2023/01/13

酵母にこだわり、世界に通用するクラフトビール醸造所へ。目指すのは、果物を食べるよりも美味しいフルーツサワー造り ー伊勢角屋麦酒(三重)【クラフトビール採用事例】


やわらかく、やさしい甘さの二軒茶屋餅。三重県伊勢市で450年もの歴史を持つ「二軒茶屋餅角屋本店」の看板商品です。餅屋として長い歴史を持つお店ですが、大正時代に味噌・醤油、平成にはクラフトビールと、現在では3つの事業を展開しています。

二軒茶屋餅角屋本店(https://nikenjayamochi.jp/)

1997年に始まったクラフトビール事業「伊勢角屋麦酒」は、日本各地のコンビニや酒店で販売を展開し、企業としての売り上げのほとんどを占めるまでに成長しました。また、権威あるクラフトビール国際大会「IBA(The International Brewing Awards)」において、金賞を何度も受賞するなど、世界にも認められた高品質のビールを造り続けています。今回は、品質管理責任者兼ブルワー(醸造家)の山宮 拓馬さんに、伊勢角屋麦酒のビール造りについてお話を伺いました。


▼Profile
伊勢角屋麦酒 品質管理責任者・Brewer
山宮 拓馬
京都大学農学研究科でイネの育種を研究。クラフトビールに興味を持ち、2020年伊勢角屋麦酒にブルワーとして入社。同年にJCBA審査員資格を取得。


 

発酵にこだわり抜く商品開発

伊勢角屋麦酒では6種類の定番ビール以外にも、毎月のように新作や限定ビールを発売しています。醸造するのは、山宮さんを含めた3人のブルワー。どのようにユニークなビールを生みだしているのでしょうか。

「基本的にはブルワーが造りたいビールを考え、社内に提案するところから始まります。世界的なビールのトレンド、食や音楽など、さまざまな分野の情報がビールのアイデアになっています。僕たちは『日本のビールを面白くすること』を掲げているので、今までにないものを造る挑戦を大事にしているんです」(山宮さん)

これまでに発売したビールは、なんと400種類以上!

そのために、必要なのは技術スキル。ブルワーたちが三者三様にビールを造っても伊勢角クオリティが失われないのは、ベーシックの知識や技術が共通しているから。

「6種類の定番ビールを造るうちに、自然と伊勢角のベーシックが身に付いていき、それを基準に醸造するようになります。そのうちに『これは守らなきゃ』『ここは遊びがあってもいいな』と、自分の中でやり方が見えてくる。伊勢角の基本と自分のアイデアを折衷して、ビールのレシピを考えています」(山宮さん)

下野工場では、一仕込みで4000リットルものビールが造られる。

入社2年目にご自身が醸造したビールで、IBAの金賞を受賞した山宮さん。世界レベルの美味しさのために、一番大事にしているのは「酵母」なのだそう。そもそもクラフトビール事業は、社長(鈴木成宗さん)が、「酵母と遊びたい」という想いから始めた事業。幼少期から味噌蔵に出入りしていたことで発酵に興味を持ち、大学では微生物を研究。定番商品の「ヒメホワイト」は、伊勢で採取した天然の酵母を使って造られています。

「伊勢角は、酵母の可能性をとても大事にしているブルワリーだと思います。僕は今、品質管理責任者でもあるんですが、一番大事な仕事は、酵母の管理です。酵母も人間と一緒で、適切な時間働いて、休むときにはちゃんと休める環境を整えてあげることが大切なんです」(山宮さん)

世界に認められるビール造りをするために、他のブルワリーの研究にも余念がありません。醸造をスタートしてすぐ、社長の鈴木さんはビールの国際審査員資格を取得。世界の品質基準を自分の舌で覚え、それをもとに自社商品の品質改善に取り組んだのだそう。

多くの人に手にとってもらえるように、缶タイプも製造。日本各地のコンビニや酒店で購入できる。

「私も最近、審査員資格を習得したのですが、世界の基準を知る大切さを感じています。あとは月1の勉強会では、コンセプトを決めて他社と自社のビールを比較して、ブルワー同士でディスカッションをしています。クオリティの基準を揃えているからこそ、三者三様のビールを造っても、伊勢角らしいビールが出来上がるんです」(山宮さん)

