2019/06/05

山陰地方ではあたりまえ!?法事にパンを配る習慣を調べてみました【前編】

N&Fマガジンでは、フランスのパンやお菓子情報・トレンド情報をお届けする事が多いのですが、今回は日本独特の面白いパンの習慣をみつけたので、ご紹介します。

フランスであれば、地方で食べられているパンやお祭りの時季にだけ食べられるパンなどをよく耳にしますが、一方日本では?となると…
戦後まもなくして、パンが普及し、今では高級食パンブームなどパンがフォーカスされることも増え、パン食を好む方も多くなりました。
しかし、フランスのように地域に根付いたパンやお祭りの時季に食べられるパンとなるとどうしてもピンときませんでした。
ところが、山陰地方ではある日本独特の行事で配られるパンがあります。

そのパンは「法事パン」と呼ばれ、法事で配られる山陰地方ならではのパンの習慣とのこと。
今回はその法事パンについて前編、後編の2回に分けてご紹介します。

前編:法事パンの歴史やルーツのまとめ
後編:島根県の製パン会社・個人店での法事パンの取り組みを紹介

 

法事のお返し(引き出物)とは


年齢を重ねると法事に参加する機会も多くなると思いますが、法事に参加した際にいただく引き菓子というと何が思い浮かぶでしょうか?
地域などでも異なると思いますが、よく目にするのは焼き菓子やお饅頭、その他食品や調味料等が多い気がします。

そもそも法事のお返しとは、四十九日、一周忌、三回忌などの法要の際に、参列された方からいただくお供え(お香典)のお礼として、感謝の意味を込めてお返しする品物(返礼品)のことを言います。
引き出物の物選びのしきたりマナーとして、「形に残らない物」「消え物」を選ぶのが一般的なようです。
多くの場合、会場から持ち帰ることが多く、重くなく持ち運びしやすいサイズの品物を選ぶ事から、焼き菓子などのお菓子や食品を選ばれる方が多いようです。

その中で山陰地方(島根・鳥取・岡山の一部)では、お菓子や食品ではなく何と「パン」を配るそうです。
馴染みのない私たちからすると「えっ?パン?」となりますが、山陰地方(島根・岡山の一部)では、当たり前の習慣のようです。

法事の際に配られる「法事パン」についてのルーツやどんなパンが配られているのか、 また地元の製パン会社や個人店のパン屋さんでの取り組みなどなど、だんだん興味がわいてきたので取材スタッフを引き連れ一路、島根に向かいました。

 

「法事パン」のルーツは!?島根県観光連盟に聞いてみた


▲島根県庁

現地取材に行く前に島根のことなら島根県庁に聞こうと思い、島根県観光連盟の方に連絡を取り法事パンのルーツについてお聞きしました。
残念ながら観光連盟として有力な情報はないとのことでしたが、歴史に詳しい方に聞いていただけるとのこと。
お寺の住職や大学の教授、地元の製パン会社など有力な情報を持っていそうな方に事前調査をしていただき、その中で有力な情報を持っていそうな地元の製パン会社さんがあるとのことでご紹介いただきました。

私たちも、地元の製パン会社、個人店のパン屋さんにコンタクトを取り、以下3社に取材協力をしていただき「法事パン」についてお聞きしました。

▼取材協力
・PANTOGRAPH(パンタグラフ)
・株式会社マツヤ神戸屋
・有限会社なんぽうパン

 

遂に分かった!「法事パン」の正体


●ルーツ
今回の、取材を通じて有力な情報を入手しました。
元来、パンが配られる前は「あんこ餅」を配っていたそうで、お葬式の度にお餅をつくのは手間で大変ということから、手軽に用意できるパンが配られるようになったそうです。

そもそも、「なぜあんこ餅?」となると思いますが、島根はあんこと深い関係がありました。
島根で有名な出雲大社のある出雲地方では、旧暦の10月に全国から神々が集まり、このときに「神在祭(かみありさい)」と呼ばれる神事がとりおこなわれます。


