2021.02.25

パンの世界大会で世界一に輝いたパン職人に聞く。苦悩の末につかんだ成功と今後の未来とは

皆さん、こんにちは!

2021年3月9日(火)~12日(金)に開催される「MOBAC SHOW 2021」のイベントブースにて、2022年クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・ブーランジュリーに出場する日本代表選手の最終選考会が行われます。
そこで、今回は2012年クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・ブーランジュリーにて世界一に輝いた日本代表選手へインタビューを行いました。

大会の様子や当時の裏話など、様々なお話を伺ってまいりました。

世界一に輝いたパンも購入可能。フランス感漂うパン屋「デュデスタン」


大型商業施設や、閑静な住宅街、お寺や公園が多く自然豊かな雰囲気が感じられるベッドタウン、妙典。
最寄駅である、東京メトロ東西線妙典駅から歩くこと約7分。
クラシカルな雰囲気が漂う三角屋根が可愛らしいパン屋「ブーランジュリー デュデスタン」があります。

取材日は雨模様だったのにもかかわらず、絶え間なくお客さんがお店に引き寄せられていきます。
さて、中に入ってみましょう。

今回はこちらのお店のオーナーシェフ、佐々木さんにお話しを伺います。

ブーランジュリー デュデスタン
 オーナーシェフ 佐々木卓也 

▼Profile
神奈川県生まれ。
大学時代にパン職人になることを決意し、大学卒業後、横浜に本社があるポンパドウルに入社。平塚店、上大岡店、逗子店を経験後、製品開発部にて勤務。
2009年のパンのワールドカップ「クープ・デュ・モンド」ヴィエノワズリー部門日本代表を獲得、2011年アジア予選で翌年の本選出場権を獲得。2012年パリで開催された世界大会で優勝し話題となる。
その後、ポンパドウルを退社し、2015年に千葉県市川市に「ブーランジュリー デュデスタン」をオープン

クープ・デュ・モンドで見たフランスの景色・雰囲気を日本で感じてもらいたい


―まずは、お店の紹介をお願いします
ポンパドウルに勤めているとき、フランスに連れて行ってもらう機会が何度かありました。
そのとき見たフランスの風景や雰囲気に魅了され、自分のお店を持つときにはそれを感じられるようなお店にしたいと考えていました。
お店の場所は、当時空き家だった今の建物を見た時に内装がおしゃれだったこともあり一目惚れして決めました。

ポンパドウルで培ったこと、クープ・デュ・モンドの大会で得た経験を踏まえて私だからこそできる商品ラインナップを考えようと思いました。
看板商品は、クロワッサン、アップルパイ、食パン(角食)です。


▲人気看板商品のアップルパイ

▲食パンはお客様の要望に合わせて豊富に取り揃え

他に、おすすめの商品は、シナモンボックス、最近は土日限定でライ麦パンも販売しています。
パンのラインナップは、ハード系から菓子パン、ヴィエノワズリーまで幅広く、バラエティに富むように作っています。
自分自身の色も出しながら、地元の方の好みにも合わせてラインナップを豊富に取り揃えています。


▲佐々木さんおすすめのシナモンボックス

▲ハード系も数多く販売

また、カヌレ、シュークリームなどのお菓子もこだわりの1つで、自分のお店を持ったら絶対に販売したいと思っていました。
カヌレに関しては、カリッとした食感を損なわないように初秋~初夏まで販売をしています。

▲佐々木さんこだわりのクリームがたくさん詰まったシュークリーム。そしてバスクチーズケーキが並ぶ

実は2度目の挑戦だった。作品づくりは毎日8時間越え


―クープ・デュ・モンドの事について伺います。大会に出場しようと思ったきっかけは?
ポンパドウルの開発室で勤務していた時、当時の上司からの情報がきっかけでクープ・デュ・モンドの事を知りました。
実は、日本代表選手に選出される前大会のパン部門で一度挑戦したことがありました。そのときは軽い気持ちで「1度受けてみるか」と思い、出場してみたのですが、選手には選ばれず。
この経験を経て、ポンパドウルでしか働いたことがない自分のパンは他の会社の方から見てどう評価されるのか、自分の実力を試してみたいと思い挑戦を決め、本格的に作品づくりに取り組み始めました。

