2021/08/13

帝国ホテルのコンクール挑戦とホテルでの取り組みとは?

帝国ホテル
黒川 英之 氏
二宮 茂彰 氏

こんにちは!
皆さんはコンクールへの挑戦についてどのように考えていますか?
コロナ禍になり、企業が開催するコンクールは数が減ってきていますが職人として、コンクールで賞を取ることに力を入れたいと考えている方は多いのではないでしょうか。

そこで今回は、「コンクール」をテーマとし、クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・ブーランジュリーのほかにも様々なコンクールに出場された経歴をお持ちの帝国ホテルベーカリー部門の黒川様、二宮様へ当時のお話と、コンクールに対する会社での取り組み、また、ご自身の経験から今後挑戦したいと考えている後輩の方々へどのようなサポートをされているかなどについてお話をお伺いしてきました。

帝国ホテル
調理部 ベーカリー課 課長
黒川 英之 氏

帝国ホテル
調理部 ベーカリー課 課長
黒川 英之 氏

▼Profile
1995年帝国ホテル入社。2005年~2006年は、上高地帝国ホテルでベーカリー責任者を務める。その後、2014年にベーカリー課課長に就任し、現在に至る。

帝国ホテル
調理部 ベーカリー課 支配人
二宮 茂彰 氏

帝国ホテル
調理部 ベーカリー課 支配人
二宮 茂彰 氏

▼Profile
1976年生まれ。2007年に帝国ホテル入社後、調理部 ベーカリー課に配属。2019年にベーカリー課支配人に就任し、現在に至る。

ホテル館内のパン製造をすべて担う帝国ホテルのベーカリー部門


―帝国ホテルベーカリー部門のご紹介をお願いします
黒川氏:
ホテルベーカリーとして、ホテル内で提供する全てのパンを館内の工房で焼き上げています。
例えば、朝食でしたらクロワッサン、ブリオッシュ、バゲット、カンパーニュなど、シチュエーションや場所によって提供するパンが異なるため、レストランの食事に合わせたパンをご提供できるよう、日々努めております。
また、今はコロナ禍になり減ってしまいましたが、宴会などがあるとその規模に合わせて多くのパンを製造します。

『ガルガンチュワ』

▲ホテルショップ 『ガルガンチュワ』

ホテルショップ「ガルガンチュワ」では、『帝国ホテルの味をご家庭で』というコンセプトのもと、ホテルで提供しているバゲットやブリオッシュ、食パンなどの定番商品をはじめ、季節に合わせた期間限定商品を含め約40種類ほどのパンを販売しています。
季節感の出やすい菓子パンなどショーケースに並べる商品は華やかさを意識して作っています。そのほか、ベーシックなブルーベリーパイなど長年愛されている商品も並びます。

期間限定商品: 左より「コナコーヒーのクイニーアマン」、「グァバブリオッシュ」、「パイナップルクロワッサン」

▲期間限定商品: 左より「コナコーヒーのクイニーアマン」、「グァバブリオッシュ」、「パイナップルクロワッサン」

―期間限定商品の開発はどのように作られているのですか
黒川氏:
約2か月に1度、季節の新商品を販売しているのですが、開発は基本的に私と二宮の2人で行っています。
ホテルで催事を開催するときは若手社員も意見を出し合いながら作ります。
以前は、「英国」や「いちご」をテーマにしたフェアを開催したこともあります。
その際は英国から連想されるパンやお菓子、いちごを使った商品などを若手社員とともに開発をしました。
今年も9月より「英国フェア」を開催いたします。

期間限定商品:ミルティーユ・エ・ポム

▲期間限定商品:ミルティーユ・エ・ポム

―帝国ホテルでご提供されるパンを作る上で、意識されていることはありますか?
二宮氏:
「ホテルで提供されるパンは料理とともに召し上がることが多いので、魚料理は魚に合うように、肉料理には肉に合うように作りなさい」と前任の上司から教わりました。
入社して10年以上経った今でも自分の教訓としてその教えを胸に日々パンを作っています。
配合は一般的であっても、毎日「同じパン」を提供するというのが一番難しいと感じています。

 

歴代の先輩から受け継がれるコンクール挑戦への道


―コンクールについて伺います。
 帝国ホテルでは、コンクール挑戦することに対してどのように考えていらっしゃいますか?

