2019/06/06

山陰地方ではあたりまえ!?法事にパンを配る習慣を調べてみました【後編】

前編では、山陰地方での「法事パン」の歴史を中心にご紹介しましたが、今回は取材を行った地元のパン屋さん、製パン会社での取り組み状況についてインタビューした内容をご紹介します。

 

松江で人気のお店『PANTOGRAPH(パンタグラフ)』さんでの法事パン


●お店紹介
大正期に初代店主が松江で製パン業を始め、『辰屋のパン』から『キッチンおかだ』と店名を変え、約100年もの間、松江の地で製パン業を営んできた老舗。
2018年に2店舗あるお店の1つ末次店を『PANTOGRAPH(パンタグラフ)』と改名し、リニューアルオープン。
店名の由来は、電車の屋根にある架線の電流をモーターに伝える装置から取り、パンを通じてエネルギーを届け、地域の皆さんと食をつなぎ、日々の暮らしをパン食で豊かにしたいという想いが込められています。
リニューアル後は、食のトータルプロデュースができるお店として、パンやサンドウィッチだけでなく、パンシェルジュ、管理栄養士、栄養士、フードコーディネーター、チーズソムリエなどの資格を有する食のプロフェッショナル達が監修するサラダやお惣菜、チーズ、ジャム、バター、コーヒーなどを販売し、地域の方を中心に観光客の方にも人気のお店です。

▲ルサッフル社のパン酵母が使われたハード系のパンも人気

▲キッチンおかだ時代から人気のサンドウィッチ

▲パン以外にもオリジナルのブレンドコーヒーやお茶も販売

▲厨房ではボンガードのスパイラルミキサーを愛用

 

お店での法事パンの取り組み状況について聞いてみました


株式会社キッチンおかだ 代表取締役社長兼PANTOGRAPH店長
島貫 宏次 氏

-お店での法事パンの取り組み状況は?
「キッチンおかだ」時代から法事パンの取り扱いがありました。
会長の岡田が幼少期の頃には、既にお店で販売していたそうなので、取り扱いを始めて約50年になります。
もちろん、リニューアル後の「PANTOGRAPH」でも取り扱っています。
法事パンの定番は、あんぱんとクリームパンですが、当店では法事パンを受け取った方が選ぶ楽しさや、美味しく食べていただきたいという想いから、定番商品以外のパンの詰め合わせをセットにしてご案内しています。

-法事パンを取り扱っている事をPRされていますか?
当店では、法事パンを取り扱っていることが分かるように、法事パンを紹介した冊子やホームページを準備しています。
昔から法事パンの事を知っている方だけでなく、比較的若い世代で法事の機会が今後増えていくだろうと思われる方でも、どんな歴史があり、どういう時に使うパンなのか知っていただけるようにを詳しく紹介しています。

法事パン紹介ページはこちら

▲店頭で配布している「法事パン」を紹介した冊子

-需要はありますか?
法事ですので、日程が決まっているわけではないですので、毎月の注文数に差はあるものの定期的に注文はきます。
しかも、法事となると親戚が集まることもあり1回の注文で10セット位注文される方も多く、売り上げもそれなりにあります。
特に、土日は法事をされる方が多いせいか、週末に需要が高くなる傾向です。

-取り扱っているパンは?
取り扱っているパンは、「こしあんぱん」、「粒あんぱん」、「メロンパン」、「苺ジャムパン」の4種類で、その他に「マドレーヌ」、「ほうじ茶(ティーバッグ」があり、そこからお好きな物を選んでセットいたします。
セットは、9個入り、7個入り、対象商品を事前にセットした合計3種類を準備しており、お客様のご予算やお好みに応じて対応できるよう準備しています。

-専用の包装は?
贈答箱、熨斗を準備しており、パンは蓮の絵柄付きの袋に入れてセットしています。

▲PANTOGRAPHの法事パンセット(一例)

以前、お客様に聞いたのですが、和菓子やおまんじゅうとなるとすぐに消費できないとか苦手な方もいたり、結果的に残ってしまうことがあるそうです。
パンであれば比較的好き嫌いも少なく、日ごろから食べられる物なので喜ばれるというのをお聞きしました。
法事パンが山陰地方で好まれるのは、お客様の需要に沿った商品だからかも知れません。

 

