2019/06/24

厳しい製菓業界を生き抜くために!パティシエールにインタビュー

アディクト オ シュクル オーナーシェフパティシエール
石井 英美(いしい えみ)氏

女性パティシエを指す「パティシエール」は、女子小学生の『なりたい職業ランキング』では常に上位にランクインする、お菓子好きの女性にとって憧れの職業です。
しかし、夢を追いかけてパティシエールになっても様々な理由で離職してしまう現状があるのも事実。
いまなお、男性社会が色濃く残る製菓業界。
今回は、そんな厳しい製菓業界で活躍されている女性オーナーにフォーカスを当て、ご自身の体験談から若手パティシエールに向けたエールをいただきます。

厳しい修行時代を経て、夢であるお店を開店した女性オーナー


取材に向かったのは東京都目黒区にある人気店「アディクトオシュクル」。
かわいい猫のパッケージが人気のクッキーシリーズは同店の大人気商品。
絶えずお客様が来店され、近隣の方にも愛される人気店のオーナーシェフの石井さんに修業時代について、また好きな仕事を続ける秘訣について伺います。

アディクト オ シュクル オーナーシェフパティシエール
石井 英美(いしい えみ)氏

アディクト オ シュクル オーナーシェフパティシエール
石井 英美(いしい えみ)

東京都出身。
大学卒業後、アパレル企業、実家の保育園に勤務したのち、お菓子好きが高じて製菓学校に入学。
卒業後は同校のフランス校に進学し、フランスのル・トリアノン(現在閉店)、ル・グルニエ・ア・パンでの研修後帰国。
アテスウェイ、ヴィロン、ラデュレ・ジャパンにてパティシエの経験を積む。ラデュレでは、退職までの2年間マカロン製造部長を務める。
2014年4月に、「アディクト オ シュクル」を開業。
2016年日本洋菓子協会連合会公認技術指導員に任命される。

 

夢をあきらめきれず、製菓の道へ


-石井シェフが製菓の道に進んだ理由を教えてください。
大学卒業後にアパレル、実家の家業である保育園と働きましたが、もともと大好きだった製菓の道があきらめきれず、30歳手前で製菓の道に進むことを決意しました。
お菓子が作れるのであれば、どんなお店でもよかったのですが、当時は今よりも男性社会が色濃く、お店の求人情報を見ても男性しか募集していないお店が多かったです。
OL上がりで応募しても本気だと思われないと思い、両親に内緒で就職斡旋所のような感覚で製菓学校の入学を決めました。
ですが、家業を継ぐ予定で実家の保育園で働いていたので、辞めて製菓の道に進むことで家族を裏切ってしまうのではないかという葛藤もありました。
家から追い出される覚悟で両親に製菓学校に入学することを伝えてみました。
その予想は外れ、両親は「もう決めたことだろう」と入学を認めてくれました。
恐らく、休日はお菓子教室に通い、平日はお菓子のレシピ本を見て、毎晩お菓子を作っていたので、私の意志を感じ取ってくれていたのだと思います。

-フランス留学もされたそうですが、留学を決めた理由は何だったのですか?
念願も叶い、東京にある製菓専門学校に入学をしました。
入学後は、フランス菓子の歴史や起源、なぜフランスの文化に根付いているかを学び、「フランス菓子って奥深い!面白い!」と感銘を受けて興味を持ちました。
それから、フランスの本場の味をより学びたいと思い同校のフランス校へ入学する事を考え始めました。
当時は、フランスの県の法律で30歳以上の研修生は受け入れしないという制度があったのですが、その時に私は28歳でしたので、年齢制限ギリギリで少々あせっていたのを覚えています。
ですが、そんな自分の思いの中、葛藤もしていました。
専門学生で稼ぎもない中で、フランスに行くにはまたお金がかかる…。
そんなもやもやした気持ちの中、フランス校の紹介DVDを実家で見ていた際に、父親が通りかかり、
「フランスに行きたいのか?」
と声をかけてきました。
「行きたいけどお金がなくなっちゃうし、そのあとの生活が心配でとても行けない」
と伝えると、「そんな気持ちで家の仕事を辞めたのか!文無しになってもいいから挑戦しなさい!」
と、いきなり叱られました。
昔から父親に叱られる事がなく、初めて叱られたので驚きましたね。
でもその叱咤激励に背中を押され、入学を決めました。
入学後の1年間は、日本では経験できない事も多く、私のパティシエール人生そのものが変わりました。

