日本人パティシエたちの世界大会挑戦に密着取材。シャルル・プルースト杯2024【前編】
シャルル・プルースト杯は、1953年に始まった由緒ある国際製菓コンクールで、2006年から、世界トップクラスのパティシエ・ショコラティエで構成されるルレ・デセールが主催しています。
2024年大会の舞台は、シャンゼリゼ大通りや大統領官邸に近いイベント会場パヴィヨン・ガブリエル。朝の6時30分を過ぎると、まだ外が薄暗いなか、選手たちが到着し始めました。
7時に、審査委員長で、運営責任者でもあるジェローム・ドゥ・オリヴェラ氏が選手を招集し、プティ・ガトーの試食審査の順番を決定するくじ引きを実施。新田氏は4番、森岡氏は8番に決まりました。
くじ引きが終わると、指定された台にピエスを設置。会場でピエスの仕上げをしている選手もいました。
日本代表の新田氏と森岡氏は、準備のために借りていたパリ市内のラボから車で搬入しました。
森岡氏は、ピエスが収まらないトラックが間違えてやって来るというハプニングも。別のトラックが無事に到着し、事なきを得たそうです。
新田氏は、作業していたラボから地上への階段の幅がとても狭く、ピエスをトラックに載せるところから既に緊張が始まっていました。
コンクール会場の搬入口も、ピエスのボックスに対してぎりぎりの幅。応援に来ていた内海会会長の寺井則彦氏(エーグル ドゥース)のアドバイスを受けながら、慎重に進んでいきます。
台に載せると、森岡氏や新田氏も少しほっとした表情に。
続いて、9時から始まる試食審査に備え、プティ・ガトーの準備をスタート。11時30分頃には全選手の試食審査が終了し、夜の授賞式を待つのみとなりました。
ピエスのテーマは、「人工知能(AI)は、私たちを火星に連れていってくれるのでしょうか…?」。
世界人口の増加による地球上のスペースの不足、新しいテクノロジーである人工知能の力の増大という2つの現実と課題を投げかける、奥深いテーマです。
テーマを提案したのは、審査委員長のドゥ・オリヴェラ氏。2009年のクープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリーにおいて、23歳の若さで優勝した経験を持つパティシエです。テーマの意図について、「これまでにない革新的な題材を提示したかったのです。国や出自にかかわらず、現代と若い世代を語るテーマです」と話します。
2位に輝いた新田氏がサブテーマとして掲げたのは、AIと人間が共存できる未来。「ロボットたちが花を植え、花を移植し、人間と出会う、そんな世界を表現しました」。
審査員の一人、ジュリアン・アルヴァレーズ氏は「ロボットの頭上に花を載せたり、ロボットがプティ・ガトーの上に植えていたり、細部まで繊細な技術と工夫が見えました」と称賛。
「プティ・ガトーに花を植えているロボットは、自分がパティシエであることを示したいと、考えたパーツです」と新田氏。
これまでの大会ではパスティヤージュ(砂糖細工)の主張が少ないと感じていた新田氏。
「色を出すのが難しかった」と言いながらも、砂糖の白さとマットな質感を生かしたパスティヤージュ使いは、強いインパクトを残しました。
一方、森岡氏は、アンドロイドが住む未来の火星をイメージしたピエスを発表。以前は苦手意識があったというチョコレートの使い方を徹底的に学び、ピエスに取り組みました。
「力を入れたのはチョコレートと飴、パスティヤージュの融合。チョコレートの土台に飴の花、パスティヤージュの葉を重ねるなど、1つのパーツに3つの素材を組み合わせるデザインを意識しました」
審査員がユニークな発想力と称えていたのが、プティ・ガトーを飴細工で作った花の中心に組み込んだ点。「惑星をイメージしてプチガトーを円形で作っていたところ、花の中心に入れたらどうかと、あるシェフからアドバイスをいただいたんです。おかげで、これまでにない新しい表現ができました」
残念ながら森岡氏は上位3人に選ばれませんでしたが、細工の美しさ、色と形の調和に賞賛の声が挙がっていました。
優勝したのは、6年前からフランスの「ルノートル」にパティシエとして勤務するアベル・ネソン氏。
床の部分にコンピューターの電子回路を再現し、ロボットの頭部にも飴細工を施すなど、「大胆な色使いや緻密さが融合。欠点がない」(ドゥ・オリヴィエ氏)と、創造性と技術力で審査員をも圧倒しました。
制作の過程について尋ねると、「AIロボットから発想を広げ、何度もデッサンをして決めていきました」と振り返っていました。
後半は試食審査が行われたプティ・ガトーを紹介します。
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