2021/11/12

「アマゾンの雫」と呼ばれる宝石のように小さなピーマン【Chef’s choice vol.04】 

ブロヴェール社の『ミニ ポワヴロン』

Chef’s choiceとは…
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何を選び、どう使うか。
“これはいいね”とシェフが選ぶ素材を料理にどう展開するのか……。
素材を軸にしたシェフの読みをひも解きます。

不定期になりますが、本マガジンでひとつの素材をテーマに「Chef’s choice」を配信していきます。

今回は、ブロヴェール社の『ミニ ポワヴロン』。
アマゾンの雫ともいわれる小さなピーマンをシェフはどう料理に活かすのだろう。

今回、この素材についてご意見をいただたシェフは、
レストラン ラフィナージュ(東京・銀座)オーナーシェフ 高良 康之さんです。


小さなピーマン「ミニ ポワヴロン」の大きな活躍
~独特の形・味・食感について~



ー「ミニ ポワヴロン」はとても珍しい形で、ピーマンのようにも唐辛子のようにもみえると言われますね。

はい、これはペルー産の小粒の品種のピーマンの酢漬けです。フランスではピーマンのことを〝ポワヴロン〟と言いますがこんなに小さなピーマンがあるんですね。私も知りませんでした。

形が小さな雫型なので原産地のペルーでは〝アマゾンの涙〟や〝アマゾンの雫〟と呼ばれているそうです。

ユーモアのあるピーマンですね。カットして広げればハート形になってとてもかわいいんです。サイズは小さいですが目立つので、ご覧になったお客様から「これ、トマトじゃない?」とか、「初めて見るけれど、これなんですか?」とよく聞かれます。

「ピーマンです。」とご説明すると皆さん随分驚かれて、そこが入口になって、お客様と会話がつながっていきます。

 

ーミニ ポワヴロンの味や食感についてはいかがでしょうか? どんな料理に使えるのでしょうか?

小粒のピーマンの酢漬け、つまりピクルスですからもちろん酸っぱいのですが「ミニ ポワヴロン」の実が甘みを持っていますから、コルニッションなどに比べれば酸味を帯びた甘みがあるというか、味的には甘酸っぱいイメージです。

「ミニ ポワヴロン」は酸味で風味を引き締めながらも、甘みで他の要素とつながっていく。つまり、アクセントとしてだけではなく一粒置くことで全体の味をつなぐようなイメージです。

他のピクルスにはなかなかありませんね。使い勝手が凄くよくて、そのままでもいろいろと使えますし、焼いてもおいしいです。

たとえばケーク・サレの生地を型に流す時にちょっと入れてあげるだけで、今までにないとてもお洒落なアミューズブーシュが提供できます。

お料理のスタートに「どうぞゆっくりとお楽しみください。」という私たちの気持ちをお客様に伝えやすい、センスを感じる素材ですね。

 

「ミニ ポワヴロン」をこう使う①


「ミニ ポワヴロン」の持っている酸味と甘みで、肉の脂がもっている旨味の余韻をゆっくりと楽しませる。

パテ・ド・カンパーニュ

▲パテ・ド・カンパーニュ

ー高良シェフは可愛らしいピーマンのピクルスをどのようなお料理にお使いになったのでしょうか。ご紹介いただけますか。

まず、〝パテ・ド・カンパーニュ〟に使ってみました。いかがですか? まず見た目から通常の〝パテ・ド・カンパーニュ〟ではありませんよね。

普通は皿の上に切ったパテの塊がドンと置かれ、サラダとコルニッションがついているイメージですが、「ミニ ポワヴロン」を使うとかなり違った表現ができます。

今回は〝パテ・ド・カンパーニュ〟の表面をカリカリに焼いて、そこに香ばしく炒った胡麻を敷き、「ミニ ポワヴロン」を添えて一緒にお召し上がりいただく形にしてみました。

「ミニ ポワヴロン」はピクルスとしての酸味だけでなく、実自体が甘みを持っていますから、この香ばしさと凄く相性がいいのです。

〝パテ・ド・カンパーニュ〟の凝縮された肉の旨みと胡麻の香ばしい風味に「ミニ ポワヴロン」の甘みと酸味が加わることで全体が一つにつながります。

通常コルニッションなど酸味のあるピクルスを添えるのは、肉の脂分から口の中をさっぱりとさせることが役割なのですが、「ミニ ポワヴロン」が肉の旨みや脂と一体化することによって、しっとりとした旨みの余韻をお楽しみいただけます。

「ミニ ポワヴロン」には、実の中に小さな種がありますがまったく気になりませんし、炒った胡麻と一緒になることでいい食感を楽しめます。

 

ーなるほど、「ミニ ポワヴロン」はピクルスとしての酸味だけではなくて、甘みを持っているところがいいのですね。

今回は〝パテ・ド・カンパーニュ〟を前菜として盛り付けましたが、さらに一口で食べられる大きさに切って、ハート形に開いた「ミニ ポワヴロン」と一緒に松葉串に刺してアペリティフのアミューズブーシュとしてもお出ししています。

目の前に出てきた見たことのないハートの形をじっと見入ってしまうお客様もいますし、「これ、何ですか?」とスタッフに聞かれるお客様もいます。

「ミニ ポワヴロン」

一番最初にお出しするアペリティフのアミューズブーシュは手で取ってもらうのを前提に私は考えていて、こうした手でつまんで食べる一皿を最初にお出しすることによってお客様も緊張感が解けて、そこからお話が広がっていきます。

