2022/05/02

生き生きと働ける業界を目指して(後編)

合同会社HIJライブラリ代表澤田淳一氏次世代を育てるためにすべきこと


ベーカリーを学びの場と捉え、「スタッフの伴走者」という姿勢でスタッフを教育している合同会社HIJライブラリ代表澤田淳一氏のインタビューの後編です。

愛知県内でベーカリーを2店舗運営し、12人のスタッフとどのように接し教育しているのか、パン業界の現状をどのように捉え変えていきたいと思っているのかについて、今後のビジョンとともにお話を伺いました。

前編はこちらから

▼目次
・1人1人と向き合うスタッフ教育

・勤務時間の短縮化で仕事の質がアップ
・パン業界の先人に感謝しながら次世代を担う
・プロフェッショナルが育ちにくい
・離職問題に立ち向かって
・パン業界を魅力的でワクワクする仕事に
・編集後記

合同会社HIJライブラリ代表澤田淳一氏

合同会社
HIJライブラリ代表 

澤田淳一 氏

▼Profile
1980年生まれ。愛知県半田市出身。高校卒業後大阪の製パン専門学校で製パンの基礎を身につけ、2000年19歳でドイツへ渡りベーカリーで5年間修業。帰国後、愛知県内のベーカリーで9年間勤務し2014年名古屋製菓専門学校製パン科講師に。2017年、パン職人の世界大会「クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・ブーランジュリー」の飾りパン部門国内最終選考に進出(2020年にも最終選考進出)。2019年愛知県江南市に「ベーカリー・ハンス・ペーター」をオープン。2021年愛知県日進市に2店舗目となる「BREAD IWASAKIDAI(ブレッド イワサキダイ)」をオープン。

 

1人1人と向き合うスタッフ教育

合同会社HIJライブラリ代表澤田淳一氏

ベーカリー運営の教育だけではなく、十人十色の個性をもつスタッフの得意分野を生かせるよう、よく見て理解することに時間をかけています。1人1人と向き合い、話を聞いて信頼関係を作り、その人に合った得意分野の業務を任せています。

1対1の面談を定期的に行うだけでなく、中小企業診断士のカウンセラーに相談できる環境を作り、私に相談しにくいことでも伝えられるような環境を整えています。

ミーティングでは、人の話を聞くトレーニングや自分の意見を発表するトレーニングも行っています。この時間があることで、スタッフ同士に深い信頼関係が生まれ、仲間を大切にすることで日々の業務が円滑に進むことにつながりました。

また、ブレッド イワサキダイの厨房は広く、講師を招いて製パンの技術や理論を習得することができ、大きな刺激になっています。

 

勤務時間の短縮化で仕事の質がアップ

ブレッド イワサキダイのパン

バラエティ豊かなパン
仕込み生地数を少なくして、1つの生地から多くのバラエティ豊かなパンを作ることで作業時間を短縮しています。また、原材料の数を絞り、在庫管理や発注の時間短縮をしています。

ベーカリー・ハンス・ペーターは週休3日、ブレッド イワサキダイは週休2日に設定し、夏期や年末は1週間程度の長期休暇を設けています。休みをしっかり確保することでそれぞれの趣味や学びの時間につながります。結果、仕事の質も上がっていると思います。2店舗で定休日が異なるので、たくさん働きたいスタッフは、自分の店が休みの日にもう一方の店に勤務することが可能です。

パン業界の先人に感謝しながら次世代を担う


これからを担う世代には業務時間もプライベートな時間も大切にして、豊かな人生を送って欲しいです。先輩方が確立してくれた製パン法や機械、材料があるからこそ、いま自分が理想とするパンを作れる環境にあると知ってほしいです。

また今まで日本のパン業界を築いてくださった方々に深く感謝しながら、次の若いスタッフにバトンをつないでもらいたいと思います。学んだ技術や思いを継承してもらい、環境変化に対応しながら後輩を育て、次にバトンをつなげられる職人になってもらうことを目標としています。 