山陰地方のパン食を支える老舗製パン会社『株式会社マツヤ神戸屋』さんでの法事パン


●会社紹介
創業1913年(大正2年)と106年もの歴史がある株式会社マツヤ神戸屋さん。
輸入食材などを取り扱う会社「松屋食料品店」として開業し、松江に輸入のバターやウィスキーを広め、その後1916年(大正5年)から製パン業を開始。1986年(昭和61年)に株式会社神戸屋と資本提携を行い、マツヤ神戸屋
として新たにスタートをされました。地元のスーパーやドラッグストアへの卸し、給食用のパンの製造など、山陰地方のパン食を支える企業の一つです。
同社では、競合他社との差別化と山陰地方の活性化を図る為、同社オリジナルブランド「山陰の郷からシリーズ」を展開し、地元の企業や地産地消の食材を使ったパンを販売しています。
卸先も地元のスーパーやドラッグストアに限定し、販売先店舗でも差別化が図られています。その他に、同社のロングセラー商品でもあるサンドコッぺ「熟ふわロールシリーズ」のパッケージを山陰地方の昔懐かしい写真を使ったレトロパッケージにリニューアルし、山陰限定販売商品として展開し好評を得ているとのこと。
パンを通じて歴史や慣習を紹介し、山陰地方に無くてはならない企業を目指されています。

▲オリジナル商品の山陰の郷からシリーズ(写真左)と山陰地方限定パッケージ熟ふわロールシリーズ(写真右)

▲製造工場内

▲大人気の熟ふわロールに使うパンが続々と焼き上がる

 

株式会社マツヤ神戸屋 代表取締役社長
松崎 直彦 氏

-法事パンの取り組み状況は?
弊社で法事パンとして取り扱いを始めたのが、昭和30年代後半から昭和40年頃になります。
その後、法事パンが認知され始め贈答箱などを準備して販売を始めたのが、昭和50年頃になります。
昭和40年以前にも需要はあったのかも知れませんが、その頃は法事用に配られているとは知らず、パンの注文を受けていただけで、実際に法事用に使われていたかは定かではありません。

-法事パンを取り扱っている事をPRされていますか?
弊社では、専用の冊子を作成して販売店さんにチラシを置いていただいております。

▲販売店での配布用に「法事パン」を紹介したチラシも準備されています

-需要はありますか?
恐らく他の会社も同様だと思いますが、法事は日程が決まっているわけではないので、毎月の注文数には多少の波はあります。
とはいえ、法事パン用としての注文は毎月平均5000個ほどあります。
最近では、地元のギフトショップさんが法事に力を入れており、カタログに掲載して積極的にPRされたり、数年前に全国放送のテレビ番組でも紹介されたことで、若い世代にも注目され始め、徐々に需要が高まっている印象です。

また法事だけでなく、夏の時季はお盆やお彼岸などの際のお供えとして更に注文数が増えます。
私の実家でも、お仏壇には必ずと言っていいほどあんぱんがお供えされていたことを覚えています。

-取り扱っているパンは?
取り扱っているパンは、「あんぱん」、「ジャムぱん」、「クリームパン」の3種類で、昔はジャムパンが無かったのですが、お客様の要望もあり商品を追加しました。

-専用の包装は?
贈答箱を準備しており、パンは蓮の絵柄付きの袋に入れてセットしています。
専用の袋は弊社オリジナルの袋で、神戸屋のロゴが付いたオリジナルになります。

▲株式会社マツヤ神戸屋の法事パンセット(一例)

同じ神戸屋グループでも、夏の売り上げが下がる時季に安定した売り上げがあるのは珍しいケースとのこと。
習慣の一つでもある法事パンは、山陰地方の製パン業の売り上げを支える大事な存在です。

 

島根のソウルパン!?バラパンで有名な『有限会社なんぽうパン』さんでの法事パン


●会社紹介
出雲大社近くにある有限会社なんぽうパンさんは、創業70年の老舗の製パン会社。
有限会社なんぽうパンというと、島根県では知らない人がいないソウルフードならぬソウルパンでもあるバラ型の『バラパン』を製造している製パン会社です。
バラパンは、メディアでも取り上げられ、全国でも知名度が高くなってきている島根県を代表するパンの一つです。
以前、バラパンのキャラクターを使ったマグカップやお弁当箱を企画販売した際は相次いで完売したほど。
それほどまでに人気のバラパンは、1日に2000個以上製造され、土日前は更に製造数が増えるとのこと。
最近はメディアの影響も後押しし、さらに製造数が増加しているそうです。
島根県認定で出雲の名所をイメージした、限定バージョンのバラパンがあるなど、もはやお土産としても人気の商品です。

