2024/08/02

【講習会レポート】これからのパン業界をささえる粉末活性ルヴァンとは?

ルサッフル講習会
2024年1月にリリースした、誰でも、簡単に、安定して、ルヴァンを使ったパンを作ることができる、ルサッフルの「フレキシ ルヴァン」。この商品の良さをみなさまにもっと知っていただくために、フランスのルサッフル本社から製パン技術者 ジャンルイ・ブヴィエ氏を招き、6月に神戸と東京で製パン講習会を開催しました。

今回は、神戸で開催された講習会の様子をご紹介します。

講師紹介


ルサッフル社 ブヴィエ氏

ジャンルイ・ブヴィエ氏
ルサッフル社
ベーキングセンター主任研究員製パン技術アドバイザー

▼Profile
1986年 ブーランジェのCAP取得
1990年 プロ免許とブーランジェのメートル(親方)免許取得
1990年 ルーアンのパン学校INBPでディプロムを取得
1993年 ベーカリーを指導
1994年 LESAFFRE社入社
2002年より日本を担当年し、日本での技術サポートや製パンセミナーを実施している。また、日本以外にはアフリカ地域も担当。

フランスでは単なる種ではない。おいしさの基準にルヴァンがある


ルヴァン
講習会冒頭では、ジャンルイ氏からフランスのルヴァン事情について話がありました。

その話の中で興味深かった点は「パンのおいしさの判断基準にルヴァンがある」ということ。そこにはフランスならではの、パン作りにおける確固たる基準があるからです。フランスではいわゆる「パン・オ・ルヴァン」という名前でパンを販売するためには、厳格な規定に基づいて製造する必要があります。その規定は、フランスの生イーストで対粉0.2%以下(インスタントドライイーストの場合:対粉約0.06%)、焼成後のpHは4.3以下、酸度が900ppmと非常に細かい基準に沿って製造する必要があります。この基準に満たないパンは、パン・アヴェック・ルヴァン(ルヴァン入りのパン)として販売しなければいけないそうです。このような細かい基準に沿って作られたパン・オ・ルヴァンは、パンの旨味やルヴァンの風味をしっかり感じられ、程よく酸味があり、食感がしっかりしていることから、消費者にとって「ルヴァン」=「おいしい」という方程式ができているそうです。もちろん、使用するルヴァンの品質やそれをパンに使う技術が伴っている必要があります。

日本ではフランスのように厳しい基準は設けられていませんが、おいしさの基準にルヴァンがあるという点は、「日本でも浸透して欲しい」とジャンルイ氏は語っていました。

ここまで聞くとルヴァンを使ったパンをお店でも作ってみたいと思われた方もいるかもしれませんが、ルヴァンの管理やパン作りはそう簡単ではない点についてもジャンルイ氏から言及がありました。

熟練の職人でないと管理が難しいルヴァン


いわゆる自家培養のルヴァンは、長年パン職人として従事してきた職人でないと管理が難しく、理想的なルヴァンを維持させるのは困難であると説明がありました。

昨今の人手不足は日本だけでなくフランスも同様で、若い職人は貴重な存在です。ですが、ルヴァンの知識がない若手が、ルヴァンを管理してパン作りをするというのは難しい。「しっかりと管理されたルヴァンがなくなってしまうのでは」と不安そうな表情でジャンルイ氏は語っていました。

このような背景もあり、何か対策ができないかと思い生まれたのが、今回の主役である「フレキシ ルヴァン」なんです。

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さまざまな背景から開発が始まったフレキシ ルヴァン。数年間の試行錯誤の結果できたこの製品は、「今後のパン業界をささえる商品になる」と語るジャンルイ氏。
ジャンルイ・ブヴィエ氏 そのフレキシ ルヴァンの特徴について紹介がありました。

フレキシ ルヴァン3つの特徴

①「ルヴァン種の難しい発酵管理が不要。普段のレシピに混ぜるだけ」

まず、一番の問題となっていたルヴァンの管理。フレキシ ルヴァンは、ルヴァンを作る必要がなく、ミキシング前に小麦粉にフレキシ ルヴァンを混ぜるだけで良い。この簡単なオペレーションであれば、若手スタッフの方でも問題なく製造ができるのではないでしょうか。

ミキシングで生地を確認

▲フレキシ ルヴァンを使った生地を使いミキシングをしながら実演

ルサッフル講習会

▲受講者のみなさんにもフレキシ ルヴァンを使った生地に触れていただきながら成形をおこなう

②「活性のある粉末発酵種」

ルヴァンに活性がないと、発酵不足が起きてしまいます。それを補うためにパン酵母の使用量を増やせば解決するのですが、パン酵母を多くしすぎるとパン酵母の発酵が勝ってしまい、ルヴァン本来の風味が弱くなってしまいます。フレキシ ルヴァンは、しっかりと活性があるため、発酵不足が起きにくく、ルヴァンが持つ風味を活かすことができるんです。

フレキシルヴァンのみで作成した生地

▲パン酵母を併用せずフレキシルヴァンのみで作成した生地

比較用のバゲット

▲ルヴァンのみ、パン酵母併用など焼き上がりを比較できるように準備されたバゲット

ジャンルイ氏の開発話の中では、この製品を開発し始めた当初(3年ほど前)のプロトタイプのフレキシ ルヴァンが研究所にあり、現在でも活性があると言われていました。いまだに活性があるのは驚きです!

