2025/01/16

【講習会レポート】「ラ ブランジェ リシェ」遠藤信行シェフ 製パン講習会

国内外のインスタフォロワー数12万人! 世界が注目するブーランジェ! 

 焼き立てパン屋”ではなく、付加価値を付けたパンで“売り切りパン屋”にする」「ラ ブランジェ リシェ」遠藤信行シェフの講習会で印象的な言葉でした。「どんどん質問してください。なんでも答えます!」と、参加者に気さくに話しかけて会場の雰囲気も和らげてくださいました。 講習会でパンづくりにおけるヒントを惜しげもなく披露してくれた遠藤シェフ。この記事ではそんな講習会の様子を少しだけご紹介します。 

遠藤信行 氏遠藤信行 氏
La Boulangerie Richer(ラ ブランジェ リシェ)
シェフ・マネージャー 

セドリック・グロレ氏のインスタグラム投稿に触発され、ヴィエノワズリーに力を入れ始めたのが4年前。ご自身のインスタグラムのフォロワーも今や12万人以上。コメント欄には海外からのメッセージも見られ、「〇〇の配合が知りたい」という質問にも、あっさり種明かしをされています。 

 多くの方がご存じかと思いますが、遠藤シェフの経歴はパン職人としては少し変わっています。「私は1966年新潟県生まれです。高校を卒業後、㈱にいがたエネルギーに就職し、ガソリンスタンドで働き始めました。あるとき会社がベーカリー部門を立ち上げ、経験がないままパン屋になることになり、修業することなく独学でパンを焼き始めました」(遠藤シェフ) 

高付加価値のヴィエノワズリーの作り方 

今回、遠藤シェフが実演されたのは「クロワッサン」「パン・オ・ショコラ」「クロワッサン・ピスターシュ」「パン・オ・ショコラ・ピスターシュ」「パン・スイス」「キャラメル・リボン」、さらに予定になかった球体のクロワッサンとフランせていただきました。 

まずはパン・オ・ショコラの折り込みからスタート。
美しい層を作るためのひとつめのこだわりがバターの包み方でした。デトランプの上にバターを置いたら両端の生地をバターの中央線で向かい合うように畳み、接着します。「フランス産バターはやや硬めなので、生地も冷えているほうが作業しやすい」(遠藤シェフ)シーターに通して生地を伸ばしたら、4つ折りを1回、その後、3つ折りを1回。折った層がずれるのを防ぐために、手粉はつけないと言います。きれいに層が出るように折り山にはカッターで切り目を入れます。その後、-20℃で30分間冷凍。
冷凍庫から取り出した生地の上面に霧を吹いて皮生地と接着。生地と皮生地は仕込み日が別でも問題無い。皮生地は5日~1週間の保管が可能。皮生地を接着させたら厚さ3mmに伸ばします。そして再び冷凍庫へ。
休ませた生地を取り出し、分割・成形に進みます。生地の折り山側の辺をスパッと切り落とし、シェフがひと言。「この部分はお宝です」。ヴィエノワズリーの生地は基本、折り込んだその日に成形し、焼成し、販売するのが「ラ ブランジェ リシェ」のスタイルですが、このお宝だけ冷蔵庫で保存され、再生の日を待ちます。1週間は保存可能。 

バトンショコラは地元のパティスリーでオリジナルを作ってもらう 

長さ30cm、幅5.5cmに切り分けられた生地には、バトンショコラ2本が巻き込まれます。普段お店で出している「パン・オ・ショコラ」では、シェフ曰く「市販のバトンショコラは冷めると元の硬さに戻ってしまうのが残念で、とろっとした状態を持続させたいと思い、地元のパティスリーアンジュ さんに頼んで、クーベルチュールを使いぴったりのサイズの棒状に作ってもらっています。長さがきっちり決まっていれば、生地から飛び出して無駄にすることもありません。そうです。飛び出したらうちでは商品にはなりません! チョコレートに塩を加えてもらったり、季節で味を変えてもらえるし、店同士でコラボすることがお互いのプラスになっています」とのこと。

成形後の生地はシルパンを敷いた天板に並べられます。120分の発酵後、焼成前にドリュールを塗るのですが、ここにも遠藤シェフの美学が発揮されます。「塗りっぱなしにはしません。9割方塗り終わったら、必ず刷毛で余分をとります」高付加価値の商品にするためには、隅々にまで気を遣う必要があります。
光沢ある皮生地の焼き色の秘密は、ドリュールの配合にありました。卵黄と生クリーム、そして独特の色を出すハチミツです。

 

バイカラーの皮生地に医療用メスで切り目を入れる 

パン・オ・ショコラに緑色に着色した生地を付けたバイカラータイプの「パン・オ・ショコラ・ピスターシュ」は、参加者もカットの体験をしました。皮生地を土台生地に貼り付けて伸ばし、カットするまではパン・オ・ショコラと同じです。模様が出るように、表面に1.5cm幅の切り目を斜めに8本入れるのですが、使用するのは医療用のメス。生地の半分(皮+本体)の深さまで切り目を入れると、キレイに焼き広がるそうです。

