2018.12.17

日本代表 垣本シェフへインタビュー!【WORLD CHOCOLATE MASTERS ワールドチョコレートマスターズ】

垣本シェフのクリエイティビティを探る

2018年10月31日から11月2日にかけて開催されたワールドチョコレートマスターズ2018(以下WCM))。世界大会を終えた垣本シェフに、弊社社員がインタビューしてきました。作品の紹介を中心にお伺いしながら、シェフのクリエイティビティを探りたいと思います。

大会テーマ:FUTROPOLIS(フュートロポリス)※
各国の代表に選ばれた20名のファイナリストたちは、このテーマを足掛かりにチョコレートガストロノミーの将来についてイメージを膨らませ、いくつもの課題に挑みます。遠くない将来、私たちはどんな場所に暮らし、何を食べ、何を見ているのか。そして、チョコレートは私たちにどのような喜びを与えてくれるだろうか・・・
※ FUTURE(未来)+METROPOLIS(大都市)の造語

 

 


未来の大都市にある食のシーンをイメージして

WCM大会についてお伺いします。年々大会テーマや求められる競技内容が難解なものになっていると感じます。
今回で二度目の出場となりますが、前回大会と比べて変わったと感じたことを教えてください。

垣本シェフ(以下省略)
これまでは大会の開催自体が2年ごとだったのに対し、3年に一度の開催となったので、メーカーもお金と時間をかけることができ、大会の演出やメディアへの露出がより豪華になったと思います。大会前にはドイツでブートキャンプが開催され、参加国の代表選手が集まってワークショップが行われるなど、大会の進め方もこれまでとは変わってきたと感じます。参加選手としては、ピエスモンテやプティガトーを作るだけではなく、それらのストーリーやシーンを伝えるようなプロモーション動画の作成を求められるなど、仕事がとても増えました。

ーご自身のお店シェフとして働く中、大会の準備と日々の仕事とどのように両立されたのでしょうか?

垣)今回に限っては、日々の仕事は信頼するスタッフに任せ、大会に専念できるようにしましたが、それでも準備時間は十分ではありませんでした。

ー各国の選手のレベルは以前と比べてどうでしたか?

垣)各国のレベルは、とても上がったと思います。優勝したスイスも大会のために監督をつけて挑んだりと、参加する選手たちの意識が優勝に向けて非常に強くなっていると感じました。また、サロン・デュ・ショコラとWCM大会を同会場で行っていることも大会自体の注目度が上がる要因になっていると思います。

ー開催場所がフランスということで、湿度や温度など日本の環境と異なり、チョコレートを作る上で苦労されたことはありましたか?

垣)朝早くから競技が始まったせいか、競技中の会場内はとても寒く、フランス人も驚くほど会場内は冷えていました。ピストレも固まってやりにくかったので、ドライヤーなどを駆使しながら作業を進めました。


垣本シェフが表現したFUTROPOLIS(フュートロポリス)とは?

垣)まず、作品全体を通して野菜やハーブを意識的に用いました。それは、テーマになっている『FUTROPOLIS(フュートロポリス)』のFUTURE(未来)について考えた時、今はフルーツがパティスリーのメイン素材ですが、今後は業種の垣根も無くなり、使う材料も野菜やハーブなどが普通になってくるのではないかと思ったからです。

ー続いて、各作品についてご紹介願います。(課題ごとの審査ポイントと併せてご覧ください)

 

課題1The Futropolitan(フュートロポリタン)

[審査のポイント]
・独創性、手作業の技術と技法、細部にわたる出来栄え
・テーマ「FUTROPOLIS(フュートロポリス)」の一貫した解釈

垣)競技条件に手作業を重視するとあったので手作業を増やすよう考えました。あとは、大会で用意された土台が横長だったので、通常のピエスモンテとは考え方を変えて取り組みました。通常、ピエスモンテというと上に高く積んで高さを出して作ることが多いけれど、今回は横にも長くすることができた為、横・奥行き・高さといったあらゆる空間のバランスを考えることが難しく感じました。

 

課題2:Chocolate Travel Cake (チョコレートのガトー・ド・ボワイヤージュ)

[審査のポイント]
・テーマ「FUTROPOLIS(フュートロポリス)」を形とフレーバー、生地、全体的な世界観で表現できているか。
・ケーキの持ち運びのしやすさ
・賞味期限(室温で5日間〜)
・しっとりとしたスポンジをメインにしながらも様々なテクスチャー(質感)が使用されているか。

