2025/04/16

【講習会レポート】レミーコアントロー社製品を使った料理&製菓講習会レポート【後編】

3月3日から3日間にわたり、レミーコアントロー社の講習会が香川調理製菓専門学校で開催されました。同社を代表する「コアントロー」、「サンレミーブランデー」、「マウントゲイ」の3種類の現代的な使い方を、コアントローが生まれたフランス・アンジェで活躍するシェフ2名がデモンストレーションしました。講習会後半はパティシエのオレリアン・トロティエシェフにバトンタッチ。ルレ・デセール会員のパティシエによる、数々のテクニックを目の当たりにしました。

コアントロー製菓1
アンジェからルレ・デセール会員のパティシエが登場。ユニークなテクニックが目白押し

午後の部の講師を務めるのは、アンジェでパティスリー「ARTIS’an Passionné」を営むオレリアン・トロティエシェフ です。ロワール地方に生まれ、アンジェの「トリアノン」で菓子職人の見習いを始め、07年に幼なじみであり、ショコラティエのリュック・ポワソン氏と開業。12年には2号店もできたそうです。ルレ・デセールの会員になり、18年からはMOFにも挑戦中。過去2回ファイナリストに選ばれています。

オレリアンシェフのデモは、「サンレミーブランデー XO 60°」を使ったモンブランで始まりました。日本人が大好きなモンブランを、オレリアンシェフはどんなレシピで作るのでしょうか?

モンブラン ミラベル バニーユ エ ブランデー

モンブラン ミラベル バニーユ エ ブランデー

「モンブラン ミラベル バニーユ エ ブランデー」の構成は、ローストしてアーモンドの風味を強調したアーモンドプードルで作るビスキュイ・モワルー、クレーム ディプロマット、センターにはミラベルのコンフィ、そして「サンレミ―ブランデー XO 60°」入りのモンブランクリームです。

ミラベルでアクセントをつけたモンブランのテクニックには会場が釘付け

このモンブランクリームの絞り方が革新的でした。モンブラン口金を使うのでも、山型に絞るのでもなく、葉形の口金で側面だけを覆っていくのです。それのどこが革新的か、と思われるかもしれませんが、オレリアンシェフはM.O.F.選考の最終審査時に挑む際、このオリジナルテクニックを編み出したそうです。キッチンエイドのフックを取り付ける部分に、3本の軸が付いたアタッチメントを付け、冷凍しておいたモンブランの土台を固定して回転させ、そこにモンブランクリームを絞っていくのです。「これはMOFパティシエのギヨーム・マビル率いるイル・デザイン(ill design)が開発したオレンジの皮むき用アタッチメントを応用したものです。アマゾンでも買えるんじゃないかな」とフランスから持ってきた秘密兵器を見せてくれました。

天面にもクレーム ディプロマットを絞り、温めたスプーンで中央にくぼみをつけて、ミラベルのコンフィを絞って、ミラベルが入っているお菓子だということがわかるようにしています。

質のいいお酒は加熱NG。火からおろしてから加えるのが鉄則

ノワゼット エ オランジュ ロム

ノワゼット エ オランジュ ロム

2品目は「マウントゲイ ラム 55°」を使った動物性食材を使わないヴィーガンケーキ、「ノワゼット エ オランジュ ロム」。ビスキュイレシピにはYUMGOブランを使用。「しっかりしたメレンゲを作るためにキサンタンガムを加えます。こうすると卵白と変わらないフレンチメレンゲができます」と泡立ち具合を見せてくれました。

クレムー ノワゼットにはパートノワゼット(カカオバリー)と植物性生クリーム、そして凝固剤にはペクチンLMSN325を使用。

味のアクセントになるのがラム酒風味のオレンジコンフィです。オレンジを茹でこぼして、砂糖などと煮詰め、火からおろしてから「マウントゲイ ラム 55°」を入れるのがポイント。「質のいいお酒は加熱してはいけません。必ず火からはずしてから加えてください」とオレリアンシェフは念を押しました。