③「汎用性が高い」

ルヴァンを使ったパンと言うと、どうしてもハード系のイメージがありますが、フレキシ ルヴァンはブリオッシュや食パン、クロワッサン、パネトーネなどのリッチなパンにも使えます。

講習会で紹介したパン

▲講習会で紹介したパン。ハード系からブリオッシュ、あんぱん、食パンなどがあり汎用性の高さがうかがえる

油脂が多いパンに使う場合の主なメリットとしては、風味の強化をするためです。バターや油脂があるものに対して、フレキシ ルヴァンを使うと、乳の風味や味をより強く感じることができるとのこと。

筆者も半信半疑で、試食用として提供された食パンの香りをかいでみると、しっかりとした風味を鼻で感じることができました。

ルサッフル講習会受講者

▲試食の食パンの食感や風味を確かめる受講者

ジャンルイ氏自身もハード系に使う前提だったそうですが、日本でのパン事情を加味して食パンやブリオッシュなどでテストすると、よい結果が出たことに驚きがあったとのこと。商品名のとおり、まさにフレキシブルだと満足度が高い様子でした。

他にはルヴァンを使うとどんなメリットがあるの?


ここまでのジャンルイ氏の話で、ルヴァンが持つ特性を生かした味の強化方法や、フレキシ ルヴァンの特徴を理解した様子の受講者のみなさま。さらにジャンルイ氏からは、ルヴァンには次のような特徴があることが紹介されました。

ルヴァンの特徴

①「健康に良い(消化に良い)」

デモで準備されたヘルシーブレッドというパン。

ヘルシーブレッド

▲ヘルシーブレッド

名前のとおり、いかにも健康に良さそうなパンですが、ルヴァンを使うだけで健康に良いパンが作れるというわけでなく、さまざまな要素が加わることが必要だとジャンルイ氏は語ります。

まず、小麦粉に石臼挽き小麦、スペルト小麦、ライ麦などの灰分の高い小麦※を使います。

スペルト小麦灰分の高い小麦とルヴァンを高めの温度で長く発酵させることで、グルテンを分解します。フレキシ ルヴァンの場合は、パン酵母のように単一菌種ではなく酵母+乳酸菌が入っています。この乳酸菌に付着した酵素が、結合したグルテンを分解する効果があります。このような効果があるため、グルテンが分解され消化に優しいパンになるいうことです。

※灰分の高い小麦
灰分とは、カルシウム・マグネシウム・鉄などのミネラルの総量のこと。灰分が多い小麦は灰色掛かった色をしています。

実際にフランスでは、朝昼晩にパンを食べることから、セリアック病※を引き起こす方も多く、原点回帰をしてルヴァンを使用したパンを販売するお店が増加傾向とのこと。また医師が健康に関する論文を発表した際に、ルヴァンを使用したパンをすすめる内容も記されていたことから、さらにそれを後押ししているのではと、ジャンルイ氏は言われていました。

※セリアック病
小麦・大麦・ライ麦などに含まれるタンパク質の一種であるグルテンに対する免疫反応がきっかけとなり、腹痛、下痢、ガスなどの症状を呈する自己免疫疾患のこと。

②消費期限を延ばすことができる

ルヴァンを使ったパンでは、通常のパン酵母を使用したパンの製造時よりもpHを低くなる傾向があります。それにより雑菌が発生する可能性が少なくなり、結果消費期限を延ばすことができます。

③製造コストが抑えられる

フランスでは、ウクライナとロシアの紛争の影響でエネルギーコストが5~8倍ぐらいに増加しており、多くのパン屋さんがそのコスト上昇をパンの販売価格に転嫁できず、お店を閉めてしまうケースもあります。こういった背景から、冷蔵保管よりもコストがかかりにくい温度帯で発酵させるルヴァンを使用したパンを製造することでエネルギーコストを軽減につながります。

コストダウンするけれども、味が向上するルヴァンを使ったパンは一石二鳥になるのではないでしょうか。

エネルギーコストの上昇は日本でも同じことが言えます。ルヴァンを使うことでこんなメリットがあることに、参加者のみなさんも「なるほど」という声があがっていました。

オリジナル性を出すならばスターターとして活用するのもあり


ルヴァンスターター
フレキシ ルヴァンをそのまま使うのもいいけど、自家培養ルヴァンのようにオリジナル性を出したいという方もいると思います。そんな方のためにフレキシ ルヴァンをスターターに活用する提案もありました。