垣)今回の大会で、最も頭を悩ませた課題でした。ガトー・ド・ボワイヤージュ(日持ちのする焼菓子)で「FUTROPOLIS(フュートロポリス)」というテーマをどう表現したらいいかイメージが湧きませんでした。悩んだ結果、提案した作品はセロリとチョコレートを合わせたもの。この組み合せは、お店でも評判の良い組み合せです。パーツに使用したセロリガナッシュにはカカオバリー®のオリジンシリーズのガーナ40%タンザニア75%を合わせています。このほかに、素材としては柚子や白餡などを使いました。

 

課題3:Futrology(オールノワール フュートロロジー)

[審査のポイント]
・主役である独自のOrNoir(オールノワール*)クーベルチュールチョコレートと、ワクワクさせるフレーバーや生地がもたらす五感をくすぐる体験
・テーマ「FUTROPOLIS(フュートロポリス)」を表現した革新的なデザインのタブレットやバー
・競技者独自のオールノワールチョコレートとのオリジナルなフレーバーペアリングで五感を刺激してください(香り、舌触り、見栄え)
*OrNoir(オールノワール)とは
カカオバリーが175年以上にわたり蓄積した確かな専門知識とシェフの思い描くイメージを融合させることができるチョコレートです。厳選された世界各国のカカオ豆、チョコレート製造の設備、品質検査の機械をご自身で用意することなく、理想の味を創れます。

垣)大会前に日本で作ったチョコレート『OrNoir』に赤ピーマン、白ワイン、グレープフルーツを合わせたタブレットを作りました。素材は癖のあるものを選びました。チョコレートに合わせる素材は、癖のあるものでないとチョコレートの味に負けてしまいます。タブレットの形は課題1のピエスモンテのコンセプトと同様に女性の横顔をイメージしたものにしました。コンセプトが伝わりやすいように口元もほんのり赤くしています。

ー OrNoir(オールノワール)はどんなものをイメージして作られましたか?

垣)ビター感のあるミルクチョコレートを作ろうと決めていました。市場にあるミルクチョコレートは甘みの強いものが多く、甘みを抑えたものは市場にあまり出回っていないので、自分で作ろうと思いました。今回作ったOrNoir『PERSONNALITE』は、ミルクチョコレートとしてギリギリのラインまでカカオマスを加え、仕上げました。カカオマスはマダガスカル、ガーナ、ベネズエラ、ベトナムの4カ国の産地のものをブレンドして作ったので、カカオ豆の世界一周旅行の様なチョコレートになりました。

課題4:Chocolate Snack to Go(チョコレートスナック トゥーゴー)

[審査のポイント]
・スナックやストリートフードを「移動しながら」食べるニーズに応える革新的なアイディアが求められる。ただし、チョコレートを使用して実現しなければいけない。
・塩味のストリートフードとは一線を画す甘いスナックのアイディアを提示。麺やタコス、ホットドッグ、ハンバーガーなどの塩味スナックをスイーツで表現するという考えを越えて検討する
・テーマ「FUTROPOLIS(フュートロポリス)」をフレーバーと生地で表現
・チョコレートスナックの新たなコンセプトと創造的なアイディア

垣)
素材にタイ米を使用しました。日本のお米はもちもちするので、他国の人は食感に慣れていないのではないか?との推察からタイ米を選びました。
また、ルールの中に『新しい味を追求する』とあったので、簡単にわからないもので何をしようかと考えました。最初は巻き寿司のアイディアが浮かび試作しましたが、上手くいきませんでした。そこから試行錯誤を重ね、お米も使用したチョコレートを思いつき、炊いたお米をゼフィール(ホワイトチョコレート)と合わせリゾットのように使いました。お寿司は世界でも認知されているので、シンボルとしても分かりやすいと思い選びました。

 

課題5:Moulded chocolate bonbon(チョコレートの型抜きボンボン)

[審査のポイント]
・伝統的なボンボンの常識を打ち破り、気分を高めるフレッシュな体験をもたらすアイディア
・チョコレートに関する芸術的技能を存分に発揮
・チョコレートとフレーバーのワクワクする組合せ
・フレーバーの感覚を高めるテクスチャー
・ボンボンのコンセプトとオリジナルのチョコ型について、また、テーマとどう結びついているかの説明
・チョコレートの取扱いや、フィリング、チョコレートの結晶化、バランスの良いレシピ作成における作業スキル

