2020/02/19

日仏商事を卒業して開業されたあの人にインタビュー「ブーランジュリー・コメット」

「独立を考えているけれど、どのように準備をしたらいいの?」と悩んでいる方はいらっしゃいますか?
今回は、前回反響のありました「日仏商事を卒業して開業されたあの人にインタビュー」企画の第2弾。
ブーランジュリー・コメットさんにお伺いして、開業準備から開業後の事について根掘り葉掘り聞いてきました。
独立を考えている方、不安が大きくて一歩踏み出せない方には必見です!

 

目次


今回お話を伺ったのは・・・

フランスの食文化に惹かれて・・・

大学在学中にパン職人の道へと決意

フランスに居た時から思い描いていたコンセプトをより明確に

開業直後に失敗から学んだお客様への対応の変化とは

 

今回お話を伺ったのは・・・


ブーランジュリーコメット
小林 健二さん、さやかさん

▼店舗概要
フランスで出会い、日本に帰国後、夫婦二人三脚で2016年7月1日にオープン。
東京の赤羽橋駅から徒歩5分。観光地である麻布十番や東京タワーなどがほど近く、来店客は近隣の住民・オフィスに勤めている方はもちろん、外国人観光客など様々。
目を引くブルーの外観がとても印象的で可愛らしいお店。本場パリで修行された小林健二シェフが作るこだわり溢れたパンと、さやかさん(元日仏商事社員)の思いやりのある接客から多くの方に愛される人気店。

フランスの食文化に惹かれて・・・


ーまず、さやかさんに質問です。日仏商事に在籍していた期間はどのくらいですか?
 また、日仏商事での思い出などはありますか?
日仏商事には3年間在籍していました。
当時はベーカリーディビジョン(現:サフ事業課)という部署でルサッフルとのメッセージのやり取りを行っていました。

日仏商事での思い出は・・私自身、食べることが大好きだったため、美味しいパンやお菓子を食べられたり、また、世界大会のクープ・デュ・モンドなど世界レベルの技術を身近に感じさせてもらい、奥深い世界だなと感銘を受けたのを今でも覚えています。

ー日仏商事を退社後、旦那様と開業に至るまでの経緯を教えてください
日仏商事を退社後は、日本でワインの会社に転職をしました。
転職後、1年ほど働いたのち、「フランスでフランス語を使った仕事をしたい」と思い、渡仏を決めました。
大学在学中に留学で行ったことはありましたが、もう少し長い期間で行ってみたいと思い、永住するつもりで渡仏しました。
大学院に通いながら、チーズ屋さんで働いたりと、渡仏後もフランスの食文化にとても惹かれていて・・・ある時、美味しい物が好きな日本人が集まるパーティーに参加しました。そこで健二さんと出会い、3年後に日本で開業するために帰国をしました。

大学在学中にパン職人の道へと決意


ー小林シェフに質問です。パン職人を志したきっかけを教えてください
パン職人を志したのは、大学在学中でした。
元々はパン職人ではなく、大学生の時に喫茶店でアルバイトしたのをきっかけに、将来はコーヒーショップを経営したいと考えていました。
その当時は、コーヒーにプラスアルファでお菓子かパンまたは料理を提供できるようなお店をイメージしていました。

考えた結果、パンとともにコーヒーを出せるお店を開業しようと思い、パンについて勉強し始めたところ、徐々にパン作りの面白さに気づき、コーヒーショップのマスターではなくパン職人になるのを決意しました。

ー小林シェフが開業に至るまでの経緯を教えてください
たまたま、PAULのバゲットを食べる機会があり、その美味しさにとても感動したのを今でも覚えています。
そして、「本場のフランスで売られているパンはどれほど美味しいのだろう。食べてみたい。」と思い大学の短期留学の制度を使い、1か月間フランスに留学しました。本場のフランスパンを食べて、そのおいしさに感動し、大学卒業後は渡仏してパン職人としての経験を積もうと心に決めました。

パン職人になると決めたときから独立して自分のお店を持つことを目標として掲げており、「自分のお店を持つからには人気店で学びたい」という強い意志をもっていました。
その為に、フランスの現場で修行をする為に必要な語学を学び、ルーアンにあるパン学校に入学し徹底的にパンの基礎知識を勉強しました。

ふと、その時に感じたのが、大学卒業してから周りの就職した人とは違って留学してフランス語を覚えただけ、自分ではまだ一銭も稼いでいないという劣等感と焦りをすごく感じていたため、1日でもはやく現場で働くために最短でC.A.P(※)を取得できるコースを選択しました。

無事にC.A.Pを取得後は、パリのベーカリー『デュ・パン・エ・デジデ』で6年ほど修行をして、日本に帰国し、ブーランジュリー・コメットを2016年の夏に開業をしました。

