フランスで流行の伝統菓子 「フラン」
[中編]パリに行ったらこのお店をチェック!
近年フランスで流行している伝統菓子「Flan(フラン)」。
素朴なおやつ菓子だったフランに、最近では一流パティシエがこぞって取り組み始めているという。
[前編]ではそのルーツについて紹介したが、[中編]ではコロナ後のパリ訪問で目にした人気店の最新事情をレポートしていこうと思う。
パティスリー・エ・グルマンディーズ・
パール・ステファン・グラシエ
さて、2021年のフランス「ル・モンド」誌に「パリのベストフラン15」という記事が掲載された。
その筆頭に「最も伝統的なフラン」として紹介されているのが、パリ郊外に店舗を構えるステファン・グラシエのヴァニラのフランである。
ステファンは日仏商事とも関わりの深いシェフだ。2000年にパティシエのMOFを取得してしばらくは毎年のように来日し、当社主催の講習会や展示会でデモンストレーションを行っていた。
コンサルタントとして世界中を飛び回り、メーカーの新製品を使った華やかな菓子を多く紹介していたステファンだが、2008年に自店を開いて以降はシンプルな菓子にも力を入れるようになった。
ステファンのフランはフィユタージュに卵黄が多めのアパレイユを流して、平窯でしっかり焼き上げた分厚い仕上がり。ザクザクしたフィユタージュにぶりんとした歯ごたえと、それでいて滑らかなアパレイユの組み合わせが素晴らしい、骨太なフランである。
ステファンのフランを初めて口にしたのは、2018年10月に開催された「サロン・デュ・ショコラ パリ」の会場だった。(チョコレートのイベントなのに、彼のスタンドではフランをメインに販売していた)
同行していた日本の有名シェフと一緒に食べたところ、あまりに美味しくて驚いた。スタンドには客が殺到し「1日数百台のフランが売れる」とステファンが嬉しそうにぼやいていたが、同じMOFのアルノー・ラエールがそのフランをわざわざ買い求め、ステファンにアドバイスを求めていた姿が目に焼き付いている。
店舗はサン・ラザール駅から国鉄で10分ほどのコロンブにあるが、パリを訪れる際は、まずステファンのフランを味わっていただきたい。
また彼の「ヴァニラのフラン」のレシピを知りたい方は「世界の菓子 PCG 2023年5月号(伝統菓子再燃!? フランとカヌレ特集)」を入手してチェックしてほしい。
Pâtisseries et Gourmandises Par Stéphane Glacier
66 Rue du Progrès, 92700 Colombes, France
TEL:+33 1 47 82 70 08
WEB SITE:https://stephaneglacier.com/
ホテル プラザ・アテネ
ル・ブリストル・パリ
ステファンのフランと対照的に、プチガトータイプで小洒落た仕上がりだったのが、世界中のセレブが集まる高級ホテル「プラザ・アテネ」と「ル・ブリストル」だ。どちらも優しい歯触りのパートブリゼに滑らかなアパレイユが合わさって、食べやすい。地元密着パティスリーと高級ホテル、それぞれの客層の好みが如実に現れていたように思う。
【ショップ情報】
Hôtel Plaza Athénée
25 Av. Montaigne, 75008 Paris, France
TEL:+33 1 53 67 66 65
Instagram:https://www.instagram.com/plaza_athenee/
【ショップ情報】
Le Bristol Paris
112 Rue du Faubourg Saint-Honoré, 75008 Paris, France
TEL:+33 1 53 43 43 00
Instagram:https://www.instagram.com/lebristolparis/
ギャラリー・ラファイエット
プランタン・オスマン
有名パティスリーが集まる百貨店「ギャラリー・ラファイエット」の食品館ラファイエットグルメを覗くと、ヤン・クヴルーとニコラ・パッチェロが手がける「サンク・ソン」にてフランを見つけた。
どちらも大きなアントルメを焼いてカットしたタイプで、厚みもあり、生地もステファン同様フィユタージュだった。この伝統的な姿こそが、パリっ子たちの求めるフランなのだろうと納得する。
同じラファイエットグルメの中でも、老舗「ダロワイヨ」にフランがなかったのは意外だが、高級店には似つかわしくないということなのだろうか。
ラファイエットの隣にある百貨店「プランタン」9階には、2017年に「ゴ・エ・ミヨ」でベストパティシエに選ばれた「ニナ・メタイエ」のショップがある。(「ゴ・エ・ミヨ」とは「ミシュラン」と同じくらい強い影響力を持つフランスのレストランガイド)
