2022/04/28

生き生きと働ける業界を目指して(前編)

合同会社
HIJライブラリ代表 
澤田淳一 氏キーワードは“学び”。働きがいを感じる環境づくり


離職率の高い日本のパン業界。その課題のひとつに長時間労働が挙げられます。その背景には、パン作りは職人の腕に頼ることが多く、機械によるオートメーション化を進めにくいことがあります。 一方で「パン職人になりたい!」と毎年大勢の人がパン業界に入ります。

しかし、職人技術の習得のための厳しい修業や忙しすぎる日々に、本来の目標や目的を忘れ、志半ばで諦める人も少なくありません。

今回お話を伺った澤田淳一氏は、合同会社HIJライブラリ代表でベーカリー2店舗のオーナーシェフを務めています。ドイツ留学中に得た知見を生かしながら、生き生きと働けるお店づくり、さらにはその様な業界を目指して行動しています。

▼目次
・ドイツで知った「生き生きと働く素晴らしさ」
・学びながら職人を続けられる社会に
・「ベーカリー」のフィールドで飲食業のプロを育てる
・お店のコンセプトも、制服も、決めるのは現場で働くスタッフ
・お客様とつながる
・AIカメラを活用し、食品ロス削減、労働時間削減の経営改革

合同会社
HIJライブラリ代表 
澤田淳一 氏

合同会社
HIJライブラリ代表 

澤田淳一 氏

▼Profile
1980年生まれ。愛知県半田市出身。高校卒業後大阪の製パン専門学校で製パンの基礎を身につけ、2000年19歳でドイツへ渡りベーカリーで5年間修業。帰国後、愛知県内のベーカリーで9年間勤務し2014年名古屋製菓専門学校製パン科講師に。2017年、パン職人の世界大会「クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・ブーランジュリー」の飾りパン部門国内最終選考に進出(2020年にも最終選考進出)。2019年愛知県江南市に「ベーカリー・ハンス・ペーター」をオープン。2021年愛知県日進市に2店舗目となる「BREAD IWASAKIDAI(ブレッド イワサキダイ)」をオープン。

 

ドイツで知った「生き生きと働く素晴らしさ」

合同会社
HIJライブラリ代表 
澤田淳一 氏

“HIJライブラリ”というこのユニークな社名は、「“H:ハンドベルカー(ドイツ語で“職人”)“」、「“I:インダストリー4.0(第4次産業革命)”」、「“J:ジャパン”」と、「ライブラリ(library:“図書館”とIT用語のライブラリの意味)」という意味で「食品業界で働く職人が、学びながら職人を続けられる社会を作りたい」という思いから、2019年に設立しました。現在、19歳から28歳まで12人の社員がいます。

私は19歳でドイツに渡り、初めて社会人となり勤務した場所がドイツでした。パン職人として朝から晩まで働いていましたが、休みの日はしっかり確保でき、季節ごとに長期休暇も与えられ充実した日々を過ごして「生き生きと働く素晴らしさ」を知りました。

 

学びながら職人を続けられる社会に


5年間ドイツで過ごし日本へ帰国してみると、日本で働く人たちがとても疲弊しているように見えて、大きなショックを受けました。就職した愛知県内のベーカリーでは、長時間労働などの働く環境の改善を9年にわたり実践しましたが、なかなか成果が出せず、パン業界の良くないところを感じながらも、1人の力の限界を感じました。

そこで、別のアプローチで若い力を育てようと思い専門学校の教師になりました。5年間で300人の生徒と関わる中で、「学びは人を変革させること」を私自身が生徒から学びました。多くの先輩方の協力があって今の自分があることに心から感謝しています。次の若い世代にもパン業界での学びを伝えたいと思うようになり、会社を立ち上げることにしました。

 

「ベーカリー」のフィールドで飲食業のプロを育てる


パンの製造販売を行いながら、人手不足をはじめとするパン(食品)業界の課題を解決するために尽力しています。スタッフが学びを得られる場を作り、学んでいるスタッフの伴走者として支援する姿勢をとっています。