黒川氏:
厨房で作品の試作をする同僚の姿を見ているとコンクールが身近に感じられますし、コンクールへの情熱に感化されて自分も挑戦したいと思うスタッフが増えてきています。

二宮氏:
私は帝国ホテルに入社前、パン屋さんで働いていた頃にクープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・ブーランジュリー2002年大会の写真を見る機会があり、写真に写った作品を見て「別次元のすごい世界がある」と衝撃を受け、私もいつか挑戦してみたいと思っていました。
その後、ご縁があって帝国ホテルに入社したのをきっかけに、数々のコンクールに挑戦させてもらい、最終的にはクープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・ブーランジュリーに挑戦しようと心に決めていました。

ー帝国ホテルでは、コンクールに取り組むことに対してのサポート体制はありますか?
黒川氏:
会社としては、年に1回若手社員を中心としたベーカリー部門内のコンクールを開催しています。
また、後に社外のコンクールにも挑戦してもらえるように、ベーカリー部門としては挑戦しやすい環境を整えられるように心がけています。
まずは社内のコンクール、次に社外のコンクール、最後にはクープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・ブーランジュリーなど世界を相手に戦う最高峰のコンクールといったように挑戦するコンクールのランクをあげていくように指導しています。

二宮氏:
労働時間の管理がしっかりしているので、業務時間とコンクールの準備に充てる時間とのメリハリをつけて作業を行うことが出来ました。
社内での体制はもちろん整えてもらっていますが、コンクールに集中しすぎるあまり普段の仕事に影響が出ないよう、業務時間はコンクールのことは考えず、業務に集中するように心がけていました。
会社だけに頼らず普段の業務をしっかりと行い、周りからサポートしてもらえる状況を自分で作っていくというのも大切なことだと思います。
普段の業務に支障が出ないように、ミキサーやオーブンなどを使うときは作業スケジュールを確認しながら同僚との連携を取り進めました。

 

コンクールに挑んで得たものはすべて自分の財産になる


ーコンクールに出場して感じたメリットはありますか?
二宮氏:
もちろんあります!
まず、クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・ブーランジュリーに関しては、尊敬できるチームメイトの2人と出会えたことが何よりも大きなことだと思っています。
一緒に苦労を共にして戦った世界大会出場の経験は、自分の財産になったと心から思います。
また、普段は関わる機会のない方々とも関わりを持つことができ、人脈を広げることができるのもコンクールに出場するメリットです。

クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・ブーランジェリー 2020年大会:左より勝海 遥平氏(株式会社 ポンパドウル)、津田 宜季氏(株式会社 神戸屋)、二宮 茂彰氏(株式会社 帝国ホテル)

▲クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・ブーランジェリー 2020年大会:左より勝海 遥平氏(株式会社 ポンパドウル)、津田 宜季氏(株式会社 神戸屋)、二宮 茂彰氏(株式会社 帝国ホテル)

そして、成長の面で言うと、新しいことを考えて具現化する力が身につきました。
コンクールに出す作品を考えていく中で新たなアイディアを生み出す力、その発想を創り上げる力は普段の業務でも生かされていると感じます。

クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・ブーランジェリー2020年大会:作業の様子

▲クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・ブーランジェリー2020年大会:作業の様子

ー黒川さんから見て、二宮さんがコンクールに挑戦された後の変化はどのように感じていますか
黒川氏:
クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・ブーランジュリー2020年大会に挑戦していた時は、世界大会ということもあり世界の強豪と戦うために普段のコンクールより一層気合を入れてパンと向き合い、突き詰めて作品を考え出すという期間があったと思います。
日本代表選手に選ばれてからは、より集中してパンと向き合う機会が増えるので多くの課題と対峙する場面をたくさん見てきました。それを1つずつ乗り越えていく中で身についた力が、今の商品開発に役立っているなと感じられるのはとても嬉しいです。

二宮氏:
クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・ブーランジュリーの作品の試作や新商品の試作を上司の黒川に食べてもらうと様々な視点からアドバイスをもらえるのですが、そのアドバイスが不思議と自分の中にスーっと入ってくるんです。
最終的には自分で作品を創り上げるのですが、ちょっとしたアドバイスでも自分の中で響くものがあり、黒川には感謝をしています。