スターターで活用する場合は、お好きな小麦粉とフレキシ ルヴァンを混ぜて使うため、好みのルヴァンが何とおりにでも作ることができます。あわせて、発酵時間、発酵温度を調整することでお好みの味に調整できますので、ある程度フレキシ ルヴァンを使ったルヴァンに慣れてきたら、スターターとしてオリジナル性を出してみるのもありですね。

フレキシ ルヴァンの紹介だけでなく、なぜルヴァンを使うのか、ルヴァンの特性や取り扱いに注意すべき点など、解説やデモを通しながら、受講者のみなさまにご説明させていただきました。途中の質疑応答の時間では、さまざまな質問があり、みなさまの興味度合いが高いことがうかがえる1日でした。さて実際に受講したみなさまは、この講習会を通してどう感じたのか、フレキシ ルヴァンの印象について、受講者さんに聞いてみました。

受講者の声


Aさん

ルヴァンは実際にお店でも自家培養したものを使っていますが、種継ぎや管理はいつもたいへんだと感じていました。お店が休みの日でも、ルヴァンの管理をしないといけないので、週2日休みがあっても、結果的に1日はお店にいるという状況でした。フレキシ ルヴァンは、そんなルヴァンの管理も不要で、仕込みの段階からすぐに使えるのはとてもいいですね。しかも、自家培養ならではのブレもなく、安定するのは良いですね。小さいパン屋であれば、少しの量でも状態が悪く全ロスになったら販売する商品がなくなってしまいますからね。

Bさん

ルヴァンで、コストダウンという考えがなくて、なるほどと思いました。最近日本も光熱費が高騰していて、毎日の少しのコストアップも、1か月で考えると結構な金額になります。ルヴァンでパンの風味や味を良くして、なおかつコストダウンにつながるは、もっと広めてもいい考えだと思いましたね。

Cさん

商品名のとおり、いろいろなパンに使えるのはうれしいです。ハード系をおしたいところですが、どうしても日本の場合は食パンや菓子パンなども製造する必要があります。そんな時に、通常のレシピに追加するだけでパンが良くなるのであれば使ってみたいですね。

Dさん

発酵・風味にブレがなく安定的なルヴァンという点はとても良いなという反面、オリジナル性が出せるのかと思いましたが、スターターで使う方法や酸度の調整などでオリジナリティが出せるヒントがもらえたのは嬉しかったです。うちでも使ってみようかな。

受講者のみなさんも、フレキシ ルヴァンを使ってみたいという声が多かったように感じます。もちろんフレキシ ルヴァンの良さを感じていただいたからではありますが、あらためてルヴァンに関する知識を深める座学もあったから、よりルヴァンへの意識が高くなったのではないかと思います。

本記事を読んで、少しでもフレキシ ルヴァンを使ってみたいと思われた方は、お気軽に弊社までお問い合わせください。

取材こぼれ話(おまけ)


今回のデモンストレーションで講師のジャンルイ氏が紹介されていたおもしろいパンのお話です。みなさんバゲットを作られる際に、クープを入れられると思います。今回のデモで、ジャンルイ氏が作ったパンの一つに、クープを入れないバゲットの紹介がありました。

その作り方はというと、成形までの作り方は通常とおりです。最後の成型時に、生地を少しねじるようにするのがコツとのこと。

クープなしバゲットその際にできた「しわ」がいわゆるクープの役割になるとのこと。次の写真が実際にできたクープ無しバゲットです。

クープなしバゲット

▲画像左側にクープありのバゲットがあるので、クープのありなしを比較してみてください

実際にクープありなしのバゲットを食べ比べてみると、クープなしのバゲットはクラストが非常に薄くパリッとしており、クラムはもちもちとした食感でした。

ジャンルイ氏に、クープありなしで、なぜこんなに食感が変わるのか聞いてみると、「クープを入れないことで、生地の水分が逃げないから。そのため生地内の水分量がクープありのバゲットよりも多くなり、もちもちになる」とのことでした。

また、なぜクープなしのバゲットがあるのかも聞いてみたところ、「工業的なパンいわゆる工場で作られたパンでなく、手作りであることをアピールする意味でも、クープなしのパンが増加傾向にあります。また、日本ではきれいにクープが入ったパンがまるで同じパンかのように並んでいますが、フランスではこちらも工業的だと嫌われる傾向にあり、クープがいい意味できれいでない、ばらばらのバゲットが良いものだと言われています」という回答でした。

▲フランスのバゲットが陳列されている棚。クープだけでなく、焼き色もバラバラのケースもあり、好みのバゲットを選ぶのがフランス流

日本では反対ですが、クープがきれいでないから売れないロスになるという意識から少しでもシフトされるきっかけに、クープなしのバゲットを作られてはいかがですか?

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