ニナの作る菓子は女性らしく非常にスタイリッシュだが、ショーケースにしっかり並んでいたフランはサイズこそやや小ぶりであるものの、やはりアントルメをカットする素朴なタイプだった。生地はパートシュクレで、アパレイユにはヴァニラの他、トンカ豆も加わっている。パートシュクレと滑らかで食べやすいアパレイユに、女性らしい優しい感性が感じられるフランだった。
【ショップ情報】
Galeries Lafayette
40, boulevard Haussmann 75009 Paris
TEL:+33 1 42 82 34 56
WEB SITE:https://www.galerieslafayette.com/
【ショップ情報】
Printemps Haussmann
64 Boulevard Haussmann 75009 Paris
TEL:+33 1 42 82 50 00
WEB SITE:https://www.printemps.com/fr/fr/printemps-paris-haussmann
ラデュレ本店
次にパリの老舗「ラデュレ」を覗いてみた。
以前はなかったように思うが、今回はアントルメをカットしたタイプの大柄なフランが並んでいる。
フィユタージュとヴァニラの組み合わせは値札に記載通りの、まさに「Flan Traditionnel(伝統的なフラン)」。他の菓子が小ぶりでシャープな仕上げになっているのに対して、フランだけは大ぶりにカットされており「フランス人が求めるフランの姿」をここでも再認識できた。
【ショップ情報】
Ladurée
75 Av. des Champs-Élysées, 75008 Paris, France
TEL:+33 1 40 75 08 75
WEB SITE:https://www.laduree.fr/laduree-paris-champs-elysees.html
パン・ドゥ・シュクル
面白かったのはポンピドゥー・センターの裏手にある「パン・ドゥ・シュクル」で、フランはパティスリーの店舗ではなく、ブーランジュリー/トレトゥールの店舗にならんでいた。
正方形のアントルメタイプに焼き上げたものを6等分にしてあるのだが、これだと角が出る上下4箇所と、中段の2箇所で生地の量が変わってしまう。パリっ子はそんなこと気にもかけないのか?もしくは客が注文時に「生地の多い方」とか「アパレイユが多い方」などリクエストするのだろうか?ちょっと気になった。
生地はパートシュクレ。惣菜と並んでいるからか、紙袋に入れて渡される。柔らかい食感で、手づかみで食べ歩きするのにちょうどいい。
【ショップ情報】
Pain de Sucre
14 Rue Rambuteau, 75003 Paris, France
TEL:+33 1 45 74 68 92
WEB SITE:https://www.patisseriepaindesucre.com/
サン・ラザール駅 ショッピングセンター
サン・ラザール駅のショッピングセンターにあるチェーン店のパン屋さんを覗いてみると、ヴィエノワズリーやタルトと並んでフランも売られていた。ここまで来ると、もう流行っているというより「なくてはならない菓子」というべきか。
やはりどれもアントルメを大ぶりにカットしたタイプで、生地はフィユタージュが使われている。
パン屋さんで売られているくらいなので、ここもヴィエノワズリーのように紙袋に入れて渡されるスタイルだ。コーヒーでも飲みながら手づかみで食べるのだろう。
高級ホテルの繊細なフランにはフォークとナイフが似合うが、庶民にとってのフランとは、手づかみで最後まで食べられるよう、しっかり焼きあがっていることが一つの基準なのかもしれない。
【ショップ情報】
Centre Commercial Saint Lazare
1 Cour de Rome, 75008 Paris
TEL:+33 1 53 42 12 54
WEB SITE:https://st-lazare-paris.klepierre.fr/
まとめ
パリでは高級ホテルから気のおけないパン屋さんまで、ありとあらゆる客層のためのパティスリーが共存し、それぞれがベストなスタイルで美味しさを提供してくれる。今回はフランという一つの菓子を軸に街を回ってみたことで、この街の成熟した菓子文化をよりはっきりと感じることができた。
最終回の[後編]では、フラン流行の背景を探ることで明らかになる業界の問題や、その具体的な解決法も提案していきたいので、ぜひもう少しお付き合いしていただければと思う。