ーこれからコンクール挑戦を考えている方に向けてアドバイスやメッセージをお願いします
二宮氏:
正直コンクールに出場するのは大変です!と言い切ってしまうと挑戦したいと思う人が減ってしまうと思いますが・・
色々と大変なことは多いですが、一歩踏み出すと今まで関わりのなかった方々との出会いがあり、経験により得るものは必ずあります。そして、その経験は自分の力となって返ってきます。
多くの人がコンクールに挑戦することによってベーカリー業界の底上げや地位向上につながると思っているので、実力や経験年数関係なく、若い人ほど挑戦してほしいです。

 

コロナ禍になって変わったことと帝国ホテルの取り組み


ーコロナ禍の影響を受けて、ご自身の中で変化されたことがあればお聞かせください
二宮氏:
昨年の緊急事態宣言中、ベーカリー部門は2人態勢で業務をしていました。
主に長期滞在されているお客様へご提供するクロワッサンや食パン、サンドイッチの作成などです。
レストラン1店舗以外のお店はすべて休業したことでお客様のご来館が少ない状況が続きました。
内心、モヤモヤとした不安を抱えながら業務を進めていたのですが、長期滞在されているお客様のためにパンを作っていく中で「パンって日常の中でとても大切なものなんだな」と実感できました。
そして今、お客様がご来館されてパンを召し上がって喜んでいる姿やご購入される姿を見て「この仕事をやっていてよかった」と改めて感じています。
コロナ禍になったことで自分の仕事の重要さを再確認できました。

ー帝国ホテルでのコロナ対策を教えてください
黒川氏:
ベーカリー部門では、社員通用口と厨房に入る前の2回検温を行っています。
体温と体調管理チェックシートの入力も徹底しています。
食事をする際は同じ部署の従業員同士は同じテーブルに座らないようにようにし、黙食をすることで部署内で感染のないよう気を付けています。

買い物かごにはアルコール消毒
▲買い物かごにはアルコール消毒

入店時はアルコール消毒を徹底
▲入店時はアルコール消毒を徹底
また、ガルガンチュワでは、出入口はホテルロビー側を入口、宝塚劇場側を出口として人の流れを一方通行になるように変更しました。
店舗には入場制限を設けて20~25人を目安に滞留するお客様が密にならないように制限しています。
入場制限で入店できない場合は、入口側に椅子をご用意し人数が落ち着くまでお待ちいただけるようにしています。
そして入店時にはアルコール消毒にご協力いただき、店内はアクリル板の設置、レジ待ちの列に印をつけてソーシャルディスタンスを確保して密にならないように徹底しています。

ー帝国ホテルベーカリー部門の今後の取り組みや目標を教えてください
黒川氏
自分たちが作ったパンをお客様に召し上がっていただいて「美味しい」と思ってもらえるパンを作り続けることが大切だと思っています。
帝国ホテルは世界中からお客様がご来館されます。どの国の方が召し上がっても「美味しい」と思ってもらえるパンを突き詰めていくことがホテルの質の向上につながると思っています。

 

編集後記


ホテルのコンクールに対する取り組みと想いについて伺いました。
日常業務をこなしながらコンクールに挑戦するのは、二宮さんがおっしゃるように『大変』だと思います。
その『大変』なコンクール挑戦をサポートする企業の体制がとても大切なのだと感じました。
国内外には数々のコンクールが存在します。
製パン業界の底上げのためにも若手からベテランまで多くのパン職人がコンクールに挑戦する環境づくりが今後は必須になってくるかもしれません。

 

店舗の紹介


帝国ホテル 東京 ホテルショップ「ガルガンチュワ」

 

帝国ホテル 東京 ホテルショップ「ガルガンチュワ」
住所:〒100-8558東京都千代田区内幸町1-1-1 帝国ホテル 東京 本館1階  (GoogleMapで見る
TEL:03-3539-8086
営業時間:10:00~19:00 ※8月13日現在
☞公式HPはこちら
※この記事は2021年3月に取材した内容になります

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