2019/08/10

日仏商事を卒業して開業されたあの人にインタビュー「ベッカライ トーン ガルテン」(後編)

前編では、中川オーナーの修行時代から独立開業を決意するまでのお話についてご紹介しました。
後編では、皆さまが気になる開業に関する質問についてお答えいただきます!

ブロートハイム明石氏のお言葉を参考に開業準備


-独立するまでの準備期間はどのくらいありましたか?
1年半ほどかかりました。

-開業の相談は誰にしていましたか?
日仏商事社員の特権だったのかもしれませんが、機械の担当部署が行っている開業を目指す方向けの商談会「独立支援個別商談会」を手伝っていた時にある程度知識を付けました。
日仏商事の機械を使って開業したいのであれば、その商談会に行くのが一番良いと思います。
独立開業の設備投資で一番お金がかかるのが厨房設備で、その中でもオーブンの投資額が一番高くなります。
ですが、お店を開業する方はなるべくオーブンの設備投資を抑えようとする人が多い印象があります。
その理由としては、昔のように高くていいオーブンを使うより、今では安くても高機能なオーブンがたくさん出てきているというのがあると思います。
基本的にオーブンがあればパンは焼けますが、高いオーブンを買うのにはメリットがあります。
車のレクサス、ベンツなどをディーラーで買うのと一緒で、買っただけではなく、サービスの充実度が違います。
特に日仏商事では、機械のほかに、食品、技術すべてを持っている企業なので、安い機械に飛びついてしまうのではなく「いい機械、いい材料」というのをきちんと見極めて投資は抑えないでほしいです。
私の場合は、日仏商事の機械を使うと心に決めていたので日仏の商談会で相談して開業準備を進めました。

-資金面はどのように調達されたのですか?
開業資金はいつかは独立したいという意識があったので、就職した時から積立金を貯めていました。
不足分は、家族に相談したところ、祖母が「足りない分を一族で貸してあげる」と言って融資してくれました。
家族に相談したのは、ブロートハイムの明石氏のアドバイスからでした。
「お金は銀行に借りる前に親に言いなさい。親は子供を助けたいと思っているから夢を応援してくれるはず。だから親に一度相談してみなさい。」と助言をいただきました。
その結果、結婚したばかりでリスクも大きすぎることもあって家族親戚が援助してくれて、金融機関にはお金を借りずに開業することができました。

-開業資金は想定内でしたか?
想定内でした。
お金を借りる時は、まず、お店の場所から1日の売上想定まで提示する必要があります。
自分が返せる額や見合う額、家賃などをある程度決めていたため想定内の金額で収めることができました。

-お店の場所はどのように決めましたか?
日仏商事で働いていた時に、仕事の関係であまりにもパン屋さんの知り合いが多くなってしまったこともあり、お店の場所をどこにするか悩んでいました。
出店場所を探していく中で相鉄線沿線は日仏ユーザーのパン屋さんが少ないことに気が付きました。
今では少しずつ増えてきていますが、当時はパン屋さんが少なかったため「いいな、ここなら出店しやすいな」と思って弥生台にお店を出すことを決めました。
周りの開業者が物件を探しているところを見ていると、住んだことのない土地で立地条件と家賃だけで出店場所を探している人が多いですが、私はそれが嫌だなと思っていました。だから、まずは「住んでみて弥生台という町を好きになろう」と思い引っ越しをしました。
弥生台に来て5年ほど経った時に「やっぱりこの町が好きだな」と思ったので出店を決意しました。

▲ご愛用頂いているボンガードオーブンとともに

 

今なら分かる、独立前にしておいた方が良かった3つの事とは?


-事前に調べておいた方がいいこと、知っておくべきことはありますか?
また、ご自分ではされなかったけれど、今振り返って最初の段階でしておいた方がいいことなどあれば教えてください。

・税金に関する知識
得すること、損することに一番大きく関わってくるので、事前に税金に関しては理解しておいた方がいいです。
私の場合は税理士へ委託していないですが、委託していた方がお金の立ち回りが上手にできると思います。
借金をしても世の中は優しくないので、自分で自分を守るためにも必要なことだと思います。
パンのことは好きだから自分自身で興味をもって勉強できますが、それ以外の経営のことや税金のこともきちんと勉強できた方がいいと思います。

