オリーブオイルの製造現場を訪ねました
南仏エクサンプロバンスそばにある、オリーブオイルの生産者を訪ねました。
皆さん、オリーブの旬がいつかご存知ですか?主に地中海に面した地域で取れるオリーブですが、フランスでは南仏プロバンス地方を中心に10月頭から収穫が始まります。収穫期間は約2~3ヶ月。完熟期=旬という観点でいえば、ちょうど今の時期が旬ということになります。
そして、オリーブオイルが出来るのにどれくらいかかるのか、ご存知でしょうか?私自身、勝手にワインのイメージを被せていて、時間がとてもかかるものと勘違いしておりました。なんと、収穫してから1日でオイルが出来上がるのです、現場でこの事実を知ったときは、愕然とした、というのが正直なところです。製品化するまでにはタンク内で澱を沈殿させた上にフィルターがけをしたりしますので、まだまだ時間がかかりますが、オイルになるのはたったの1日なのです。
前置きはこの辺りにしておいて。
さて、今回は生産者の収穫現場を訪問し、オリーブがどのように収穫され、オリーブオイルへと代わるのか、その行程をすべて見学させていただきました!
今回訪れたのは南仏きっての優良生産者であるシャトー・ヴィラン。クリスティーヌ・シェイラン女史が1996年に始めた比較的新しいドメーヌです。女性らしく、非常に華やかでフローラルなオイルを作るつくり手として世界中の賞賛を集める生産者の1人です。
訪問当日はクリスティーヌ女史自ら、案内役を買って出ていただき、畑の収穫現場、工場の搾油現場、いずれも詳しく解説していただきました。
畑の収穫現場
従業員と一緒に作業するクリスティーヌ女史。右側のブルーのコートの女性です。私たちへの説明の途中でも収穫作業が気になるのか、従業員の方たちと話をしながら、オリーブの枝葉を取り除く作業に自然と手を動かす根っからの生産者です!
栗の収穫同様、オリーブも木が植わっている地面一面にネットを敷きます。その違いは栗が自然に落ちたものを拾い集めるのに対して、オリーブは色々な道具を用いて、木から実をふるい落とし、ネットを使って効率よく収穫します。
まずは熊手。これを使って手の届く範囲のオリーブの実をすきとります。櫛の要領ですね。手の届かないところは電動の大きな熊手のようなものを使います。熊手の先が電動で縦横無尽に動き、オリーブの枝を引っ掛けながら、振動を与えて、オリーブの実をふるい落とします。クリスティーヌ女史いわく「昔は全部手でむしりとっていたのよ。おなかのところにかごをくくりつけて、手で収穫していたの。ものすごい重労働だったのよ。昔っていっても何十年も前じゃなくて、20年くらい前だけど。この20年でオリーブオイル業界は画期的に変化したわ、味や評価方法も含めて」とのこと。
熊手を使って実演してくれました
オリーブを落とす従業員が持つ電動の道具。先が動いて、オリーブをふるい落とします
「私がオリーブオイルを始めたころは、オリーブオイルの仕事は完全に男の仕事だった。私がワインに見立ててオリーブオイルを表現したり、ワインにたとえてオイル作りをしようとしたときは、周りの反応は冷たかったのよ。オリーブオイルはそんなものじゃない、お嬢ちゃんって。オイルはワインじゃない。オイルはオイルだ!、ってね」
オリーブを収穫してオイルにするのは最初から最後まで力仕事だったため、男性中心の業界だったようです。
シャトー・ヴィランのオリーブ畑の特徴ですが、少し他と変わっています。それはオリーブの木の生え方です。樹齢が50年、100年となると通常は1本の太い幹があり、その上に枝別れして背も大きく伸びてオリーブの実をたくさんつけます。収穫のためには太い幹に振動器を取り付けて木全体を揺らしてオリーブをふるい落とします。
対して、シャトー・ヴィランは1956年にこの地方としては異例のマイナス15度まで冷え込んだ影響で一度オリーブの木が全滅するという被害に見舞われました。その当時の所有者は枯れてしまった木を泣く泣く根元から伐採したわけですが、根だけは生きていたようで、若木が伐採跡外側から何本か出て、真ん中に穴が開いたような状態になりました。それがそのまま成長したので、その穴を取り囲むように4本5本の木があたかも1本の木のように生えているのです。このため収穫の際は振動器を取り付けられず、電動の熊手のような特殊な器具を使いながら手作業でオリーブオイルを収穫している、というわけです。
大きな木になると1本で50キロ以上のオリーブの実をつけることから、大人が1人で1時間かかっても1本の木のオリーブの実を全部落としきれないそうです。筆者もふるい落とす係りのムッシューの指導のもと、体験させていただきましたが、機械を頭上高く枝に当てたところ、オリーブのシャワーといいますか、ものすごい勢いでオリーブが頭上から次から次へと落ちてきて、びっくりするほど。こんなにたくさんのオリーブの実がついているのか、と驚くほどです。
ふるい落とす係りのムッシューたちは黙々とこの作業を繰り返しては、1本、また1本ときれいにオリーブの実をふるい落とし、移動していきます。すべてのオリーブが落ちた木の下のネットを今度はマダムたちが回収し、専用のボックスに入れていきます。これが原料として工場に運ばれていきます。
工場の搾油現場
近代的な設備が導入されている工場ではまず、箱から洗浄機に移されオリーブについた泥やごみをきれいに落とします。その後、枝や葉と実を分けて、実だけを種ごとすり潰していきます。ペースト状になったものを一定時間攪拌します。こうやって練りこむことでペーストの分子構造が変化していき、それによってできたソリッド(固形分)とリキッド(油分+水分)を分離し、最終的にリキッドを油分と水分に分離して、油分を取り出します。これがオリーブオイルになるわけですね。
機械でオリーブのペーストが練り込まれていく様子
この後、大きなタンクに保管されます。大きなごみを取り除くためだけにフィルターがつけられているので、タンクの中にはある程度固形分が含まれます。数週間から1ヶ月半ほど時間を置いて、ゆっくりと固形分と澱を沈殿させ、上澄みのオイルだけを商品化に回します。ここからフィルターがけする、しないは商品によります。
シャトー・ヴィランではサロンネンクとアグランダウという南仏プロバンスの主要品種が主に使用されています。この2品種は緑色のうちに熟します。また、その時点が栄養価も高く、香りもうまみもたくさん含んでいますが、油分は少なめでオイルにするのために多くの実が必要になります。熟し切って緑色から赤、黒へと色が濃くなっていくほど、栄養価も低くなり、香りもうまみも減少し、よりニュートラルな味わいになります。ただ、完熟し切っている分、実のオイル分比率が高くなり、よりたくさんのオイルが取れるといわれています。