お客様にとっては“町のベーカリーですが、私とスタッフたちにとって店は「学びの場」でもあるんです。ベーカリーというフィールドで、パンの製造販売はもちろんのこと、広い視野に立ち飲食業全般について学ぶなかで、生き生きと働けることの素晴らしさを伝えたい。スタッフの得意分野を尊重しながら適材適所を考えることも大切です。

そして最終的には飲食業で活躍できるプロフェッショナルな人材を育成したいと思っています。各人がもつ能力を、社内にとどめておくという考え方でなく、その人にマッチする職場を探して、パン・食品業界の発展のために輩出することを目指しています。

 

お店のコンセプトも、制服も、決めるのは現場で働くスタッフ

また、スタッフが着る制服もスタッフ自身で選びました。衛生面は守りながらも、できる限りのオシャレや個性を大切にしています。

お店のコンセプトは働くスタッフが話し合って決めました。店名のハンス・ペーターは、ドイツ修業時代にお世話になったシェフの名前。店のコンセプトは「友達ん家(ともだちんち)」です。お客様が友達の家に遊びに行くような気持ちで来て欲しい。気軽に行きたくなるような場所にしたいです。

ブレッド イワサキダイのコンセプトは「ワクワクを形に“meet with bread”パンから始まるモノ・コト・発見」です。コミュニティを作ったり、作ったものの価値をお客様に伝える場でもあります。

「ベーカリー・ハンス・ペーター」では、食パン、フランスパンなどのハード系をはじめとする食事パン、クロワッサンなどが人気です。

お客様とつながる


地域のお客様とのコミュニケーションを大切にしています。来店したお客様に、寒い季節には温かいお茶を、暑い季節には冷たいお茶を提供し、お茶を飲みながらパンを選んでいただいています。

全てのスタッフが販売と製造を担当するため、全員がお客様からのご質問に対応できます。また「バスケットを持ってパンを買いに来てピクニックに出かけよう!!」といったイベントを企画するなど、パンのある生活の楽しさを伝え、地域の活性化につなげています。

AIカメラを活用し、食品ロス削減、労働時間削減の経営改革

ブレッド イワサキダイでは、AIカメラと連動した、セミセルフスタイルのPOSレジを利用しています。AIカメラにより、レジ作業の時間が短縮され、お客様とより丁寧なコミュニケーションが取れるようになりました。

また、来店されたお客様がリピーターか、初めて来店された方なのかを分析したり、購入実績を確認しています。

さらに近隣の大学と共同研究をしてお天気などの情報とAIカメラのデータから販売傾向を分析し、製造数をコントロールすることで食品ロス削減、コストと労働時間の削減に取り組んでいます。

飲食業に関わる人の労働時間を30分でも短縮し、その時間で心と身体を休めモチベーションを維持して何かの学びにつなげる時間に充ててもらうのが理想です。 “ベテランの勘”だけに頼っていた需要予測を「勘+データ」で考えられるように、データ分析の勉強会も開いています。

後編へ続く

 

▼取材協力


BREAD IWASAKIDAI(ブレッド イワサキダイ)
住所:〒470-0135 愛知県日進市岩崎台4丁目412 ATTE岩崎台1F(GoogleMapで見る
TEL:045-482-9402
営業時間: 月 10〜15時
木・金 10〜19時
土・日・祝日 9〜18時
定休日: 火曜日・水曜日
☞BREAD IWASAKIDAI(ブレッド イワサキダイ)公式Instagram
BAKERY HANS PETER(ベーカリー・ハンス・ペーター)
住所:〒483-8213 愛知県江南市古知野町朝日50 青山ビル 1F(GoogleMapで見る
TEL:0587-51-3466
営業時間:10:00~19:00
定休日:日曜日・月曜日・火曜日
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