アディクトオシュクルの生菓子

▲石井シェフが感銘を受けたオーソドックスなフランス菓子にアディクトオシュクルを少しプラスした生菓子

-現在ご自身のお店を開業されていますが、お店のこだわりや特長を教えてください。
手作り感があるというのが特長だと思います。
当店で人気商品でもあるクッキー缶は、自分では普通のクッキーだと思って作っていたのですが、お客様から「美味しいね」とよくお声をかけていただく商品です。
おそらく、工場製品ではなく、手作りだからこそお菓子のこだわりが伝わったのではないかなと感じています。
この他にも、製菓業界の巨匠の方々が来店される機会もあり、そのあと他の方に「彼女のお菓子は気持ちがこもっているお菓子だ」と仰っていたことを人づてに聞いた時はとても嬉しかったです。

猫缶クッキー「ポワット ブルー」

▲売り切れ必至、大人気商品の猫缶クッキー「ポワット ブルー」(一例)

 

「みんなより10年遅い」が一番の壁であり一番のバネ


-修行時代、現場で働くうえで困ったことはありましたか?
女性ということでは特に困ったことはなかったです。
男性より体力は少ないですが、重たいものは分割して運ぶ、高い場所にあるものは台に乗って取るなど工夫すれば業務に支障はありませんでした。
現場に女性が少ないことは多少感じていましたが、覚悟をして製菓の道に進みましたので、性別を意識して凹んだり腐ってしまうとうまくコミュニケーションも取れなくなってしまうのでネガティブに考えないように仕事をしてきました。
ただ、女性だから年上だから面倒くさいと周りに思われないようにしようとだけは思っていました。

-壁に直面したことはありましたか?
ありました。
高校を卒業してすぐに製菓の道に進むより10年遅く始めているので、1年で10倍のことを吸収する意気込みで仕事をしていました。
そのため、いつも気合ばっかり入っていて、空回りしていた時期もあったと思います。
当時修行していた先の労働環境が結構厳しく、配属先のパイルームで6~8℃の寒い中1日中勤務していました。
当時はヒートテックなどもなかったため、寒がりの私にとってはとても厳しい環境でしたが、そこを出たいというと「根性なし」と思われると思い、言えませんでした。
また、後輩が生菓子に配属されたときにはとても悔しい思いもあり、毎朝毎晩自転車をこぎながら涙が止まりませんでした。
従業員も少なく、辞めていく人も多かったので自分にとってチャンスだと思ってやってきました。
日々の業務で、自分への職人としての未熟さを思い知ることが多く、今思い返すと精神的にきつい時期でした。

-そんな厳しい状況の中でリフレッシュ方法など気持ちの切り替えはどうされていましたか?
たぶん、”オタク”過ぎたというか、まっすぐ過ぎたのだと思います。
休憩時間になるとロッカー室に置いておいてあるレシピ本を広げて読んでいました。
自分にとっては趣味の延長線上で始めたのでただ興味があるから見ているだけだったのですが、周りの子から
「すごいね」
「何やっているの?」
「大丈夫?」
と心配されていました。
ただ、私にとっては頭の中で「どういうお菓子ができるのか」を想像しているときがとても楽しくて、憧れをもってレシピ本を見るのが気持ちをリフレッシュさせる1番の方法でした。
今は飼っている猫と遊ぶことが1番のリフレッシュ方法です。

アディクト オ シュクル オーナーシェフパティシエール
石井 英美(いしい えみ)氏
-お菓子が好きで製菓の道に進む方も多いと思いますが、挫折をして離職する方も多いのが現状としてあります。
 好きなことを続ける秘訣はありますか?
私の場合は性格的な執着心でここまで来ましたが、常に「辞めたら負け」をという思いを念頭に置いて働いていました。
でも今思えば、思いつめたときには、気楽に1回スイッチオフしながら目の前のことを続けられればもう少し楽だったかなと思います。
人生は楽しいことばかりではないですので、「ただお菓子が好き」という趣味の延長とお菓子が好きでそれを仕事にすることは全く違います。その違いを考えて、向き合うことが大切だと思います。
厳しい環境なので辞めてしまう方も多いのが現状ですが、本当に好きだったらまずはがむしゃらに働いてみる。
気が付いたらある程度のキャリアになっていることが多いのでとりあえず続けてみるというのが大切だと思います。
技術を着々と習得していくということを自分の課題として設定していけば日々の業務も面白く感じられると思います。

-パティシエールとして働いていてよかったと思うことは?
たくさんありますね。
1つ目は、
お客様に自分がいいと思っていたものが支持されているのが目に見えてわかることです。アディクトオシュクルのお菓子を食べて「美味しい」とハッピーな気持ちになってもらえるのがとてもうれしいです!
2つ目は、
お菓子を作ることを通して「生きるってなんだ」「自分の創造したいことってなんだ」と人と意見交換をしたり、自分と同じ考えを持っている人とつながって強い絆を結ぶことができることです。色々な考えの方がいらっしゃるので全員が同じ考えではないですが、そういうつながりが持てることはとてもよかったです。
3つ目は、
自分が憧れていたパティシエ業界の巨匠の方に最近、”オーナーシェフ”として話しかけていただけることです。顔を知っていただけているのが本当に嬉しく、やっていて良かった、生きていてよかったと感じます。

