福田大輔シェフの講習会で感じたパネトーネの魅力と奥深さ
日本ではヨーロッパの伝統菓子を扱うベーカリー、パティスリーが増えてきており、ガレット・デ・ロワやシュトーレンなどに続いて人気上昇中なのがパネトーネ。イタリアではクリスマスの時季にいただく、伝統的な発酵菓子です。手作りでも1か月近く日持ちがすることもあり、お店にとっても魅力的なアイテムといえます。ただ、作り方が比較的難しいこともあり、興味はあるけどまだ手を出していないという方もいらっしゃるのでは。
そんななか、ひとりの日本人が2021年に行われた第一回全仏パネトーネコンクールで、見事クリエイティブ部門の最優秀賞を獲得しました。
栄冠を手にしたのは「MITRON BAKERY(ミトロン ベーカリー)」の福田大輔シェフ。
福田シェフはフランスの「メゾン・カイザー」での勤務を経て、南仏のマントンという街にある「ミトロン ベーカリー」の立ち上げからパンづくりに携わっているブーランジェ。そしてこのミトロンベーカリーは、2019年にミシュランの三ツ星を獲得し、「世界のベストレストラン50」で第一位に選ばれた「Mirazur(ミラズール)」のスターシェフ、マウロ・コラグレコ氏が経営するブーランジュリーでもあります。
「ミトロン ベーカリー」のあるマントンは、毎年盛大なレモン祭りが行われるレモンの名産地。福田シェフ考案の、マントンのレモンを使ったパネトーネは、受賞前からすでに地元では大人気の名物商品でした。
その福田シェフが日本に一時帰国、かっての修行先である京都「志津屋」の小林シェフとその仲間たちにパネトーネの講習会を行うと聞きつけ、お邪魔してきました。
種の管理が最重要事項
場所は同じく小林シェフと親交のある京都のベーカリー「コネルヤ」の離れにある厨房。小林シェフのほか、講習会には「コネルヤ」の内山シェフ、遠く富山から「ブーランジュリー グラン オム」の小嶋シェフ、広島「ペール メール」の谷口シェフが参加。連日早朝の5時からパネトーネを作っていると聞き、みなさんの関心の高さが窺えました。
福田シェフに「パネトーネづくりにおいて最も重要なことは?」と尋ねると、「自分が使っているパネトーネ種と仲良くなること」とキャプテン翼のような言葉が。「パネトーネ種は発酵力を高めていくために毎日種継ぎの作業をするんですけど、ちゃんと状態を見て、香りをチェックして、常に変化に気を配る。発酵が行き過ぎてしまうと、ひどいときは出来上がりが酸っぱくなってしまうこともあります。種の状態がよくないと、そこから何をしたって美味しいパネトーネにはなりません。
イタリアではクリスマスに食べるものなのでその時期にしかつくらないけど、人気商品なので日本のパン屋さんは一年中作りたいですよね。でも日本の夏は気温と湿度がとても高くなりますから、生地がだれてきたり、管理もより難しいと思います。空調管理がないところだとかなり苦労すると思います」
すこしの手間も惜しまない
作業を眺めていて興味深かったのが、窯入れ前の作業。発酵を終えた生地に十字に切れ目を入れる福田シェフ。そこから真ん中にバターを置いてオーブンへ、と思っていたら、なんと福田シェフはナイフを使って生地を剥ぎはじめました。そうしてからバターを置いて、剥いだ生地をかぶせていく。本場イタリアではこのやり方が一般的とのこと。
バターを仕込み終わるとオーブンへ。なかをのぞくとみるみる膨らんでいきます。力強い窯伸びによるボリュームの具合は発酵菓子であるパネトーネの重要なポイントでもあります。そして発酵を促すために酵母の栄養として欠かせないのが糖。
福田シェフがつくる「ミルトン ベーカリー」のパネトーネに使われているのがディアマルテリアのユーロモルト(モルトエキス)。酵素の働きによってでんぷんを糖に変え、酵母の発酵力を持続させ、窯伸びを向上させます。また、風味に深みを与えてくれる効果もある優秀な副材料ですが、今回の講習会では粉末タイプの「ユーロモルトブリオ」を使用されていました。
焼き上がった後のスピード勝負
焼き上がりを知らせるオーブンのタイマー時刻が近づいてくると、厨房はにわかに慌ただしく。各々が軍手をはめて次の作業に備えます。見守っていると、焼き上がりと同時にオーブンから素早くテーブルに移し、次々と金属の細い棒を刺していき、ラックに逆さに吊っていきます。「すぐにこうしないと、どんどんボリュームが落ちてしまうんです」と1秒を争うかのようなスピードで作業を続けながら福田シェフが教えてくれました。
パネトーネ種は我が子のように扱う
焼きあがったパネトーネをいただいて帰り、「その日や次の日だと全然美味しくないので最低でも3、4日待ってから」との福田シェフのアドバイスを守り4日後に試食。得も言われぬ発酵の香りが心地よく、ブリオッシュともまた異なるふんわり、しっとりとした独特の食感で幸福感に包まれました。この美味しさが一か月も日持ちするというのですから、パネトーネは偉大です。
取材の最後に「パネトーネを始めてみようという方にアドバイスを」と求めると、福田シェフは優しい表情で話してた言葉が印象的でした。
「配合や時間とか、最初は人から教わった通りにやるしかないのですが、パネトーネってレシピ通りにやってもレシピ通りにはいかないんですよね。パネトーネ種は環境や条件次第で簡単に状態が変わってしまうとてもデリケートなものなので。パネトーネ種って我が子のようなもので、種が何を言おうとしているか耳を傾けて、大切に面倒を見ていると、そのうちに微妙な変化に気が付くようになるんです。『あ、今日は調子が悪いな』って。それに対して調整をしてあげることが大切です。そこが難しいところでもあり、楽しいところでもあります」
知れば知るほど奥が深いパネトーネですが、種の管理も難しく、一筋縄ではいかないアイテム。パネトーネ種の管理や種継ぎはハードルが高すぎる、だけどパネトーネをやってみたいという方向けに、日仏商事では、より手軽にパネトーネが作れる乾燥粉末状のパネトーネ種を取り扱っております。
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