私は過去に2度クープ・デュ・モンドの飾りパン部門に挑戦しました。

クープ・デュ・モンドの飾りパン部門に挑戦
この挑戦をきっかけに多くのことを学び、業務を細分化し、1つずつ丁寧に考える能力がついたと思っています。それは若い職人に技術を伝える時に役立っています。

クープ・デュ・モンドの飾りパン部門に挑戦
また、多くの出会いがあったことは大きな収穫でした。若い職人にも何か目標を定めて挑戦して欲しいと思います。

プロフェッショナルが育ちにくい


昨今のパン業界では、多店舗展開する大規模ベーカリーと個人で小規模ベーカリーの二極化が進んでいると思います。

多店舗展開のベーカリーでは、職人の仕事を単純化することが重視されるため、将来ベーカリーを開業したい職人が起業スキルを身につけるのが困難ですし、個人経営の小規模ベーカリーは、オーナー1人や夫婦で経営しているので、若い職人を雇わないことが多いです。どちらの業態でもプロフェッショナルな人材は育ちにくい環境だと思っています。

離職問題に立ち向かって


ベーカリーをはじめ、食品業界の離職問題は切実です。ベーカリーに就職してもすぐに離職してしまう人がたくさんいます。私も専門学校時代の教え子たちからよく相談を受けています。また、経営者側は人材確保に困っているのが現状です。

このような状況を解決するために、職場探しを手助けし、雇用者と職人が出会う場となる「人材育成機能をもつプラットフォーム」を拡充させたいです。悩みを抱えた職人の話を聞き、その人の長所を活かせるような取り組みをしていきたいです。これはベーカリーの持続化、業界の活性化につながると思っています。

この問題に取り組み始めてから数年が経過しましたが、賛同してくれる人が増えてきました。実際に若手の職人を新しい職場に紹介したこともあります。しかしまだ十分とは言えません。今後は賛同者をもっと増やし、世代、業界、立場を超えて共感の輪が広がるよう活動を続けていきます。

パン業界を魅力的でワクワクする仕事に
BREAD IWASAKIDAI(ブレッド イワサキダイ)

飲食業界はもちろん、パン業界をさらに魅力的でワクワクする仕事に変えていきたいです。

原材料メーカー、納入業者、ベーカリーオーナー、スタッフ、お客様…、全ての立場の人の心が豊かであることが理想です。AI予測を活用しフードロスを減らすことも継続課題です。他には、ドローンを利用して焼きたてのパンを運ぶような面白い取り組みもしてみたい。

そして10年後にはアジアのどこかにパンの専門学校を設立できたら…。自分自身は、若い世代を信頼して任せて口出しはしない。彼らが本当に困った時は助けて、責任を取れる人でいるのが理想です。

編集後記


パン業界の先人に敬意を表しつつ、後輩と共に考え伴走する澤田氏の姿はとても頼もしく、若いパン職人にとって心強い存在だと感じました。働きがいやワクワクを再認識し、充実した人生を送る職人が増え、自分が受けた恩を次の世代に返し、バトンを引き継いで続けていくことが、ベーカリーはもとよりパン業界の発展につながっていくのだと思いました。

 

▼取材協力


BREAD IWASAKIDAI(ブレッド イワサキダイ)

BREAD IWASAKIDAI(ブレッド イワサキダイ)
住所:〒470-0135 愛知県日進市岩崎台4丁目412 ATTE岩崎台1F(GoogleMapで見る
TEL:045-482-9402
営業時間: 月 10〜15時
木・金 10〜19時
土・日・祝日 9〜18時
定休日: 火曜日・水曜日
☞BREAD IWASAKIDAI(ブレッド イワサキダイ)公式instagram
BAKERY HANS PETER(ベーカリー・ハンス・ペーター)
住所:〒483-8213 愛知県江南市古知野町朝日50 青山ビル 1F(GoogleMapで見る
TEL:0587-51-3466
営業時間:10:00~19:00
定休日:日曜日・月曜日・火曜日
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