LESAFFRE(ルサッフル) テクニカルベーカリーアドバイザー ジャンルイ・ブビエ氏による製パン講習会/フレキシ ルヴァン編
活性のある粉末ルヴァン「フレキシ ルヴァン」開発者、ジャンルイ氏による日本で最後の講習会

ジャンルイ・ブビエ 氏/Jean-Louis BOUVIER
LESAFFRE(ルサッフル) ベーキングセンター テクニカルベーカリーアドバイザー
2025年7月1日 、会場となった(社)日本パン技術研究所(東京・江戸川区)のセミナールームには、日仏商事が取り扱うマシンも多数。大型のオーブンの熱気と参加者の熱気が相まって、汗を拭く人の姿もちらほら。ジャンルイ氏による日本で最後のセミナーということで、意気込みが感じられました。
ジャンルイ・ブビエ 氏/Jean-Louis BOUVIER
LESAFFRE(ルサッフル) ベーキングセンター テクニカルベーカリーアドバイザー
▼Profile
1986年 ブーランジェのCAP取得
1990年 プロ免許とブーランジェのメートル(親方)免許取得
1990年 ルーアンのパン学校INBPでディプロムを取得
1993年 ベーカリーを指導
1994年 LESAFFRE社入社
2004年より日本を担当し、日本での技術サポートや製パンセミナーを実施している。また、日本以外に韓国、中東地域・アフリカ地域も担当
日本の製パン業界にフィットする、活性をもつ粉末ルヴァン

フレキシ ルヴァンは、日仏商事からのリクエストでジャンルイ氏が開発した、活性を持つ粉末ルヴァンです。扱いが難しいとされるルヴァンの常識を変え、使い方は粉に混ぜて2分置くだけとごくシンプル。手軽に本格的なパン・オ・ルヴァンを作ることができます。
また、ルヴァン(種)のスターターとして使用したり、通常の生地に添加して風味づけしたりと、応用できるのも魅力です。
コスト面でもメリットがあり、室温(20~22℃程度)で発酵できるため光熱費の削減にも一役買います。
フレキシ ルヴァンで定番のパンをワンランク上の美味しさに

最初に紹介されたレシピは、フレキシ ルヴァンを使用したブール ルヴァンと長時間発酵バゲット。
ブール ルヴァンにはライ麦のフレキシ ルヴァン ライ を使用し、ゆっくり発酵させることで優しいサワー感のあるパンに。綺麗にクープを入れたひとかかえもあるパンは、存在感も抜群です。
フレキシ ルヴァン デュラムを使用した長時間発酵のバゲットは、バリバリのクラストともっちりしたクラムのコンビネーションが絶品。香りもよく、噛み締めるほどに豊かな小麦の旨みと甘みが広がる至福の美味しさ。どちらのパンも、フレキシ ルヴァンで長時間発酵することにより小麦の甘味が引き出され、深みのある味わいに。
焼成のコツは、最初から高温でしっかり焼き上げること。それ以外にも、各ステップで注意すべき点や考慮すべき要素についてレクチャーしていただき、参加者の皆さまも熱心に耳を傾けていらっしゃいました。
ますます高まる健康志向に、自然の力で応える

お次はその名も「ヘルシーブレッド」。
こちらのパンがヘルシーを冠する所以は大きく2つ。
①ライ麦ベースのサワー種で長時間発酵を行うことで、グルテンの分解が促進され、消化が良くなる。
②全粒粉やスペルト小麦など、灰分(小麦の外皮や胚芽に含まれるミネラル)の高い粉を使用している。
ジャンルイ氏曰く、特にヨーロッパではセリアック病(グルテン不耐性)が多いこともあり、健康の面からグルテンフリーが普及しているそう。このレシピはグルテンフリーではありませんが、グルテンの消化をよくする種選びと製法で吸収を抑え、体への負担を軽減させることで選択肢の一つとして提案できます。
また、今回レシピで使用している粉はいずれも食物繊維やビタミン、ミネラルが豊富で、美容や健康への意識が高い方の間でも注目されています。トレンドという面からもアプローチできそうですね。
お味の方は、力強さと素朴さの中に、ライ麦の酸味と石臼挽小麦粉(全粒粉)の歯切れのよさが感じられ、このタイプのパンに特有の重さを感じさせません。オレンジピールの華やかな香りがアクセントになり、つい食べすぎてしまいそう。
こちらのパンは2日目以降の方が味が馴染んで美味しいとのこと。販売される際に「明日以降がより美味しく召し上がれますよ」とお声がけすれば、お客さまとのコミュニケーションのきっかけにもなりそうです。
リヴェンドLV1で、ベーキングパウダー不使用のスイーツを提案

