2025/12/11

昆布屋孫兵衛 昆布智成氏 アシエットデセール講習会レポート【後編】

昆布屋孫兵衛 昆布智成氏

コースのフィナーレを飾る、ユニークで繊細なグランデセールとミニャルディーズ。

軽やかなアヴァンデセールの次は、レミーコアントロー社のガストロノミー向けリキュール、スピリッツが華やぎを添えた、グランデセール、そしてミニャルディーズの登場です。

昆布氏ならでは、デセールならではのスイーツがフィナーレを飾ります。

昆布屋孫兵衛 昆布智成氏

▼Profile
1981年、福井県で240年の歴史を持つ和菓子店「昆布屋孫兵衛」の長男として生まれる。
製菓学校卒業後、東京に拠点を置き「オーボンヴュータン」にてフランス菓子の基礎を習得。その後「ピエール・エルメ サロン・ド・テ」で修行後、渡仏し、南仏のパティスリー「リエデレ」でM.O.F(国家最優秀職人章)に師事してガトー・グラッセや地方菓子を学んだのち、パリの2つ星レストラン「ラトリエ・ド・ジョエル・ロブション」でデセールを担当。
2015年、表参道のミニャルディーズの店「アングラン」に入社。
2019年にシェフパティシエ就任。
2023年に実家の和菓子店「昆布屋孫兵衛」を17代目として引き継ぐ。
昆布屋孫兵衛 Instagram
https://www.instagram.com/kombuyamagobei/

こく深くも軽やかなグランデセール。一味も二味も違うモンブラン。

アシエット・モンブラン

グランデセールは、アシエット・モンブラン。
パティスリーでもお馴染みのモンブランですが、グラスやメレンゲ菓子の器を組み合わせたアシエット・デセールならではの一品として提案されました。

まず口にして感じたのは、味わいの多彩さです。クリスタリゼしたくるみの香ばしさと食感、軽やかなメレンゲ、風味豊かなマロンシャンティ、エスプレッソフレーバーのグラスの苦味、コンポートアマレナの酸味と、さまざまな味、温度、食感、香りが食べ進めるごとに立ち現れてきます。モンブラン1品でここまでたくさんの要素が楽しめ、しかもそれぞれが見事に調和していることに大変驚きました。

特に印象的だったのが2種類のクリーム。モンブランの核となるシャンティマロンは、甘さ控えめですがラムが上品に香り、軽やかながら味の輪郭がくっきりしています。ラムは一般的なものよりアルコール度数の高いマウントゲイ55°が使用されており、少量で香りをしっかり付けられるガストロノミー向け商品のメリットを実感できました。
クレームシャンティはマスカルポーネときび砂糖が合わせてあり、コクと爽やかさが感じられる絶妙な味わい。個性の異なる2つのクリームの調和が心地よく、全体を優しくまとめる役割を果たしています。

メレンゲの器に潜ませたコンポートアマレナには、アマレナ オ コアントローを使用。こちらは糖度が低いのでチェリー本来の酸味と香りが感じられ、さらにアルコール(2.5°)によって甘みにキレがあるのが特徴です。今回はペースト状に加工して使用されていましたが、ホールのまま使ったり、粗めに潰して食感を残すなどさまざまな使い方ができるとのこと。甘さが控えめなので肉料理にも使えると日仏商事の担当者より紹介がありました。

和素材を生かした、愛らしいミニャルディーズ。

ミニャルディーズは、「サブレ和三盆」、「パート・ド・フリュイ テ・ベルガモット」、「タルトレット・フリュイ」、「ショコラ・レザン」の4品。

バターが多く、口の中でほろっと崩れるサブレ和三盆はフレキシパン(メゾンドゥマール) で焼成。しっかり冷ましてから外します。サブレショコラにアレンジする場合は、カカオパウダーを加えるか、ブールドカカオを入れるのであれば全体の水分量を増やす必要があるとのこと。ほろっと崩れる食感を維持する点から、カカオニブを入れる方法も紹介されました。

続いてパート・ド・フリュイ テ・ベルガモット。こちらのレシピでは和紅茶が使用されていますが、和紅茶は香りが繊細なので茶葉を多めに使用してアンフュゼ。その流れで、アンフュゼ後の茶葉を乾燥させて砂糖と合わせ、パートドフリュイにまぶすアイデアを披露されました。

また、パート・ド・フリュイが固まらない際の解決方法や、ジューシーな仕上がりにするためのヒントなどについても丁寧に説明され、昆布氏の1品1品にかける想いを感じることができました。

タルトレット・フリュイは、食べ応えを出すためにシュクレをやや厚めに。塩味の感じられるシュクレとフレッシュなフルーツを、柑橘系の酸味とバターが香るクレーム・アグリュウムがつなぎます。

ガナッシュにもレーズンにも、サンレミーブランデーXO60°をしっかり効かせたショコラ・レザン。カカオバリーの上質なチョコレートとブランデーの芳醇な香りが一体となり、濃厚な大人の味わいです。こちらにはラ ローズ ノワール チョコレートシェルを使用し、作業の効率化も図られています。

日本のアシエット デセールの可能性を探る昆布氏の、これまでとこれから。

講習会の終盤は、参加者の方からの質問に答える形で、昆布氏がこれまで働いた店舗、国による違い、デセールに興味を持ったきっかけなどを語っていただきました。一から全て自店で手作りし、トラディショナルな製法を守るお店、一部はオリジナルレシピでオーダーした素材を活用し、独創的なレシピを次々と考案するお店…。それぞれの良いところを取り入れながら、自分のスタイルを確立して来られたことが伺えます。たくさんのエピソードから昆布氏のルーツを垣間見ることができました。

最近は、実家の昆布屋孫兵衛を継がれたこともあり、和三盆や小豆餡、寒天、葛など和菓子の素材を使ったレパートリーが増えたとのこと。地元の福井の食材や地酒を使ったりもしているそうです。また、昆布を使用した焼き菓子やアイスクリームも作ったそうですが、さらにバリエーションを増やして洗練させたいと、昆布屋孫兵衛17代目としての意気込みを語っておられました。

今回、日仏商事では初めてのアシエット デセールの講習会、しかも講師が昆布氏ということもあり、予約がすぐにいっぱいに。

テクニック的には難しいものはないとのことでしたが、味の構成や細部へのこだわりは目を見張るものがありました。参加者のみなさまも、メモを取ったり、ドレッセの際は動画を撮るなど熱心に受講されていました。
昆布氏の現在の目標は、地元福井でデザートのフルコースを提供することだそう。日本のアシエット デセールを福井の和菓子店がリードする。そんな未来が見えてきた1日でした。

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