「切り目が9本、10本になればさらにキレイだと思いますが、スタッフにとっては8本が安定してできる数です。生地が温まらないうちに手早く、美しく切らなければいけないので。いずれみんなができるようになったら、レベルアップしたいですね」と遠藤シェフは言います。ドリュールはなし。塗ると緑色が黒っぽく変色するのが理由。 

欠かせない「-20℃」と「サフ セミドライイースト」 

「-20℃で3時間冷凍」。遠藤シェフのヴィエノワズリー生地作りの鉄則で、材料選びや工程の基準になっています。ミキシング後の生地は60分のフロアタイムをとり、-20℃で発酵を止めます。一気に温度を下げたいので、冷やしておいたアルミ天板で生地をはさむのだとか。「ブラストチラーがあればもっと短時間で済むのでしょうが、うちにはないので、冷凍庫をこの温度にきっちり下げて温度管理を徹底しています」。と遠藤シェフ。その後、-3℃でオーバーナイトを経た生地を、朝一番に出社する遠藤シェフが折り込み作業をします。-3℃は冷蔵庫から取り出してすぐに伸びる温度帯。パン酵母はルサッフル社の「サフ セミドライイースト ゴールド」を使用されています。「当初、生イーストを使っていたのですが、6年前からサフ セミドライイースト ゴールドを使っています。うちのように仕込み量が多いと、このサフ セミドライイーストのように立ち上がりがゆっくりだと使いやすいです」。 

「サフ セミドライイースト」は生イーストとドライイーストの特徴を併せ持つルサッフル社の特許商品で、冷凍耐性が非常に高く、発酵本来の豊かな香りが特徴。遠藤シェフも「イースト臭がしない」とおっしゃっていました。 

前半は手のひらでテンションをかけ、後半は手巻きのクロワッサン成形 

クロワッサンの成形はこの講習会のハイライトのひとつ。中央が見事に盛り上がり、先端がつぶれることなく、上から見ると優美なダイヤモンド型、横から見れば均等な山形です。底辺8cm、長さ30cmの二等辺三角形に切り分けた生地は、ストレッチをかけず、手でさする程度なじませます。「端は形中に絶対に触らない」を念頭に、手前を一折りしたら、手のひら前後に数回、転がして芯をそこから手のひらを外側に広げていくように転がして、最後の1/3は持ち上げて手で巻きつけます。 

成形後のクロワッサンは天板ではなく、「シルパン」を敷いたグリルに並べていきます。「立ち上がりのないフラットなものがあれば天板でもいいでしょう。私は立ち上がりの部分がオーブン内の風の対流を妨げないように、平らなグリルを使っています」。 

 「シルパン」はメッシュ状のシリコン製マットで耐久力と汎用性が高い製品です。メッシュなので火抜けがよく、クロワッサンのように油脂が多い生地も焼成中に染み出た油脂に底面がつかることがありません。サブレ生地などにも適していて、メッシュが生地に食い込み、焼き広がりを防げると言います。 

ドリュールはスプレーで。絶対に形をくずさない! 

最終発酵は140分。生地自体もボリュームを出すために、ミキシング時間を長くとり、グルテンをしっかり形成させています。140分のホイロをとることで、「重量を感じないくらい軽い」焼き上がりになります発酵後の生地グリルごとケーキの回転台ドリュールを塗る時に回転させながらできるので効率がいいそうです。「塗る」としてしまいましたが、シェフが使うのはスプレーです。刷毛を使うと、せっかく成形中に触らないようにしていた両端がいろいろな方向に向いてしまうし、スプレーなら表面をまんべんなく覆うことができます。液でノズルが詰まりやすいので、使いやすいものをいくつか試し、最終的にはAmazonで気に入ったものを見つけたそうです。

バイカラーの「クロワッサン・ピスターシュ」は、色生地を貼り付けるまでは「パン・オ・ショコラ・ピスターシュ」と同じです。底辺7cm、長さ30cmに切り分けたらクロワッサンと同じく成形しますが、ドリュールはスプレーしません。色が作業台に流れ落ち、掃除が大変だからだそうです。代わりに焼成後、シロップを塗ってツヤ出ししています。
「牛乳を入れたのは、数日保存していると生地が割れやすくなるからです。色粉は緑だけだと黒っぽくなるので青も入れています。今後は天然素材のものを切り替えることも考えています」(遠藤シェフ)

二番生地を有効利用した大人気商品「パン・スイス」 

「パン・スイス」と「キャラメル・リボン」はクロワッサン生地に、同生地を1cm(キャラメル・リボンは5mm幅)に切って断面を上にして並べ、伸て成形します。焼き上がりは表面に細かい層が表れ、なんともスタイリッシュです。

パン・スイスのフィリングにはヘーゼルナッツプレーンとドロップショコラを使用しました。「チョコレートはとにかくたっぷりと。お客様に『これだけ入っているからこの値段なのね』と納得してもらいたいのです」 

