメリゼして焼けたキャラメル香と苦味を加え、上には『マロンエトフェホール』を飾りました。『マロンピューレ』の自然な風味は豚の血の風味と一体化してブータンを上品な料理にしていると思います。

フレンチならではの一品ですね。

【サバトンをこう使う②】
『AOP シャテーニュ ダルデッシュ ピューレ』からは、アルデッシュの固有種が持つしっかりとした頑固な質感が伝わってくる。


ラングスティーヌとセップ茸のフリカッセ シャテーニュの香るエキュム

ラングスティーヌとセップ茸のフリカッセ シャテーニュの香るエキュム

ー血や肉とマロンの相性がいいのは分かりましたが、シーフードとの相性はいかがでしょうか。

実はマロンの風味はオマール海老やラングスティーヌなどの甲殻類と凄く相性がいいのです。
それでは次に『AOP シャテーニュ ダルデッシュ ピューレ』(以下ダルデッシュピューレ)を使って、ラングスティーヌのフリカッセをつくってみましょう。煮詰めて味を調えたフォン・ド・オマール300ccに対して75gの『ダルデッシュピューレ』を加えてハンドミキサーでほぐしていきます。

『ダルデッシュピューレ』は、ちゃんと溶けるので漉す必要はありません。あとは、ごく少量の生クリームと牛乳だけ加えてバターは加えません。バターは加えなくても『ダルデッシュピューレ』がしっかり香りとコクを出してくれて、綺麗に泡立った状態を保ってくれます。

『ダルデッシュピューレ』の良さは、バターに代わるつなぎとして重さをちゃんと持っていることです。ソースのつなぎに野菜のペーストを加える料理はよくありますが、この『ダルデッシュピューレ』ならソースのつなぎに入れてもいいと思います。

これからの季節はジビエの時期ですから、『ダルデッシュピューレ』を使った赤ワインソースなどは鹿料理にいいと思います。さて、ラングスティーヌは、セロリ、セップ茸、『マロンエトフェホール』と一緒にフライパンでソテーし、ラングスティーヌは、表面に焼き色がついたらそれ以上火を入れないように外します。

他の具材に火が通ったらラングスティーヌをもどして、オマールとマロンのソースを加えて皿に盛ります。セロリを使ったのは、セロリのようにフレッシュな酸味を持つさわやかな野菜があることで甲殻類とマロンがうまく結び合って相性のよさを際立たせるからです。どうでしょう、ラングスティーヌの甘みにボリュームが出ていませんか。

『ダルデッシュピューレ』は香りも味わいも素晴らしいと思います。砂糖やバニラ香など余分なものを何も加えないシンプルな状態はとても扱いやすく、さらにアルデッシュの固有種が持つしっかりとした頑固な質感が伝わってきます。

こうして昔から地域のテロワールで守続けてきた個性のある食材が、時代とともに生産性を優先してつくられるものの中に埋もれていってしまっては、世界の料理人やパティシエにとって大損失です。これだけはっきり個性が出ていて香りも凄くいいので、これはもうこのままずっと残していってもらいたいですよね。『AOPシャテーニュ ダルデッシュ ピューレ』とはそういう素材だと思います。

【サバトンをこう使う③】
『マロンクリーム』のバニラ香、濃厚感はアレンジせずにそのまま使う。


マロンのプリンと キャラメルアイスのカクテル

マロンのプリンとキャラメルアイスのカクテル

ーサバトン社伝統のレシピでつくられた[『マロンクリーム』でデザートをお願いします。

『マロンクリーム』はバニラ香も、濃厚感もとてもバランスがいいので、これをあまり複雑に組み立てない方がいいかなと思って、牛乳と卵だけを加えてプリンをつくりました。生クリームを加えるとリッチすぎて『マロンクリーム』の風味が出てこないので『マロンクリーム』150gに卵が2個、牛乳200ccです。

『マロンクリーム』は粘性も綺麗に持っているので、つるっとしたプリンができあがります。
添えるキャラメルのアイスクリームは濃厚で重いので、逆にマロンのプリンには対照的な食感が欲しかったのです。砕いたメレンゲのプレートと『マロンエトフェホール』を飾りました。
プリンからやさしく立ち上がるマロンの風味にはフレッシュのブルーベリーがぴったり合います。

この控えめながら押しのあるマロンの甘さの存在感、使い慣れているとはいえ、改めて『マロンクリーム』の完成度に感心します。今回、サバトン社のマロン製品を改めて使ってみて、長く続く歴史あるものには迷うことのない真実のようなものがあるなと思いました。

私も自分なりの歴史を積み上げていきたいものです。

▼出典元
“素材の品質と作り手の心を料理の現場へ伝える”食材情報誌「素材のちから」
公式サイト:http://www.sozainochikara.jp/
紙面情報などは、ぜひ上記URLからご覧ください。
※この記事は素材のちからより許諾を得て紙面の一部の内容を転載しております。

 

 

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