フランス通信vol.08 思い出を共有するスイーツと空間「ル・グラン・カフェ セバスチャン・ゴダール」
かつて「パティスリー界のプチ・プリンス」とも呼ばれたセバスチャン・ゴダールは、「ハイパークラシックスタイル」というテーマのもと、フランス伝統菓子への回帰というコンセプトを打ち出し、ブランドアイデンティティを着実に構築してきました。
また、フランスのファッションブランド「PATOU(パトゥ)」とコラボしたフェーブと王冠をプロデュースしたり、昨年には調香師マーク・アントワンとコラボし、香り付きのセラミックを嗅いでから食べるというユニークなコンセプトのブッシュドゥノエルを販売するなど、つぎつぎと新しい試みにチャレンジしているゴダール氏。
2014年にオープンした「パティスリー・デ・チュイルリー」に続き、2023年には3号店として、「ル・グラン・カフェ」をオープンしました。ゴダール氏が打ち出す伝統的なパティスリーと見事に調和した、ディテールまでコーディネートされた内装が特徴的なお店。スクーターに乗って3店舗を行き来しているというゴダール氏に、自身のクリエイションとコンセプトについてお話をお聞きしてきました。
セバスチャン・ゴダール 経歴
1970年生まれ。 ロレーヌ地方出身。
26歳の時にピエール・エルメの後任としてフォションのシェフパティシエに就任。8年間務める。
2003年 パリ左岸の高級百貨店「ボンマルシェ」にサロン・ド・テ「デリカバー」を6年間出店。(スナッキング・シックという新コンセプト)
2011年 自身のブランド「セバスチャン・ゴダール」をスタートし、パリ9区に1号店「パティスリー・デ・マルティール」をオープン
2014年 パリ1区に2号店「パティスリー・デ・チュイルリー」をオープン
2023年 パリ9区に3号店「ル・グラン・カフェ セバスチャン・ゴダール」をオープン
ヴィンテージの雰囲気漂う店内
「ル グラン カフェ セバスチャン・ゴダール」があるのは1号店のあるマルティール通りから約900mほど離れたフォーブール=ポワソニエール通り。下町の雰囲気漂う、ストリートフードやレストラン、カフェなどが並ぶ活気のある地区で、若い世代やクリエイターにも人気の通りです。
店内は天井の高い広々した空間に20席程のテーブル。50年代ビンテージの椅子や調度品をしつらえ、壁にはアーティストの絵画や、かつて自宅のキッチンに貼ってあったというレトロなポスターも。
家にお客様をお招きするような意識で、控えめなおもてなしの演出をしています。
お店に入って正面にある幅広いカウンターには、アイスクリーム什器が並び、常時20種類以上のアイスクリームやソルベを展開。もちろん、自身の世界観を確立した既存のパティスリー、焼き菓子、ショコラ・アソートボックスも取り揃えています。
お店のテーマは「思い出」
ゴダール氏
「私は、『想い出が再生できるもの』をコンセプトにお菓子づくりをしています。誰もが持っている共通の想い出、共感できるものを想起させるお菓子です。
フランスには、クリスマス、イースター、カルナヴァルなど、暦にちなんだお菓子や、地方や伝統に根付いたお菓子もたくさんあり、皆さんそれぞれに思い出があると思います。お店を知らなかったお客様がふらりと入って、お菓子を味わって美味しいと感じ、そこに何か懐かしいものを発見できる、そんな心地よい場所を提供したいと考えています。
私がお客様からの誉め言葉としていちばん嬉しいのは、『祖母の味を思い出す』という言葉です。
お菓子の美味しさが、祖母の味という想い出と重なる。そんな愛着のある経験につながり、共有することができる。
それには空間も大事な要素だと思います。
『ル グラン カフェ』では、私自身の思い出を重ねたパーソナルな場所という演出をしています。
モダンさの中に、50年代風の調度品や、オブジェや植物をあしらったレトロな空間で、お客様にもそれぞれの思い出に浸って心地よく過ごしていただきたいですね。」
セバスチャン・ゴダールのお菓子
タルト・カフェ
この新店のために開発された新メニュー。
サブレ生地のタルトに光沢感のあるライトなペルー産のカフェクリーム。甘味を程よくおさえたグルマンなお菓子です。細かく砕いてカラメリゼしたアーモンドと、コーヒー豆がちりばめられ、ビターなアクセントを添えています。
モンブラン
お店で最も人気のあるモンブラン。フランス人のお客様にもとても人気でベストセラーの商品です。
コクのあるマロンクリームの下には、ふわりとしたメレンゲと薄いサブレ、さらにその下には甘味をおさえたライトな生クリーム。絶妙なハーモニーです。
じつはモンブランは、日本人には圧倒的な人気商品ですが、栗はフランス人共通の好みではないとのこと。人気の高さにゴダール氏も少し驚いているそうです。
デュシェス・カフェ
デュシェスは、エクレアの昔の呼称。香ばしさの残るソフトな生地の焼き加減、しっかり中に詰まった上品なカフェクリームと表面のアイシング。甘味を押さえつつもリッチな味わいは食べ応えもあり、シンプルながらパーフェクトな一品です。
バルケット・ドゥ・フレーズ
春から初夏にかけてが旬のいちごのタルト。ゴダール氏が2年前に出会った南仏の生産者から仕入れている、ドリームという品種の旬のイチゴを使用しています。
昔ながらのボート型のタルト型を使った小ぶりな形は見ているだけで懐かしい気持ちにさせてくれます。塩味の効いた香ばしいタルト生地の上には、軽い味わいのバニラクリームと上質なイチゴ。甘さが程よく調和した、クラシックな一品です。
取材を終えて
同じ菓子職人である父や先人たちに常に敬意を表しながら、自身の感性を入れ込み、自身の世界観を形成してきたゴダール氏。
取材中、片隅のテーブルでひとりの上品なビジネスパーソンが、クロックムッシュー、モンブラン、ダブルエスプレッソをひとときの郷愁を味わうかのように楽しんでいる姿が印象的でした。フランスの伝統と同時にモダンなエスプリを堪能できる「ル グラン カフェ」を一度訪れてみてはいかがでしょうか。
店舗情報
Le Grand Café Sébastien Gaudard (ル グラン カフェ セバスチャン・ゴダール)
住所 : 59 Rue du Faubourg Poissonnière 75009
営業時間 : 10時–19時
定休日:月曜日