パン・オ・ショコラで「お宝」と言っていた二番生地を合わせて、三つ折りを3回した後、薄く伸ばします。フロアタイムを60分とり、ピケして低温で60分焼成したものを、卵や砂糖と粗く刻んで食感を残したヘーゼルナッツと合わせます。「このパンは大人気で二番生地が出ても困らないし、むしろもっと必要です(笑)。クロワッサン生地ではなく、食パンのミミやブリオッシュなどを使ってもいいと思います」

キャラメル・リボンは赤く色づけした生地を重ねたバイカラークロワッサンの応用。参加者もシェフからコツを伝授され、成形に挑戦しましたが、「私はキュッキュッと角度をつけるのが好き」(=商品価値を高めるコツ)というシェフの手直しが入っていました。こちらは焼き上がった後、リボンの両方のヒダにキャラメルガナッシュを絞り入れます。パン・スイスもキャラメル・リボンも焼き上がりにシロップを塗り完成。

この2つのパンはクロワッサンの配合と同じですが、ホイロの時間が60~70分と短いです。こうすることでフィユタージュのようにザクザクとした食感になるのだとか。「ひとつの生地で発酵時間を60分、70分、90分、120分と変えるだけで、食感や見た目に変化をつけることができるんです」。ちなみに生地を細長く切るときには包丁ではなく、カッターを使っていた遠藤シェフ。「ヨーロッパの職人が使っていたのを見て真似しました。チタン製で包丁よりシャープに切れるし、この5年、刃が折れたことありません。握りやすさは人それぞれなので、自分の手に合ったものを選ぶといいですよ 

ディスプレーのアクセントにもなる型を使ったヴィエノワズリー 

予定になかったヴィエノワズリーの実演もありました。まん丸で思わず手に取りたくなるクリーム入りクロワッサンです。クロワッサン生地を55gになるよう二等辺三角形にカットし、クロワッサンのように巻いていくのですが、こちらはテンションをかけず、ふんわりと巻くのがポイント。クロワッサンとは違う、バリバリ食感にするためです。 

穴のあいた半球型に入れ、もうひとつの半球型で蓋をして、アルミ製の洗濯ばさみ(ニトリで購入!)で固定。「スタッフにも必ず言っていますが、成形したものを無意識に型に入れてはだめです。必ず型の中央にあるかを確認すること。キレイな球体に焼けなければ、商品価値を上げられません」。遠藤シェフは型を好んで使うそうです。高さのある商品は、商品棚に並んだときにアクセントになるためです。 

スタッフも店もハッピーな職場づくり 

実演中には技術的なアドバイス多数ありましたが、遠藤シェフの店づくりの哲学についても大いに学ぶ点がありました。

「今の若い子たちが夢見るような職業にするために、健やかな職場環境づくりに努めています。うちは週休2日制と残業なしを守っています。私が12時半に出社して折り込み工程を終え、4時に出社してくるスタッフがすぐに成形に入れるようにしています。また、持ち場は担当制にしています。パンの仕込みは私を入れて4人、フィリングの担当は2人と決め、仕事が同時に進むようにして必ず10時半にすべての仕事が終わるようにします。 」

「また、うちは焼き立てパン屋ではなく、売り切りパン屋を目指しています。同時にすべてのパンを全部店頭に並べるんです。2便とか追加はありません。夕方に来店するお客様に失礼だととられるかもしれませんが、『閉まる前に行かなくちゃ』となるように、付加価値のある商品づくりをしています。お客様の2割程が富裕層で固定されてきたのも、クロワッサンの生地1枚に2000円/kgする高価なシートバターを使い、フィリングもたっぷり入れ、特徴ある商品づくりをしていますから」 

 「そんなの無理」ではなく、可能にする方法を見いだす。従業員の利益はひいては会社の利益になる、という考え方でした。 

 また何店舗も立ち上げてきたシェフならではの細やかなアドバイスもありました。「新店舗を作る予定の人にはぜひおすすめしたいのですが、オーブンの上や余ったスペースに、余分にコンセントを付けておくといいです。何年かして機器を買い足したいときに、追加工事で余計なコストをかけないため。あとは、うちのパン・オ・ショコラのように高さのあるパンを作りたければ、オーブンはラックのピッチが調整できるものを選んでください。天板は立ち上がりのない平らなものがいいですよ」 

 ブリオッシュ型にクロワッサン生地を敷き込み、アパレイユを流し込んで焼いた「フラン」もおまけで作ってくださった遠藤シェフ。「スタイルのいいパンはおいしいんです」という最後のメッセージはきっと参加者の明日からの仕事に活きていくのではないでしょうか。 

 

参加特典としてデモンストレーションでのパンと当社商品をお持ち帰りいただきました。 

最後までお読みいただき、ありがとうございます。  

 講習会の概要をお伝えしたが、いくら筆舌を尽くしても百聞は一見にしかず。次回講習会開催の折は、ぜひその目でお確かめください。 

 講師:遠藤信行 氏 
La Boulangerie Richer(ラ ブランジェ リシェ)
Instagram: https://www.instagram.com/nov1966/ 

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