―作品を作るうえで重要視したことはありますか?
作品はかなりの時間を掛けて考えました。
日中は開発の仕事をしていたので、会社で寝泊まりしながら毎晩8時間ほど作品作りに没頭し、試作は仕事の合間を縫って作っていました。
会社からのバックアップもあり、気を使うことなく集中できる環境を整えてもらえたのも大きかったです。

プレッシャー・緊張・スランプ・・壁を乗り越えた先に見た忘れられない光景


―国内選考からフランスでの本選まで、印象深かった出来事は?
2009年のMOBAC SHOWの会場で国内最終選考が行われたのですが、正直なところ作業していた時の記憶がありません。唯一、たま木亭の玉木さんに「クロワッサン、いい色だね」と言ってもらえたことだけは覚えています。
また、他の出場者の作品に興味深々でした。自分には無い感性や技術で作り上げられる作品を見られるのは楽しかったです。


▲2009年国内最終選考の様子①

▲2009年国内最終選考の様子②

▲2009年国内最終選考にて3名の日本代表が選出

▲2009年国内最終選考での佐々木さんの作品

国内最終選考で3名の日本代表選手が決定し、本選に挑む前にまずはアジア予選の通過が必須でした。
それぞれ部門が異なる各人の戦いでもありますが、チームの雰囲気は良く、変に意識しすぎず自然体でトレーニングに励むことができ、チームワークを深めることが出来ました。
ただ、アジア予選に出場した時はかなり精神的に辛かったのを覚えています。正直、脳から消し去りたい記憶です。
このアジア予選を通過しないとフランスに行く切符はつかめないというものすごいプレッシャー。
それに当時は、自分の作品が思うように作れないというスランプにも陥っていました。
チームの足を引っ張っているのではないかという思いから、かなり痩せました。
アジア予選の作業中は緊張とプレッシャーの為、全くと言っていいほど記憶がありません。


▲2011年アジア予選の様子①

▲2011年アジア予選の様子②

―その後、見事にアジア予選を通過され、いよいよフランスでの本選に挑んだ時はどうでしたか
アジア予選が終わってから、一気に気持ちが楽になり作品に自分らしさを出せました。
アジア予選での緊張がウソのように、フランスでの本選は不思議と緊張せず、食事も人一倍食べ、本選もリラックスして挑めました。
「あとはやるだけ」と気持ちのスイッチが切り替わり、良い意味で開き直ることが出来たのだと思います。
作業中も審査員のいる場所を把握する余裕があるほど、楽しみながら本選の8時間を過ごしました。
心に余裕ができ、予定よりも早く作業を終えることが出来たのは、アジア予選でのあの緊張感を味わえたおかげだと思います。


▲2012年パリでの本選の様子①

▲2012年パリでの本選の様子②

―順位発表で1位に日本の名前が呼ばれました。どのような気持ちでしたか?
呼ばれた瞬間は、頭が真っ白になりました。
それと同時に終わった解放感と、自分たちが今まで積み重ねてきたものが結果として実った嬉しさが込み上げてきて、日本チームの仲間たちと喜びを分かち合いました。

―クープ・デュ・モンドに出場して良かったことはありますか?
数えきれないほどあります。
まずは、度胸が付きました。
フランスでの本選へ出場するまで、かなり多くの壁やプレッシャーと闘ってきました。
沢山の経験を積んで、心臓が鍛えられました。

それと、技術面・知識面に関して幅が広がりました。
ポンパドウルでは、パン作りの基礎的な知識を習得しましたが、大会への挑戦に向けてパンの知識に関する勉強やトレーニングを重ねることにより、仕事をしているだけでは習得できないような技術・知識を作品づくりを通して学ぶことが出来ました。
ミキシング時間の調整や配合の微妙な変化など、マニュアルではない、ゼロからの自分オリジナルのパン作りができるようになりました。
その知識や技術は、自分のお店をもった今でも活かされています。