※C.A.Pとは
職業適性証(Certificat d’aptitude professionnelle)のことで、フランスでは中等教育レベルの職業教育を修了したことを示す資格。
職人や専門職での技術資格の証明書として取得ができる。

ーフランスで修行していた時はどのようなことをイメージして修行をしていましたか?
フランスで働いていた中でたくさんの人との出会いがありました。
料理のトップシェフから、世界的なコンクールで1位になったパティシエなど、そのような方たちに何を表現して作品を作っているのか聞いたところ、『自分』だと言われたのがとても印象的でした。
自分が修行してきたものをそのまま提供するのではなく、自分自身の中で一度かみ砕いて解釈をし、その上でお客様にどのようなものを食べてもらいたいか、見てもらいたいかを考えること。
その考え抜いた答えを表現するためには国籍や性格、色彩感覚など自分自身をよく知らないといけないのですが、それを表現するのは思っていた以上に難しかったです。
真似をすることも大切ですが、フランスで修行してきたときと同じものを持ってきてもしょうがないし、それだとただの支店になってしまう。
そうではなく、例えば、日本の食材を使ってみてアレンジするなど、数年後には自分のスタイルに徐々に変化していけるような技術を習得できるようにフランスでの修業に取り組みました。

フランスに居た時から思い描いていたコンセプトをより明確に


ーまずは、お店の名前の由来について教えてください
開業をすると決めたときから日本の食材である『米ぬか』をメインにしたパンを販売したいと思っていました。
それを名前の由来に使いたいとは思っていませんでしたが、たまたまフランス語辞書をめくっていた時に「Comète=彗星」を見つけ、その横に「彗星に図面を引く」という慣用句が載っていました。意味が「できもしないことを企てる」。覚えやすい響きがとても良く、名前を決めました。
また、看板商品に使用しているコメットの”米ぬか”や、日本人に親しみのあるキャラクター”コメットさん”など色んな意味を持たせることでお客様自身が自由に想像して楽しんでもらいたいという思いも込められています。

ーお二人が日本に帰国されてからは開業に向けて初めにしたことは何ですか?
まずは、開業読本を一通り買って、読むところから始めました。
そして、2人で話し合ってお店のコンセプトを決め、より具体的にするためにパン屋さん巡りをしました。
日仏商事に勤めていた時もパン屋さんに行く機会が多くありましたが、開業する立場になってから見ると視点も全く違って、とても勉強になりました。
また、フランスにいた期間が長かったので、日本のパン屋さんを改めて見るいい機会でした。

ーお店のコンセプトはどのようなものを考えていたのですか?
パン屋巡りをして2人で味を共有しながら、開業するまでに何度も話し合いました。

開業する前のコンセプトは、住宅地での開業をイメージしていたため、大型パンを家で切って、家族団らん、時間をかけながら食事を楽しんでもらいたいという思いを持っていました。そのため、お店の名前の由来であるコメットを作り、看板商品として販売しています。

しかし、このあたりはオフィス街のため、日常的に使えるスーパー少なく、近隣住民の方は忙しい方も多いので、徐々にコンセプトも変化しつつあります。
今では販売している商品もオフィス街に合わせて、手軽に食べられる商品や飽きの来ない商品を意識しています。

▲お店の看板商品『コメット』: お店の名前の由来の1つである「米ぬか」を使用。 ホールから1/4サイズまでお客様に合わせた様々なサイズを販売。

▲おすすめ商品: 季節で変わるコメットを使ったタルティーヌ(手前)とエスカルゴ(奥) 手軽に食べられる商品として小林シェフのこだわりが詰まった商品

 

ー準備の段階でやっておいてよかったと思うことはありましたか?
開業相談ができる方を見つけておくことです。
私たちの場合は、設計士兼デザイナーの方を知人に紹介してもらい、事前に相談に乗ってもらっていました。
開業にあたってのノウハウを教えてもらいながら、自分たちのコンセプトを伝えたうえで予算の設定、必要な機材の選定、どこにお金をかけていくのかなど、ひな形の作成を手伝ってもらいました。
また、物件探しもその方にアドバイスをいただきながら進めました。

ー他に相談されていた方はいましたか?
元々面識のあったパン屋さんや、日仏商事時代にともに働いていたベッカライトーンガルテンの中川さん、また日仏商事の社員に業者の選定や、今後の事について相談をしながら開業準備を進めました。

ー物件はどのように探したのですか?
パン屋巡りをしていた時に同時に物件探しをしていました。相談していた方にアドバイスをいただきながら進めていましたが、なかなか理想的な場所が見つからず物件探しは苦労しました。
今の場所はもともと家が近く、散歩をしているときに見つけました。
「麻布十番」はとても家賃が高い立地ですが、ある程度築年数が経っていた物件ということもあり比較的安く借りることができました。