ユニークだったのは、サフルヴァンの名前で知られているリヴェンドLV1をベーキングパウダーの代わりに使用したマドレーヌ。
ルヴァン種を使用すると、バターの風味をより強く感じられるというメリットがあります。さらにベーキングパウダーを使用したものと比べると、食感がふわっとしており、口溶けも軽やか。バターの濃厚な風味を感じつつも、食感はふわりと軽い、新しいマドレーヌの誕生です。
ベーキングパウダーを使用しないため、添加物不使用のスイーツとしてもアピールでき、差別化という点でも期待できるレシピです。
このレシピには、製パン業界の方だけでなくパティシエの方も関心を寄せておられました。また、その流れでリヴェンドLV1でフィナンシェを作れるのかという質問を受けたジャンルイ氏は、「焼き菓子の中でも、油脂が多くアーモンドプードルを使用するフィナンシェに活用するのはかなり難しい。帰国したら研究したい」とコメント。パン職人の探究心に火がついたようでした。
会場中に甘い香りが漂い、焼き上がったマドレーヌが日本人スタッフの手によってディスプレイされたのを見たジャンルイ氏。おもむろに近寄って1つを手に取ると裏返し、「日本では貝殻の模様を上にして置かれているのをよく見ますが、フランスではこちらの盛り上がった面を上にします。膨らんでいる方が好まれるので、こちらを見せるわけです。マドレーヌの置き方にも違いがあります。」と知識を披露してくれました。置き方の違いでその地域の好みがわかるという、大変興味深いお話でした。
アレンジのきくチャバタと、効率化のアイデア

今回のチャバタのレシピは、表面をカリッと仕上げた少しクリスピーなもの。かじった時のパリッとした食感と、もっちりしたクラムの対比がやみつきになりそうです。
ちなみにジャンルイ氏は、焼成時間をやや短くして焼き色薄め、ソフトなクラストでモチモチとした食感が好みとのこと。韓国で好まれるのもモチモチしたタイプとのことで、チャバタ一つとっても嗜好の違いが大きく出ることを、実例を挙げて教えていただきました。
このようにチャバタは、混ぜ込む具材や焼成時間でしっかり個性を打ち出せるため、自店のスタイルを表現する一品として位置付けることも可能です。
今回のレシピでは、焼成前に冷蔵庫に入れる工程がありますが、これは作業効率を考えてのこと。いつでも焼成できる状態で保存しておくことで、必要な時に必要量をすぐに焼くことができます。参加者の方からの、「冷蔵した生地はすぐ焼いてもいいのか?」という質問には、「冷蔵庫に入れていたのが2時間程度なら5~10分室温において、30分程度なら直接焼いても構わない」と丁寧に答えられていました。
チャバタの後は、同じ生地を使用してバゲット、フーガス、ツイストの3種類のパンを成形。1つの生地から、形や具を変えることでさまざまなパンが出来上がる様は魔法のよう。
フーガスにクープを入れる際は、「フーガスの切れ目は1週間を表すので7つ入れます」と説明しながら、切れ目の入れ方を変えてさまざまなバリエーションを見せてくれました。
製パン、製菓業界の両方から期待されるフレキシ ルヴァン

今回参加された方の中には、チェーンベーカリーの社員様や個人店のオーナー様、将来的にパンの展開も考えているパティスリーのオーナー様もおられました。すでにフレキシ ルヴァンを導入されている方も、「今回のセミナーに参加したことで今後ますます活用できそうだ。」と期待されていました。
個人店のオーナー様は、「ルヴァンは扱いが難しく、購入するとしても小さなお店では量が多くロスにつながることからためらっていた。活性が長く続くフレキシ ルヴァンであれば自分のお店でも使えそう。」と導入に前向きな姿勢を見せておられました。
また、マドレーヌを試食されたパティシエの方は、その食感の違いに驚いた様子。「リヴェンドLV1やフレキシ ルヴァンがあれば、商品の幅が広がりそう。」と笑顔でお話ししてくださいました。
細かな温度管理やプロセス、デュラムとライの扱いの違いはもちろんのこと、いかに個性を出すか、いかに効率よく商品として提供するか、職人としてはもちろん経営者の目線からもさまざまな提案をしていただいたジャンルイ氏。
今回のセミナーをきっかけに、お店に新しい魅力溢れるパンが並ぶことを、一消費者としてとても楽しみにしています。