2025/08/07

LESAFFRE(ルサッフル) テクニカルベーカリーアドバイザー ジャンルイ・ブビエ氏による製パン講習会/世界のパン編

パンから見える、世界の国々の暮らしと文化、歴史


20年以上日本を担当してきたジャンルイ・ブビエ氏による、日本で最後の講習会。そのテーマは「世界のパン」。世界を周り、その地域の伝統的なパンやトレンド、パンを取り巻く歴史や文化を探求してきたジャンルイ氏の集大成ともいうべき内容です。

ジャンルイ・ブビエ氏/Jean-Louis BOUVIER
LESAFFRE(ルサッフル) ベーキングセンター テクニカルベーカリーアドバイザー

▼Profile
1986年 ブーランジェのCAP取得
1990年 プロ免許とブーランジェのメートル(親方)免許取得
1990年 ルーアンのパン学校INBPでディプロムを取得
1993年 ベーカリーを指導
1994年 LESAFFRE社入社
2004年より日本を担当し、日本での技術サポートや製パンセミナーを実施している。また、日本以外に韓国、中東地域・アフリカ地域も担当

ジャンルイ氏が旅で出会った世界のパン

これまでジャンルイ氏が訪れた国は、約60ヵ国。技術的なサポートはもちろん、講習の受講から従軍まで、その目的はさまざまですが、共通しているのはそこに必ずパンがあること。

その旅の中で出会ったパンから、特に印象深いものを日本で再現できる形で紹介していただきました。

地中海のパン好きの島で愛されるデイリーなパン

「マルタパンと言いますが、丸太のパンではありませんよ」と前置きをして紹介されたマルタ島のパン。こちらは製法も販売方法もユニークで、大きな丸い生地を隣同士がくっつくように配置して焼成。焼き上がったパンはつながったまま店頭に並べられ、お客さんが必要な数だけちぎって購入していくそう。

ジャンルイ氏は、クラストが薄く深い味が特徴のマルタパンを、ルサッフルの改良剤「フルネテロワール」を使用して再現。焼成時、最後の10分間は扉をあけて中の蒸気を逃し、固めに仕上げるのがポイントとのこと。現地ではスライスしてオリーブオイルをつけて食べるそうです。

マルタ島は人口は多くないもののパンの消費量が多く、イーストはもちろん改良剤のニーズも高いとのこと。また、元イギリス領ということもあり、ロングブレッドも定着。最近ではハンバーガーバンズも増えているそうです。パンひとつとっても、さまざまな文化の影響を受けながら変化する様子が見てとれます。

フライパンで焼くモロッコの食事パン

日本では馴染みのないフラットなパンは、モロッコのマトルーア。現地ではオーブンがない家庭が多いことから、オーブンではなくフライパンで焼くスタイルを紹介されました。本来はもう少し薄めで、重さも1kgほどと巨大。地域に共同のパン焼き窯があった頃は、どの家のパンかわかるように印を押してから焼いていたそうです。

レシピは、家庭で作ることをイメージし、ミキシングは低速で。口にしたときの食感が良くなるように、打ち粉にセモリナ粉を使用。オリーブオイルをバターに変えたり、好みで具を入れるなどバリエーションも提案していただきました。

こちらのマトルーア、モロッコでは現在でも約30%が家庭で作られているそうで、ラマダン中はその割合が80%程度までに上がるのだとか。ラマダンの期間、日没後に家族で集まり家で焼いた大きなパンを分かち合う。心が安らぐひとときに、パンは欠かせない存在なのでしょう。

ちなみに、モロッコのおとなり、アルジェリアではイーストの消費量が多く、トレンドの動きが早いとのこと。遠く離れた北アフリカのパン事情を聞けるのも、ジャンルイ氏のセミナーならではですね。

ローストしたライ麦が香ばしい、ウクライナのリッチなパン

続いてウクライナのキエフスキー。現地では自家製のルヴァンを使用しているそうですが、こちらをフレキシ ルヴァンのライを用いて再現。

ポイントはローストしたライ麦の香ばしさで、密でしっとりした生地も相まってリッチなおいしさです。位置付けとしては、食事パンとケーキの間とのこと。

ヨーロッパでは、砂糖を多く使うスイートなパンは宗教的な行事や結婚式で分け合って食べるものが多いそうで、日常のおやつとして1人で1個を食べる日本とはそもそも認識が異なるようです。

キエフスキーについては、受講者からライ麦のロースト方法について質問が出ました。ジャンルイ氏曰く、アルファ化させてローストする方法と、そのままローストする方法があるそうで、それぞれ仕上がりの風味が異なるそうです。

世界を旅するパン職人

パンを一通りオーブンに入れた後は、ジャンルイ氏のプロフィールとパンを巡る旅について語っていただきました。

写真1枚ごとに、その土地でのパンの製法に始まり、好まれる味や食べ方、さらには文化や歴史など、パンをめぐるたくさんのエピソードが次から次へと出てきます。

写真の中には、現地の人と食卓を囲んでパンを食べる様子を写したものがいくつもあり、体験を通して得られた知識とレシピであることをひしひしと感じました。

20年以上にわたって日本を担当してきたジャンルイ氏の次の目的地は、モロッコとアルジェリア。日本への感謝の気持ちを述べるジャンルイ氏に温かい拍手が送られ、講習会は終了となりました。

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