ー開業資金はどのくらいですか?
2300万円くらいです。
当初は2000万円と見込んでいましたが、予定より300万円オーバー。
資金調達は、半額は自分たちで貯金をしていた分と、残りは家族から融資をしてもらいました。
また、港区に家賃の半額を区が負担してくれる制度があり、そちらも活用しました。

ーご夫婦で開業されるにあたり、開業準備の際の役割分担などはありましたか?
販売エリアと製造エリアとで役割を分担しました。
当たり前ですが、経営に関しては素人同然のため製造・販売ともにどのような準備が必要か、また、どのくらいお金がかかるのかが分からず開業準備から開業1年目まではほぼ手探り状態でのスタートでした。

開業直後に失敗から学んだお客様への対応の変化とは


ー開業後、失敗談はありますか?
いざ開業をしたときに、お客様を迎える十分な準備ができていなかったことです。
お客様が来てくれるか不安になり、宣伝をしたのに、いざお客様がいらっしゃったら全然商品がない、ヴィエノワズリーを熱いまま出してしまうなど、まず、お客様に対応できたことに満足してしまってリアクションまで計算できていませんでした。

開業して間もない頃に、メディアも取り上げていただくことも多く、近隣住民の方やパンマニアの方々に注目していただき来店していただいたのにも関わらず、思い描くような対応ができませんでした。

ーお店の特徴はありますか?
・お客様とのコミュニケーション
開業をするにあたって、『対話できるパン屋さん』を目指そうと思っていました。
パリのパン屋さんでは、店員とお客さんの対話が当たり前にあるんです。そのような温かくてアットホームなお店にずっと憧れを抱いていました。
この麻布十番近辺では、会話をしながら買い物をするという場所がとても少なく、少ないからこそこのようなお店が必要だと感じています。
常連客の中では、会話を楽しみにして来店されるお客様もいらっしゃって私たちもお客様と会話ができるのをとても楽しみにしています。
一方、近隣にオフィスがあるため、急いでいるお客様にはいつもよりスピードアップを意識して接客するように心がけています。
ゆっくり丁寧な接客と、オフィス街に合わせたスピーディーな接客を使い分けています。

・商品力
自分たちが美味しいと思うパンしか商品として出さないと決めています。
スタッフ全員で意見を出し合って、何度も試行錯誤を繰り返して商品を作り、一番美味しいと感じる最高の状態での提供を心がけています。

▲外装の青と白を基調とした可愛らしい店内。自然にお客様と会話できる対面式のレイアウト

▲小林さんご夫妻とスタッフの方全員で試行錯誤を繰り返したこだわりのパンたち

ーご夫妻で開業されるメリット/デメリットを教えてください
メリット
夫婦での開業だと、一番信頼をしている人が近くにいる安心感があります。
日頃から同じ食事をしていると、必然的に味覚が似てくるので、試作品の試食などはお互いの意見を尊重し合えますし、とても参考になります。
また、業務分担ができるので、製造・販売ともに1つの事に集中ができる点も夫婦で開業して良かったと思うところです。

デメリット
自分の思い描く通りにお店をやるのであれば、1人で開業する方が良いと思います。
夫婦で開業すると、必ず衝突はありますし、お互いが少しずつ遠慮した形になってしまいます。
また、収入源が1つのため、軌道に乗って生活が安定するまでは多少時間がかかります。

▲ご夫妻の仲の良さがとても伝わってきます

ー最後に、今後のビジョンはありますか?
タルティーヌを提供するカフェをやってみたいと思っています。
開業当初は販売していませんでしたが、オフィス街に合わせた手軽に食べられるものを販売したいと思いコメットを使ってタルティーヌを販売し始めました。
自分を表現しやすく、彩りを出しながら華やかに作り上げるのが好きなので、季節ごとに使用する材料を変えるなどこだわりを持っています。
持ち帰りやすく、傷みにくい素材を活用するなど制限はあり大変ですが、いつかは、自慢のタルティーヌをカフェなどで提供できるような機会があればうれしいです。

 

取材後記


目に飛び込んできた鮮やかな青い外観。中に入ってみるとアットホームな落ち着く店内。
インパクトのあるお店の看板メニューであるコメットと、そのコメットを使った色鮮やかなタルティーヌ。
ご夫妻のこだわりが詰まった店内とパンは目を惹かれるものばかりでした。
また、お二人から溢れ出る優しい人柄もこのお店が愛される理由の一つかなと感じました。
オープンして3年目、これからも小林さんご夫妻はじめ、コメットのスタッフ皆さんがこだわり抜いた新商品をとても楽しみにしています。

 

取材協力


Comète (ブーランジュリー・コメット)
住所:東京都港区三田1丁目6−6
TEL:03-6435-1534
営業時間:9:00~18:00
定休日:日・月曜日

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