▲大人気のバラパンは、5種類のバリエーションがある

▲島根県認定商品の『夕日バラパン』

▲以前企画販売されたバラパンのキャラクターが描かれたグッズ

 

有限会社なんぽうパン 代表取締役社長
石飛 安夫 氏

-会社での法事パンの取り組み状況は?
明確な年代が定かではないのですが、弊社では昭和40年頃から取り扱いを始めたと記憶しています。
当時はパンだけでなく法事まんじゅうもあり、パンとおまんじゅうのセットもありました。
確か当時はあんぱんだけでなく蒸しパンも販売していました。

-法事パンを取り扱っている事をPRされていますか?
昔からお付き合いのある方からの注文が多い為、積極的にPRはしていませんが、会社の外には、法事パンを取り
扱っていることが分かるよう看板を設置しています。

▲会社の看板下には「法事用パン承ります」の看板を設置

-需要はありますか?
多少の波はあるものの一定の需要はあると言えます。
1ヵ月で平均して約2000~3000個ほど法事パンの注文があります。
最近では、ギフトショップさんからの要望だけでなく、法事を行うホテルさんからも注文があります。
以前50名位参加される法事の際に法事パンを納品した事もあり、単純に計算して、5個セットの法事パン×50名分となると1回の法事で250個のパンの注文があったことになります。
法事となると多くの人数が参加されるので、それなりの注文数が見込めるのが法事パンです。

-取り扱っているパンは?
取り扱っているパンは、「あんぱん」、「クリームぱん」、「メロンパン」、「バラパン」の4種類が定番商品ですが、お客様の要望次第で柔軟に対応します。
その中でも、バラパンをセットに入れたいという方は非常に多いです。

-専用の包装は?
贈答箱、熨斗を準備しており、パンは蓮の絵柄付きの袋に入れてセットしています。
専用の袋は弊社オリジナルの袋で、ご注文いただいた商品ということでパッケージ表面には「御誂(おあつらえ)」の文字を入れています。
オリジナルの袋を作る位需要があるんです。

▲有限会社なんぽうパンの法事パンセット(一例)

バラパンだけは、専用の袋に入れずオリジナルの袋のままセットします。
というのも、やはりあのパッケージでないと成り立たないのがバラパンですので、あえてそのまま入れています。
注文される方も、それに違和感を感じられておらず、あのパッケージとバラの形をしたパンだからこそバラパンというイメージが地元の方に浸透しています。

 

取材後記


法事パンは何かの流行りではなく、歴史は古くそしてルーツも島根県の和菓子やおまんじゅうなどから派生した歴史あるパンでした。
そして何よりも面白かったのが、山陰地方では毎月一定の需要があること。
法事以外にも、お盆やお彼岸などでお供えとしての需要があるなど、本来夏の売り上げ維持に試行錯誤している
製パン業界のセオリーをくつがえし、夏の時季の売り上げ安定と、毎月の売り上げにも貢献していることから、山陰地方の製パン業を支える重要な役割を担っている事が分かりました。
法事パンとしては、特別に法事用としてパンを作ったり、仕様を変えたりはしておらず、定番商品にパッケージを替えるだけでここまでの需要があるパンは全国的に見ても珍しいのではないでしょうか。

今回は視点を少し変えるだけで、定番商品が売り上げに貢献し、そして贈答商品に生まれ変わる事例として「法事パン」をご紹介しました。

法事パンを参考に地元の習慣、季節のイベントなどに上手くパンを絡めてもいいでしょうし、売り上げが低迷する夏にフォーカスをあてて定番商品を贈答品として提案しても面白いかもしれませんね。

 

◩取材協力

▼PANTOGRAPH(パンタグラフ)
住所:〒690-0846 島根県松江市末次町23(GoogleMapで見る
営業時間:8:00~19:00
定休日:日曜・祝祭日
TEL:0852-21-5290
HP:https://www.kitchen-okada.com/
▼株式会社マツヤ神戸屋
住所:〒690-0021 松江市矢田町250-20(GoogleMapで見る
TEL:0852-24-2400
▼有限会社なんぽうパン
住所:島根県出雲市知井宮町1274-6(GoogleMapで見る
TEL:0853-21-0062

▼公益財団法人 島根県観光連盟
住所:島根県松江市殿町1番地(県庁観光振興課内)
TEL:0852-21-3969
HP(しまね観光ナビゲーション):https://www.kankou-shimane.com/

 

 

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