フルーツピューレを使い、サワーIPAに挑戦

最高の「おいしい!」を目指し、さまざまな努力の上に造られるビールは、多くのファンを獲得しています。クオリティもさることながら、その種類の豊富さも、ファンをひきつける魅力の一つ。最近では、フルーツピューレを使った「サワーIPA」という新しいスタイルにも挑戦しています。

「サワーIPAはアメリカのスタイルで、フルーツピューレやスパイスなどを混ぜて造る、酸味のあるカクテルのようなニュアンスのビールです。強い果実味や過剰な酸味が特徴的なものも多いのですが、やはり伊勢角らしいサワーIPAを造りたいと思い、大味にならないようにバランスの良いレヴェルジェ ボワロン(以下ボワロン)のピューレを使いました」(山宮さん)

レ ヴェルジェ ボワロン 冷凍フルーツピューレ 商品詳細

ボワロンのフルーツピューレ(パッションフルーツ・マンダリン・グァバ)を使用して出来上がったのが、「エレクトロスカッシュサワーIPA」。酵母を大切にするからこそ、フルーツピューレは品質の高いものを使用したいという想いもあったのだそう。

2022年5月に限定発売した「エレクトロスカッシュサワーIPA」

「ボワロンのフルーツピューレは、フラッシュパストゥリザシオン(瞬間低温殺菌法)されていますよね。酵母菌の働きを邪魔するものが混入していないことが非常に大事なことなんです。特にこのビールは、ラカンシアという単糖(グルコース)を乳酸に変えるという特徴を持った酵母を使っているんですが、発酵が難しいんです」(山宮さん)
乳酸菌を使わずに酸味のあるビールが造れるという、かなり面白い酵母。魅力的な特徴がある反面、活性が低く発酵にかなり時間がかかってしまう。そこで山宮さんは、発酵の途中で果実の糖分を含んだフルーツピューレを投入することで、発酵を促すことにしたのだそう。
「品質が高く、フルーツの種類も豊富。サワーIPAに関しては、酵母のマイナス面を補ってくれるっていう面でもボワロンのフルーツピューレは、非常に相性が良かったですね」(山宮さん)

目指すのは、フルーツそのものを食べるより価値のあるビール

これまでも多様なスタイルのビール造りに挑戦してきた山宮さん。フルーツを使ったビール造りは、とくに難しいと感じているそう。
「僕はフルーツビールというものは、フルーツをそのまま食べるよりも価値がないとあまり意味がないと思っていて。でも生のフルーツが美味しすぎて、それを超えるのはかなり難しいんですよね。なので、なかなか日本では手に入らないようなフルーツを使ったり、お菓子をイメージしたビールなど、付加価値のあるフルーツビールに、挑戦したいと思っています」(山宮さん)

世間的にクラフトビールが浸透してきた今、フルーツビールの需要も増えてきています。
「クラフトビールという言葉が浸透してきて、あまり詳しくないけど飲んでみたいという方が増えていると感じています。そういう方にとってフルーツビールは飲みやすいし、味もわかりやすい。興味を持つ方が増えることは嬉しいですが、単にビールを果汁で割ったカクテルのようなものも多く出てきています。でも、それでは、ビールの良さも面白さも伝えられない。だからこそ、僕らはビールとフルーツそれぞれの個性を消さずに、活かし合うビールを造りたいんです」(山宮さん)

世界レベルの技術を持つ、伊勢角屋麦酒が目指すのは「日本のビールを面白くすること」。山宮さんをはじめとするブルワーのアイデアがつまった伊勢角屋麦酒のビールは、それぞれに香り、色、味わいが異なり、飲むたびに新しい味覚に出会うことができます。ぜひ、あなたもその魅力に触れてみてください。


有限会社二軒茶屋餅角屋本店(伊勢角屋麦酒)
本社: 〒516-0017 三重県伊勢市神久6-8-25
下野工場:〒516-0003 三重県伊勢市下野町564-17
オフィシャルサイト:https://www.kadoyahonten.co.jp/
オンラインショップ:https://www.biyagura.jp/

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