創業100年を目指す老舗洋菓子店。老舗ブランドを守り、地元で長く愛される商品展開の秘訣とは【採用事例】
こんにちは!
皆さんのお店では、商品ラインナップの変更や切り替えはどのようなタイミングで行っていますか。
新商品の人気が出て定番化したり、期間限定で販売予定の商品がそのまま既存商品になるなど、気が付けばラインナップが増えていたというのは、よくあることだと思います。
そこで、商品を厳選し種類数を減らすことも検討しながらラインナップを整えていくということが必要になってきます。
今回は、静岡県三島市で創業80年を超える老舗の「ララ洋菓子店」を取材しました。幅広い世代のお客様に受け入れられるよう、また、従業員の労働環境を改善していくには商品展開をどう進めていくかということが鍵となっているようです。
▼Profile
ララ洋菓子店 オーナーシェフ
菊川 儀明 氏
1965年静岡県三島市生まれ。あべの辻製菓技術学校、同グループフランス校卒業後、「オーボンヴュータン」(東京・世田谷)で河田勝彦氏に約4年間師事。その後再び渡仏し、リヨンのパティスリーで修行を重ねる。帰国後は家業の「ララ洋菓子店」に入社し、三代目社長となる。また、静岡県洋菓子協会理事や各団体の代表を務めるほか、製菓学校や実業高校、小中学校などでパティシエについての講義も多数行っている。
▼店舗概要
1932年創業の静岡県東部で最古と言われる老舗洋菓子店。現在、広小路本店(三島市)、萩店(三島市)、清水町サントムーン柿田川内店(駿東郡清水町)の3店舗を展開している。歴史は古く、広小路本店には昭和の文豪太宰治が通っていたというエピソードもある。三代目社長の儀明氏は、初代からの変わらぬ味のバームクーヘンや修行先で習得した焼き菓子などを揃えるとともに、フランス菓子の伝統を受け継ぐことを信条とした商品展開を行っている。約10年間、発売当初から人気の「いちごたっぷりロール」は、県内産いちごの紅ほっぺをたっぷり使用した見た目も豪華なロールケーキ。テレビなどメディアでも話題の商品となっている。
―洋菓子専門で創業80年を超えるお店は珍しく、貴重ですね。
「ララ洋菓子店」の始まりは広小路本店で、ケーキとコーヒーが楽しめる喫茶店のような形態でした。昭和初期のことですから、この地域では他に洋菓子を扱っているところは無かったと思います。現在は本店のほかに、萩店と商業施設内にある清水町サントムーン柿田川内店の2店舗がありますが、私が修行から戻ってきた後に開業したのが萩店です。萩店は高速の萩インターの近くなので、遠方やゴルフ帰りの方が立ち寄ってくれたりと、比較的男性客も多いんですよ。「いちごたっぷりロール」など、持ち帰りに便利なロールケーキは、そうしたお客様にもご好評いただいております。
3店舗の運営は、他に従業員もいますが基本的に家族経営で、父はパンの製造、母は販売、弟は配達など外回りといったように、それぞれの持ち場で働いています。家族経営というのは、世代の違いが考えの違いを生み、まとまりを欠く可能性というデメリットがある一方で、クリスマスの繁忙期は家族が一丸となって働けることで他の従業員の労働環境を守ることが出来るというメリットもあるのかなと思います。店を続けていくためには、そうした点をよく理解していくことが不可欠ですね。
―菊川シェフのお菓子作りにおける目指す方向性や修業時代についてお教えください。
ベーシックで純粋なフランス菓子を追求しています。それは製法や味だけでなく見た目も含めてのことで、例えば記念日のケーキをデコレーションするのに、フードプリンターではなく、マジパンや砂糖菓子で飾るとか。画期的な技術もいいけれど、私が大事にしていることは、古典のものや昔からの伝統を受け継ぐことです。
そして流行りを追わないこと。流行りを簡単に取り入れてしまうと、必ず終わりが来てしまいますから。ただ、今フランスで話題のパティシエのレシピを再現するということは、試しているんですよ。実際に食べに行くことが難しい分、再現したくなってしまうという思いがあり、やってみるといい刺激が得られます。
修業は、国内では「オーボンヴュータン」で4年間、フランスのリヨンで2軒、その後パリの店に移ろうとした矢先に湾岸戦争で帰国を余儀なくされました。「オーボンヴュータン」で習得した内容は、フランスでの修業にとても役立ちました。シェフに『どんなことが出来るのか』と問われて実際にいろいろ作って見せたところ、力を認められて実際にたくさん仕事を任せてもらえました。今も新商品を作る時など、修行時代の師匠たちならどうするかな、フランス人ならどのような考え方をするかなと考えたりします。