ヴィーガンビスキュイを入れたクレムー ノワゼットにナパージュをかけたら、小さい半球型(フレキシパンオリジン1489プティガトー)に固めたオレンジのコンフィを表面にのせ、カスカラ(ヘーゼルナッツの皮)を表面に散らして完成です。ヘーゼルナッツ100%のペーストを使ったクレムーは、かなり濃厚なのでは?と思いましたが、乳脂肪分を含まないのでヘーゼルナッツの味が存分に味わえ、さらに食感を残したオレンジのコンフィの酸味とほのかなラム酒の風味で軽やかな仕上がり。ヴィーガンとは思えないリッチな味わいでした。

花の形に焼いたフィナンシェはジューシーなオレンジ風味たっぷり

モワルー オランジュ、オレンジサンギーヌ コアントロー

モワルー オランジュ、オレンジサンギーヌ コアントロー

「モワルー オランジュ、オランジュサンギーヌ コアントロー」は、日本で人気が高いフィナンシェ生地のお菓子ということで、レシピの中でも特に気になっていました。オレンジゼストと「コアントロー 54°」を加えたオレンジ風味のフィナンシェには、ローストしたアーモンドプードルを使うのですが、オレンジとオレンジの香りを引き立てるバニラの香りを消してしまわないように、ローストしていないアーモンドプードルも加えるのがポイントです。香りを定着させるために、生地は冷蔵庫で一晩寝かせます。

フレキシパンオリジン1289ミニデコールサントノーレで花の形に焼かれたフィナンシェは、仕上げに中央のくぼみにジェル オランジュ サンギーヌ コアントローを流します。しっとりしたフィナンシェ生地にプルっとしたジェル、ありそうでなかった組み合わせでした。

「生地とジェルに入れるコアントローをだいたい同じくらいの分量にしているので、全体のバランスがよくなっていると思います。このお菓子は仕上がった状態で冷凍保存できます」(オレリアンシェフ)

コアントローを利かせた、クレームブリュレの進化系

クレームブリュレ コアントロー

クレームブリュレ コアントロー

「クレームブリュレ コアントロー」は、「コアントロー 54°」に加え、香りも値段も高いタヒチ産バニラビーンズを加えた贅沢なデザートです。驚いたのは、従来のクレームブリュレではなかったことです。

炊き上がったクレーム・アングレーズに「コアントロー 54°」を加えたら、焼き上げるのではなく、マスゼラチンで固めてしまうのです。バットに流して固め、表面にカソナードを振り、コテをあててカラメル状に焦がしていきます。「表面全体を焦がしてしまうと、カラメル風味が強くなってしまうので半分だけ焦がします。その後、ハンドブレンダーで全体を攪拌します」とオレリアンシェフ。

ブリュレのカラメル味をクリームの中に閉じ込めてしまうとは! 「見た目はカスタードだけど、食べるとしっかりキャラメル風味のあるクレームブリュレ」を狙ったとのこと。「でも、見た目がクリーム色では『ブリュレじゃない!』と言われそうなので、ココットに流したら、表面にカソナードを振り、バーナーで軽く焦がしました」。

トロトロのクリームの中には、混ぜ込んだカラメルのパリパリとした食感が残っており、カラメルのほろ苦さが「コアントロー 54°」のオレンジ風味とよく合っていました。

アンジェを訪れたら、コアントローの工場見学をぜひ

ここで、レミーコアントロー社のガストロノミー ディレクター、フレデリック・ラタジャック氏が登場しました。講習会で使用した「コアントロー 54°」と飲物に使われる「コアントロー 40°」の違いを解説してくれました。「コアントロー 54°」には「コアントロー 40°」の8倍ものオレンジのエッセンシャルオイルが含まれていると言います。どちらも透明ですが、水を加えると「コアントロー 54°」のほうはみるみる白濁していきました。料理やお菓子に入れても、存在感のある香りが残るのは、香り成分がはるかに多く含まれているためなのでした。

フレデリック氏が付け加えました。「アンジェはフランスで最も過ごしやすい街とされています。そして、ここにしかない“ミュゼ・コアントロー”、コアントローの製造現場が見られる施設があります。年間3万人が訪れる人気の場所ですので、ぜひフランスに来たときはいらしてください」