・共同経営者を見つける
自分と意思統一している人一緒にサポートをしてくれる人など、共同経営者を1人か2人見つけておくといいと思います。
私の場合は最初から1人で開業に向けて準備を進めていましたが…。
それが奥さんの場合もありますが、同じ考えを持つ人が1人いるだけで早くゴールまでたどり着くと思います。
奥さんと一緒に開業する人が多い理由としては、まずは同じ考えを持っているので準備を進めやすいということもあると思いますが給与の支払いのことを考えると借金がはやく返せるという利点もあります。
また、1人だと24時間ずっと働いていられるわけではないので、一緒にサポートしてくれる人がいるだけで精神的にも体力的にもゆとりが出てくると思います。

・お店のコンセプトを明確に
時代に合ったコンセプトをしっかり持って開業をするということです。
コンセプトを曲げずにやっていくのはすごい勇気が必要となってくるので大事だと思います。

従業員全員がお客様第一で考えられるお店作り


⁻開業を進めるなかで一番大変だったことを教えてください。
パートさんの人材採用が大変でした。
必ず1人は年配の方を採用しようと思っており、その方を軸としてパートさんを集めていきました。
新規出店というのが後押ししたのか、嬉しいことに初回の募集で約60名の応募があり面接をしました。
しかし、面接を進めていく中で「パンが好きです」という言葉を必ず言われ、パンが好きだとしても本気で一生懸命売りたいと思っているのはまた別の話だと感じました。
本当に大切なのは、お客様がどのようなパンを食べたいかを想像して提案できること、相手の立場になって考えることが大事になるので、そのような人材を採用したいと思って進めました。
最終的に14名のパートさんを採用しました。
1~2時間しか勤務できない人や、日曜日しか出勤できない人など勤務体系は様々なので人数を多く採用しました。
今振り返っても人材確保に関しては大変勉強になりました。

▲中川オーナーと従業員皆さんとの集合写真

-商品開発はどのようにされていましたか?
ざっくり、どのような商品を作って並べるかは頭の中で考えていました。
しかし、これは『パン屋さんあるある』だと思いますが、半分くらいは商品が変わってくると思います。
開業当初は、自分が好きで販売したい商品や、修行時代や他店からアイディアをもらって販売を決めた商品など様々ありましたが開業して販売していくなかで「自分は好きだけどお客様はあまり購入されないな」「なぜかこれが売れるな」など少しずつ需要が分かってきて商品構成も変化してきました。
今でも作ってみたい商品はたくさんありますが販売まで至っていないものがたくさんあります。
これからも商品構成は変えていきたいと思っています。

 開業してから軌道に乗るまでの道のり


-開業してからリピーターを獲得するまでに工夫したことはありましたか?
現在、来店客の半数以上が常連客です。
開業当初は、忙しくて厨房から出てお客様に声をかけるということができなかったのですが、仕事が遅くなってもいいから積極的に声をかけていこうと思い、売り場に出るように心がけていきました。
その甲斐あって、お客様も職人に声をかけてもらえるのが嬉しいと感じていただけたのか来店頻度が増えて常連客になって下さいました。
今では、お客様がお店に料理を持ち込んで「ガルテン会~弥生台Night~」というのを開催したり、お客様の家でBBQをするほどの仲になっています。

-お店が軌道に乗るまではどのくらい時間がかかりましたか?
世の中の情勢で材料の価格高騰や人件費などで毎月波があるため、開業して7年経った今でも赤字の月もありますし、ある程度販売数を予測して作っていてもたくさん売れ残る日もあります。
今でも「乗っていると言えば乗っている」し「乗っていないと言えば乗っていない」かもしれないです。

‐開業する前のコンセプトとして地域密着と掲げていましたが、開業してからどのようなことをされましたか?
『地域密着』を掲げて開業を進めていましたが、ふと「地域密着って何だろう」と考えたことがありました。
その時にちょうど近隣の保育園よりバザーの出店依頼がありました。
開業したばかりで忙しかったのと、また今までの修行先では受けたことが無かったため一度断りました。
しかし、断った後にふと「今のを断ってしまったことで他のパン屋さんが受けるんだよな」と思い、どうせならいい材料を使ったいいパンを食べてもらいたいという想いが強くなりました。
そのこともあり、以後保育園や幼稚園から依頼があるバザーは受けるようにしています。
ただし、1つ条件があって「お母さま方が自分の子供たちにトーンガルテンのパンを食べさせたい」という想いが無いと受けないようにしています。
また、昨年の11月も近隣の小学校の3年生とともにパンの商品開発を行いました。
町のイラストマップを作成するという総合の授業で周辺を散策中、お店にインタビューに来ました。
その流れで、代表の子がアポ取りから商品を考えるまで約半年間かけてやり取りを進めて商品開発を行いました。
最後は親御さんも出席される総合発表の時間で、出来上がった商品を小学生とともにお披露目までして交流を深めました。