―菊川シェフが三代目となってから、商品ラインナップはどのように変わりましたか。
昭和30年代からの看板商品ベビーシューや創業以来作り続けているバウムクーヘンは変えていませんが、マドレーヌは変わりましたね。昔はパンドジェンヌのような型に入れて焼いていましたが、今はシェル型ですので見た目も違います。他にも、焼き菓子のラインナップはかなり変わりました。全種類が揃う時はあまり無いかもしれません。というのは、開店時に全て揃えることにこだわっていないからです。午前と午後で商品が違っていてもいいのではないかと思っていて、その方が変化があって楽しめると思うんです。それによって従業員の早朝出勤が必要なくなるのも大きいですね。
生菓子は現在12~15種類くらいで、以前より少なくし、内容も変わっています。例えばモンブランのクリームは、今は栗の渋皮煮を使用していますが、昔は白あんベースに栗の甘露煮を使ったいわゆる黄色いモンブランでした。黄色いモンブランから今のモンブランに入れ替えを行う際、黄色いモンブランには既にファンがいますから、どうしたらいいか当時は悩みました。そこで、新しく売り出す商品を半額セールにして、とにかく多くの方に食べていただくようにしました。結果、次第に新しいモンブランを選んでくれる方が増えていって、無事入れ替えが完了したんです。
ドゥマールのフレキシパンで製造効率アップ
―モンブランの製造にドゥマールの「フレキシパン オリジン」を使用していただいていますが、使い勝手はいかがですか。
焼成から冷凍まで使えるので、モンブランの製造に欠かせないアイテムです。モンブランの量産が可能になったのは、ドゥマールのフレキシパンのおかげですね。フレキシパンにメレンゲと生クリームを入れ、あとはマロンクリームを絞れば完成という状態で冷凍庫に入れてストックしておけますから。
昔の黄色いモンブランでは、こうした過程でのストックが出来ず、注文を受けて最初から最後まで作り上げる仕事になっていました。冷凍してストック出来るということで計画生産を行い、従業員が規定の労働時間内に仕事を終えられることに繋げられています。
その日の作業を進める中で、手が空いたらモンブランを仕込んでおいてね、という風に指示できます。時間が無ければ明日でもいいからと言えるくらいの余裕を持つことが出来ます。
―ドゥマールの新商品「フレキシパン インスピレーション」を使用したムースケーキ「セル・ポワ・エルブ」についてお教えください。
「セル・ポワ・エルブ」のリング状のムース部分は、「フレキシパン インスピレーション」を2種類組み合わせて作っています。トップのキューブ形のゼリーも「フレキシパン インスピレーション」の四角の型を使用しています。「フレキシパン インスピレーション」は焼き菓子にも使えますが、ムースやゼリーを冷やし固めるのにも向いていますね。立体構造のケーキが手際よく作れて、応用の幅も広いと思います。薄くて軽く、型離れもいいといった作業性に優れている点が気に入っています。中に入れた生地が冷え固まりやすいですし、洗浄しやすく、置いておく場所もとらないですから。
▲全粒粉ガレット、塩胡椒、ハーブでアクセントを付けたキャラメルのムース、台湾パインとバナナを合わせたゼリーなどで構成された「セル・ポワ・エルブ」。キャラメルのムースは、中にクルミのキャラメルを一周入れた二重構造で、「フレキシパン インスピレーション 3Dリング」と「フレキシパン インスピレーション 3Dリング用インサート」を使用。トップのゼリーは、「フレキシパン インスピレーション キューブ」を使った、 エッジの利いた四角いデザインとなっている
▲「セル・ポワ・エルブ」に使用している「フレキシパン インスピレーション キューブ」と 「フレキシパン インスピレーション 3Dリング」
編集後記
菊川シェフご自身が小さかった頃にお店の前で遊んでいた時のことを懐かしんで話す常連のお客様がいらっしゃるそうです。
シェフや従業員が世代交代をしていく中で、お客様にずっとファンでいてもらうということは、老舗ならではの悩みなのだと思います。菊川シェフのモンブランは、今ではすっかり定番人気ですが、切り替え時は新旧それぞれの存在価値をどうやって認知していただくかという点で苦労されたのだと思いました。
商品を切り替えると同時に、製造に使う器具や材料、従業員の働き方までが変わります。こうした変化への対応が、老舗を守り続けていくために必要なのだと感じました。
取材協力
ララ洋菓子 萩店
住所:静岡県三島市萩66 GoogleMapで見る
TEL:055-987-7499営業時間:9:30~18:00
定休日:水曜日
HP:https://arigateaux.com/