垣)事前に審査の順番が20番目(一番最後)と聞かされていたので、既に19個の試食を終えた審査員が食べても美味しいと感じてもらえるように、すっきりとした味を目指しました。
素材は、日本の山椒とそれを基に加工して抽出したオイルにゼフィールキャラメルを合わせ、ガナッシュとして使いました。これにフレーズ(イチゴ)ピューレを使用したコンフィチュールを合わせました。型はオリジナルで作成したものを使用しています。


課題6 : Moulded chocolate bonbon(チョコレートの型抜きボンボン)

[審査のポイント]
・繊細、フレッシュ、軽い生地がキーワードですがしっかりとしたフレーバーが必要
・未来に通用するフレッシュなパティスリーのコンセプト
・オリジナルな形とデザインのパティスリー

垣)冷凍してはいけないというルールの中で、敢えて型で抜いたようなものを作りたいと思いました。シェルの部分も普通だったらグラサージュだけで済ませるところを手の込んだ造りにし、3層に仕上げました。素材は、ローズマリーやグレープフルーツなどを使い、オリジンシリーズのガーナ40%サンドマング70%メキシック66%パプアジィ35%ゼフィールキャラメルのチョコレートを合わせています。

 

課題7:Chocolate design City of Tomorrow(チョコレートデザイン”シティオブトゥモロー”)

[審査のポイント]
・「シティオブトゥモロー」の作品は、テーマ「フュートロポリス」に沿っていなければなりません。
・この課題では、審査員はベースをどのような創造的な方法で組み込んでいるか特に注目します。
・審査員は、以下の基準に沿ってチョコレートデザインを厳正に審査します。
独創性/豊富な技法や技能を用いてチョコレートデザインを制作することが求められます/細部にわたる出来栄え/テーマ「フュートロポリス」の一貫した解釈/今回の興味深いテーマの独自の解釈

垣)初日に作ったピエスモンテと異なり、この課題では白いデザインキューブを使用することが共通条件として提示されていて、どう進めていくのが良いかわかりませんでした。このキューブは、6面全て見えるデザインが異なる為、どこを正面にして表現するかも考えなければいけませんでしたが、準備期間中も時間だけが過ぎていき、非常に悩みました。最終的に、面に合ったはめ込み式のパーツも用意し、大型ピエスと関連するよう女性と野菜で表現しています。

 


作品を作って終わりではなく、伝えること

 

ー今大会を通して、テーマの解釈で一番難しいと感じたことを教えてください。

垣)テーマに対してのデザインをどう表現するかが難しいと感じました。今回与えられたテーマ「FUTROPOLIS(フュートロポリス)」は未来(Future)と大都市(Metropolis)を掛け合わせた造語で、簡単に言うと未来の大都市を想像して表現するという内容でした。10年後、20年後どう都市が変化していくかは誰もわかりません。考え方によっては未来は今よりも暗い世界かもしれないし、食が豊かでは無く貧困になるかもしれない。いろんな考え方ができるから答えが同じ方向ではないところが難しいと感じました。

ーインタビューを終えてー

WCM大会のテーマでは、誰も答えを持っていない未来を考えることが求められました。それは作品を作り優勝を目指すということだけに留まらず、これから先に続く未来に向けて、パティシエ、ショコラティエが、どう社会とつながっていくのかさえも考えさせられるテーマでした。人口や環境問題、貧困、災害など、視野を広げるほど答えを見つけることが難しいテーマだったのではないでしょうか。また、自身が探し出した答えをどんなデザインや味に落とし込めば、国や言語を超えて伝えられるかということも大きな課題だったと思います。今回日本代表に選ばれた垣本シェフは、作品のプレゼンテーションでは通訳を介さず、ご自身の言葉で伝えることも大事にされていました。きっかけは、お店に外国人のお客様が来られることが少なくない為とお聞きしていますが、今回の大会準備の合間にも英会話教室へ通われたと伺いました。この他、プレゼンテーション用の動画を外部の方と協力して制作するなど、テーマの解釈を”伝える”方法も試行錯誤されていました。

今回のインタビューを通して、垣本シェフが「今後、パティシエやショコラティエもプレゼンテーション能力が重要になってくる」と話されていたことが印象的でした。

ー お忙しい中インタビューにご協力いただいた垣本シェフ、ありがとうございました。

 

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