「フレジエ」(写真左)「パリ ブレスト ノワゼット オランジュ」(写真右)

▲石井シェフのおすすめ生菓子
 定番商品「フレジエ」(写真左)※レ ヴェルジェ ボワロンのフレーズピューレをご使用いただいております
 スペシャリテ「パリ ブレスト ノワゼット オランジュ」(写真右)※レミーコアントロー、カカオバリーをご使用いただいております

石井シェフの今後のビジョンとは・・


-今後の石井シェフのビジョンを教えてください。
もう少し店舗を広くして、動線を良くして働きやすく生産しやすい職場にしたいと考えています。
でも、まずは今ある商品の質を上げ、更に商品のバリエーションを増やしていきたいです。お客様が楽しいと思える商品を増やしたいなと思います。

焼菓子も多数販売

▲焼菓子も多数販売

石井シェフの愛猫をモチーフにしたグッズ

▲石井シェフの愛猫をモチーフにしたグッズを販売

 

パティシエールに向けてエール


-最後に夢に向かって頑張っているパティシエールに一言お願いします。
憧れを持ち続けてほしいです。憧れがあれば何かあっても挫折しにくいので。
少しは必要だと思いますが、意地だけでやっていても仕事は楽しいものではないので自分にとって何かいいことを思い浮かべながら日々を頑張ってください。
今は大変だと思うことがあっても、自分が成長すれば様々なことが意義深く、時に人を喜ばせる経験に変わります。

 

取材後記


あるデータによると、新卒パティシエの離職率は1年以内で約70%、3年以内で約90%、10年以内となると約99%という結果になっていました。
その要因には、労働環境だったり、体力的な問題、精神的な問題、様々な事情があるかと思いますが、離職率はとても高くなっているのが現状です。
ですが、そんな中でも夢に向かって頑張っている若手パティシエもたくさんいます。今回はその方たちに向けて日本で活躍されている女性オーナシェフの石井様よりご自身の体験をもとにお言葉をいただきました。

どの職業でも言えることですが、夢を抱いて飛び込んだ仕事でも、理想と現実のギャップは必ず存在します。
石井シェフのお話によると、修行時代は楽しいことばかりではなく、厳しい場面も多々あったそうです。
職人の世界でもある製菓業界は味覚や技術があってこそ、その技術は一朝一夕に身につくものではありません。修行による下積み経験で培っていくものです。

『夢を追いかけて入った製菓業界、どんなに辛くても自分のためにも応援してくれた家族のためにも「辞めない」ということを念頭に置いて仕事をしてきた。』と石井シェフはおっしゃっていました。
そんな厳しい環境の中でも、続けて来れた理由は『憧れや目標を持ち続けていたから』だそうです。

『厳しい環境の中でも自分なりのリフレッシュ方法や目標などを見つける』、『思いつめたときには一旦立ち止まってよく考えてみる』当たり前のことながらも日々の業務に追われてしまい忘れてしまっている大切なことを再確認させていただき、私自身も大変勉強になりました。

 

取材協力


Addict au Sucre(アディクト オ シュクル)

フランス語で「甘味中毒」を意味する「Addict au Sucre(アディクト オ シュクル)」は、お菓子が大好きだったシェフが「お客様にも甘い物の虜になってほしい」と「お菓子作りに進んだ初心を忘れないように」という意味を込めて名付けたそう。
「ごく当たり前の、オーソドックスなフランス菓子をそのまま日本で」というお店のコンセプトのもと、少しAddict au Sucreらしさをプラスした生菓子と可愛らしい猫のイラストを缶にあしらった猫缶クッキーが人気のパティスリー。

アディクト オ シュクル(Addict au Sucre)
住所:東京都目黒区八雲1-10-6
TEL:03-6421-1049
営業時間:11:00~19:00(商品無くなり次第終了)
定休日:火曜日(水曜日不定休)
HP:http://addictausucre.com/

関連URL
▼レ ヴェルジェ ボワロン
https://www.nichifutsu.co.jp/products/foods/brand/boiron/

▼レミーコアントロー
https://www.nichifutsu.co.jp/products/foods/brand/remy-cointreau/

▼カカオバリー
https://www.nichifutsu.co.jp/products/foods/brand/cacaobarry/

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