クープ・デュ・モンドを終え、次なる刺激を求め新たなる挑戦へ


―クープ・デュ・モンドから3年後、ご自身のお店「デュデスタン」を開業。開業された経緯と、開業準備について教えて下さい
クープ・デュ・モンドで日本代表選手として出場した際、プレッシャーと緊張でかなり刺激を感じながらも充実した期間を過ごしました。
大会後はその刺激が無くなったことで、心にぽかんと穴が開いた気持ちになり、次なる刺激を求め開業を決めました。
クープ・デュ・モンドの出場をサポートしてくれた会社にまずは恩返しをしてからという気持ちが強くありました。
具体的な開業に関する構想は、オープンする約1年前から。2014年のマスターズ・ドゥ・ラ・ブーランジュリー(通称:マスターズ)に出場後、ひと段落ついた時に開業準備を始めました。
時期を見て会社に退職を申し出た時、少し不安はありましたが、次のチャレンジに向けて快く送り出してくれたこともあり円満退社することができました。

▲クープ・デュ・モンドのトロフィーはお店の一角に飾ってある

―クープ・デュ・モンドで作った作品は販売されていますか
看板商品のクロワッサンは3回ほど僅かにマイナーチェンジを加えていますが、ベースは変わっていません。
パン・オ・ショコラ、ブリオッシュ・ア・テットはクープ・デュ・モンドで作ったものと同じものを販売しています。
他の作品に関しては、手間と時間がかかるものが多いので現在のところ販売はできていませんが、周年記念などのアニバーサリーの機会に作ってみるのも面白いかなと思っています。

▲看板商品のクロワッサン


▲ブリオッシュ・ア・テット

▲パン・オ・ショコラ

クープ・デュ・モンドへ挑戦する上で大切な事とは?


―今後、クープ・デュ・モンドへの出場を考えている方へアドバイスをお願いします
クープ・デュ・モンドに挑戦したいと考えている方は、自分の腕に自信がある方ばかりだと思います。
その自信を最後まで持ち続けることが大切だと、私は思います。
作品づくりが思うようにいかずに挫けても、諦めるのではなく「必ずできる」と信じて作り続けてほしいです。
ネガティブな感情があると完成まではたどり着かないし、良い作品にはならないから。
気持ちを強く持ち続ければ、必ず良い物が完成します。

―佐々木さんは、作品づくりで悩んだ時はどのように気分転換されていましたか?
例えば、照明やインテリア、花瓶などを販売しているお店に行って、パンのデザインの参考になりそうな形を探したり、ヴィエノワズリー部門担当なので、パティスリーを回ってケーキを見たり・・・
作品のヒントになりそうなものからインスピレーションを受けるようにしました。

今後の展望について


店舗数を増やしたり、他の従業員に任せてお店を大きくしたいという想いはなく、
自分たちの作りたいものを自分たちのできる範囲で販売してお店を経営していくのが理想です。
ただ現状、2人で製造をしているのですが労働時間がかなり長いので、もう少し作る量を減らして自分たちの時間も確保したいと考えています。
年齢も考え、無理をしない健康な体でパンを作り続けていきたいです。

▲お店の商品にはサフセミドライイーストゴールドを使用していただいています

編集後記


クープ・デュ・モンドのお話はかなり濃い内容でした。
2009年の国内予選から2012年の本選まで約3年という長い月日は、かなり刺激的だったというお言葉通り、喜びだけではなく数々のや苦しみや悩みを抱えたそうです。
その経験は、ご自身のお店を持った今もなお活かされている。かけがえのない宝物のようです。

地元のお客様ファーストで商品を考えるという佐々木さん。
お客様への期待に応えつつ、ご自身の世界観も投影したパンはどれも魅力があり、選ぶのを迷ってしまうほどでした。
これからどのようなパンが作り上げられていくのか、とても楽しみです。

取材協力


BOULANGERIE Dudestin(ブーランジェリー デュデスタン)
住所:千葉県市川市富浜3丁目6−20 (GoogleMapで見る
TEL:047-395-5000
営業時間:9:00~18:00(パンが無くなり次第閉店)
定休日:月曜日・金曜日(夏季休業・冬季休業あり)

※この記事は2020年11月に取材した内容になります

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