▲バザーに出店した近隣の幼稚園からのかわいい感謝状が届きました。

▲商品開発をともに行った近隣の小学生からのお手紙を厨房に貼って日々の励みに

▲小学生との商品開発が地元のタウン誌に掲載

-開業するメリットデメリットを教えてください。
メリットは、お客様や従業員に私自身を育ててもらえることです。
自分に足りない心の部分や勉強するべき知識の面、考え方などをお客様から勉強させていただくことが多いです。
お客様から差し入れをいただく機会もあり気になって、なぜこんなに優しくしていただけるのか聞いたところ、「私は他の人から優しさをもらっているの。その分を中川さんにあげているだけだから気にしなくていいのよ。」と言っていただきました。その分、自分からもお客様に返していきたいと思っています。たくさんパンを買ってくれた人には小分けにしたバターを渡したり、パン屋に来店して「良いことがあった」と感じてもらえればいいなと思います。

デメリットは、家族の時間が少ないことです。開業して1年目は忙しくて家族の時間がなかなか取れず、子供に「お父さん、いつサラリーマンに戻れるの?」と言われてしまいました。今は、家にいる時は睡眠時間を削ってでも子供との時間をとるように心がけています。

⁻開業する方にアドバイスをお願いします。
世の中の流行に合ったターゲットとコンセプトを明確にすることが大切だと思います。
今の若者たちの舌は5日で変化すると言われているほど、世の中の食に対する変化のスピードが速いです。
そういう人たちに向けたパンを作っていくという中では、パンだけではなく臨機応変に色々なことを対応できる力が必要になってきます。
こだわりももちろん大切ですが、勉強して新しいことにどんどん挑戦していくチャレンジ精神も大切にしてほしいです。

今後のビジョンとは・・


もちろん、自分の思い描く『良いパン』を作り続けていくのが第一ですが、
将来はもっと近隣の方に安くて美味しいパンを食べていただけるように今の商品より少し価格の抑えたセカンドブランドを販売するための2号店を持ちたいと考えています。
理由としては、個人店で一番厳しいのが材料の価格高騰で1店舗だと倉庫の問題もあり痛手となる場合が多く、個人店だからこそそういう面も自分で守っていかなければいけません。
自分のお店が複数あれば、倉庫問題も解決でき、多く仕入れることで問屋さんからも材料を安く買えるという利点もあります。
また自分の売り出したいパンを提案する場所としても1号店と区別するためにいつかは持ちたいと思っています。

取材後記


地域密着というコンセプトのもと、近隣の方に寄り添ったお店作りをされている中川オーナー。
取材中も来店された常連のお客様とフランクにお話をされていたり、作業場には近隣の小学校、幼稚園からの御礼のお手紙が飾られていたりと心がほっこりする場面がたくさんありました。
また、中川オーナーのお言葉で「パンは日本のものではなく、ヨーロッパのものだから経営者がパン職人を目指している人たちにきちんと歴史を教えていかなければいけない。これがパン職人の使命で自分がパン業界に居る意味だと思っている」と仰っていたのが印象的でした。
パンに向けた情熱と、近隣のお客様を大切に思う気持ちが取材中何度もうかがうことができ、トーンガルテンさんのこれからとパン業界の未来が楽しみになりました。

取材協力


ドイツ語で「トーン=音」、「ガルテン=庭」という意味で、『昔の日本家屋の縁側におばあちゃんたちがお茶をしながらお話している』イメージのもと、町の憩いの場となれるようにいう想いを込めて名付けたそう。
お客様に満足してもらえるようにという想いを込めたこだわりのパンと中川オーナーの明るい人柄から現在は、常連客が集まる憩いの場として人気のお店。

ベッカライ トーン ガルテン
住所:〒245-0008  神奈川県横浜市泉区弥生台26‐2 Vell House1F
TEL:045-443-6338
営業時間:9:00~20:00
定休日:月曜日

関連URL
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