時短テクニックも使ったラム酒風味のチーズケーキ

チーズケーク エグゾチック ロム

チーズケーク エグゾチック ロム

オレリアンシェフの講習が再開しました。残すところあと2品。トロピカルフルーツと「マウントゲイ ラム 55°」を使った「チーズケーク エキゾチック ロム」では、ラム酒づかいに加え、時短テクニックも披露されました。ケーキの構成はクランブルをホワイトチョコレートで固めた土台にチーズケーキを重ね、ジェル エキゾチック ロムでコーティングし、上にクレーム ココ ロムを絞るというものです。

土台づくりの時短には、焼き上がったクランブルが熱いうちに、チョコレート、バターなどを入れたボウルに加え、余熱で全体を混ぜ合せてしまう。こうするとチョコレートやバターをあらかじめ溶かす手間が省けます。この土台が固まったら、今度は焼き立てのチーズケークを重ねて余熱で接着。上がけするジェルはパレットナイフで薄く伸ばさず、ドロッパーで一気に全体を覆います。ここまでの講義で、独自の手法を常に編み出している方だとわかってきましたが、その目的はおいしさ、美しさだけでなく、効率も重視している。スムーズなオペレーションを考えなければいけないのがプロ、ということですね。

仕上げに表面にクレーム ココ ロムを絞るのですが、ちょっとした工夫を施します。絞り終わりのツノをOPPシートでつぶして平らにすると、洗練されたイメージになりました。少し塩みのある濃厚なチーズケーキに、酸味のあるジュレ、「マウントゲイ ラム 55°」の利いたクレーム ココ ロムの組み合わせは、インパクト大。

チョコレートとコーヒーは”冬“の組み合わせ

カフェ ショコラ ブランデー

カフェ ショコラ ブランデー

最後のケーキは「カフェ ショコラ ブランデー」です。ムース ショコラ ブランデーの中にビスキュイ ショコラを仕込み、グラッサージュをかけて、上にクレムー カフェ ブランデーを絞り、上にはデコール ショコラ。このような構成です。「今回の講習会は冬を意識した素材選びをしました。フランスではトロピカルフルーツは冬のもの。そして、このケーキのようにチョコレートとコーヒーの組み合わせも冬らしいと言えます」(オレリアンシェフ)。

「サンレミー ブランデー XO 60°」はビスキュイに塗るシロップと、上に少量絞るクレムー カフェ ブランデーにのみ配合。量はほんの少しですが、しっかり利くので「経済的です」とオレリアンシェフ。ムース ショコラ ブランデーにマスゼラチンを使うのも、チョコレートの量を控えるためだそう。クレムー カフェ ブランデーのアンフュゼに使うコーヒー豆も、使用後はスタッフ用のコーヒーとして無駄なく使い切る。経済性や食品ロスなど社会問題など、多くのことに意識を向けていることがわかりました。

マーブル模様のデコール ショコラの作り方も講習会の見せ場のひとつでした。ギッターシートにゼフィールキャラメル(カカオバリー)を少量絞り、ココアパウダー プランアローム(カカオバリー)を振ります。もう1枚ギッターシートを重ねてはさみ、円形のスタンプで平らにします。固まったら、きれいな円形に切り抜きます。切り抜いた切れ端も無駄なくガナッシュに使っていると言います。

オーナーとして、クリエイティブなパティシエとして、他にはないものを追求し続ける

オレリアンシェフの講習は、オリジナリティ溢れるテクニックが多く見られ、参加者も参考になることが多かったのではないでしょうか。「店では私だけでなく、下で働くチームメンバーからもアイデアが出ます。お客様に面白いものを提供したいし、クリエイティビティも発揮したい、また店をやっていたらコストのことも考えなければなりませんから、チームで新しいことを考えるようにしています」(オレリアンシェフ)

ジュレを組み合わせたフィナンシェについて気になっていたので、「ヨーロッパではこのタイプのフィナンシェが流行っているのですか?」と質問すると、すかさず「他のシェフがやっていることはまったく見ないんですよ」とのことでした。愚問でした。

コアントロー、ブランデー、ラム、製菓ではおなじみの洋酒3種類でしたが、使い方は時代とともに進化していることを実感する講習会でした。

 

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