リラックスした雰囲気で次に続く前菜、メインへの流れができて、皆さんにとても喜んでいただいています。「ミニ ポワヴロン」の小さな一粒は最初の〝つかみ〟としてお客様をグッと引き寄せてくれて、とても評判がいいです。

 

「ミニ ポワヴロン」をこう使う②


大粒と小粒を使い分け、滑らかな料理には大粒の「ミニ ポワヴロン」をカットして種を取って使う。

トマトのジュレを纏ったオマール海老とパプリカのムースのコンビネーション

▲トマトのジュレを纏ったオマール海老とパプリカのムースのコンビネーション

  

ーたくさんの素材をジュレでまとめるなめらかなお料理の中で、「ミニ ポワヴロン」はどのような役割を果たしているのでしょうか?

次の料理で「ミニ ポワヴロン」は味の面でも、食感や見た目の面でも他の素材ではできない役割を果たしてくれています。

まず、パプリカのムースを皿に敷きます。そこに半割にしたトマトに塩を軽くあててエキスだけを落として透明なジュレをつくり重ねます。

トマトの酸味とパプリカムースの甘みに、キャビアで塩気をほんの少しのせてあげて、あとはそこにブランシールしたオマール海老の旨みを加えますが、その時にトマトのジュレに同調する酸味のアクセントがもう少しだけ欲しい。

だからといってビネガーで酸味を補うとトマトのジュレが持っている酸味のフレッシュ感をビネガーの発酵感が隠してしまいますし、酸味のニュアンスが強すぎます。

だから酸味と甘みを持っている、この「ミニ ポワヴロン」を一緒にのせます。

トマトかと思って食べたら、歯ごたえも違うし甘酸っぱい。ちょっとした驚きを演出できますね。最初は下に敷いたパプリカの甘いムースに合わせて野菜は数種類加えようと考えていたのですが、キャビアの塩味があって、オマール海老の旨みがありますから、あまりたくさん加えると味も食感も忙しくなってしまいます。

ですから、なるべくトマトに近いものがいいなと思っていたら、「なんだ、ここにあるじゃない。」ということで「ミニ ポワヴロン」を使いました。

全体的な酸味のバランスも凄くいいし、キャビアの塩味もありますから、複雑に見える一皿ですが、その中でオマール海老が甘く際立ってとてもシンプルな味わいです。

 

ー「ミニ ポワヴロン」には小さな粒と大きな粒がありますが、使い分けされていますか?

 はい。「ミニ ポワヴロン」は中に種があることはお話ししましたが、この料理のようになめらかさを楽しむ料理では、種は口に当たって欲しくありません。

ですから「ミニ ポワヴロン」を半分に切って中の種を取ってから使います。

ゼリーやムースを使った料理の時には、粒の大きい方を選んで種を外しています。先ほどの〝パテ・ド・カンパーニュ〟の場合はパテに食感がありますし、炒った胡麻も一緒ですので種を外す必要はなく、むしろ種も一緒に楽しむ方がいいと思います。ですから小さい粒の物を使います。

要するに食感があるものに対しては種があってもいいので小粒を丸のまま、なめらかな料理の場合には大粒の種を取って使うというように選んで使い分けています。

 

「ミニ ポワヴロン」をこう使う③


視覚的なアクセントとして使い、楽しさを演出する。

栃木県産ヤシオマスの瞬間スモーク 藁の香り

▲栃木県産ヤシオマスの瞬間スモーク 藁の香り

ーイカ墨のガレットやペンタスと一緒に飾られた「ミニ ポワヴロン」はとてもかわいいですね。女性のお客様にはたまらない演出ではないでしょうか。

その通りです。この料理はヤシオマスを塩、コリアンダー、白胡椒でマリネし、一旦塩を抜いてオリーブオイルに一週間漬け込んだものを皮面だけ焼いてあげて、ココットの中に入れて藁で燻したものです。

それをお客様の席でココットの蓋を開けてプレゼンし、一旦調理場に戻して皿に盛ってサービスします。

ソースはホースラディッシュ、パセリとセルフィーユを鶏のブイヨンで炊いて、コク出しにフルム・ダンベールを入れミキサーで乳化させたものを添えます。

ここに足りないのが酸味で、通常ならサワークリームなどを使うのですが、今回は「ミニ ポワヴロン」を添えました。

料理のおいしさはもちろんですが、藁の燻煙が上がるプレゼンテーションと、「ミニ ポワヴロン」を使った楽しい盛り付けでお客様には二度喜んでいただけます。

「ミニ ポワヴロン」の魅力は何と言っても視覚的なアクセントになる部分が一番大きいですね。思わず目に触れる場所に盛り付けたくなります。

使っていて楽しい素材なので、これからもっと使い方を工夫したいと思います。

  

▼出典元
“素材の品質と作り手の心を料理の現場へ伝える”食材情報誌「素材のちから」
公式サイト:http://www.sozainochikara.jp/
紙面情報などは、ぜひ上記URLからご覧ください。
※この記事は素材のちからより許諾を得て紙面の一部の内容を転載しております。

 

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