その神事では、「神在餅(じんざいもち)」と呼ばれるあんこが入ったお餅が振る舞われたそうです。
この「じんざい」が出雲弁(なまり)で「ずんざい」から「ぜんざい」となり京都に伝わったと江戸初期の文献には記載されています。
また出雲地方はぜんざい発祥の地としても有名で、出雲大社周辺にはぜんざいのお店が沢山あります。
今回取材した有限会社なんぽうパンさんでは、出雲ぜんざいに見立てた、「出雲ぜんざいパン」というパンも販売されているそうです。

そして、島根県の県庁所在地でもある松江市には和菓子の銘菓が沢山あります。
というのも、松江藩松平家7代藩主である松平治郷(不味公)が茶道「不味流」を大成させたことからお茶文化が根付き、これに伴いお茶請けとしての和菓子が拡がったようです。
和菓子にはあんこを使った物も多く、あんこは切ってもきれない材料であることが分かります。

こうした時代背景もあり、あんこを使ったお餅が地元に根付き、法事でも使われたことから派生してあんこの入った「あんぱん」が配られるようになったそうです。

▼法事パンが配布された年代
一番有力な情報では戦後にあたる昭和20年代頃から配布され始めたのではないかということでした。
戦後まもなくして欧米文化が拡がり、高度経済成長による影響を受けた日本では、食生活においてもパンの消費量が増えたようです。
当時、あんぱんは高級な食品として扱われており、法事に来ていただいた方に少しでも喜んでいただく為にということで高級なあんぱんが振る舞われるようになったとのことでした。

▼法事パンの種類
やはりあんぱんが定番。
当時は、蒸しパンもあったそうです。

あんぱんから始まり、時代と共にお客様の要望などを受け、クリームパンやジャムパン、メロンパンなども法事パンとして配られるようになったそうです。
会社やお店によっては、販売している物であれば好きなパンを選べるなど、お客様のニーズに合わせた対応もされています。

▼法事用の包装
お店や、企業によって、贈答箱、熨斗、専用の袋(蓮の花の絵柄付き)を準備されています。

以下は、取材先各社の法事パンセットの一例です。

▲PANTOGRAPH(パンタグラフ)

▲株式会社マツヤ神戸屋

▲有限会社なんぽうパン

既成の蓮の絵柄が付いた袋を使っているところもあれば、オリジナルの袋を準備されている所もあります。
今回取材した有限会社なんぽうパンさん、株式会社マツヤ神戸屋さんではオリジナルの袋を準備されていました。

その他に市内をまわっていた時に、おしゃれな小さいパン屋さんを見つけました。
気になったのでお店に立ち寄り、法事パンの取扱いがあるか尋ねてみると、おもむろに蓮の絵柄が付いた袋を取り出し、「これにお好きなパンを入れてセットしますよ」との回答が。
特に法事パンのPRをしていなかったのですが、すぐに対応できるよう準備されていたことから、それだけ地元に根付いた習慣であり、定期的に注文がある事が読み取れました。

▼夏の売り上げを支える「法事パン」
今回の取材から分かったこととしてもう一つ。
法事パンは夏の売り上げを支えるパンとして重要な商品であることが分かりました。
取材に伺うまでは、お葬式や法事の時にだけ配られるパンだと思い込んでいたのですが、法事以外にも、お盆やお彼岸の時季にも使われるそうです。
その時季になると、スーパーでは特設コーナーが設けられ、法事パンが山積になって販売されます!!
そうです、ご先祖様にお供えするパンとしても需要があるんです。

▲株式会社マツヤ神戸屋さんの法事パンがスーパーで山積み販売されている写真

特にお盆の時季は、帰省した家族がお墓参りをすることが多くお供えとしての需要も高まります。
製パン業界では、夏場の売上げは落ちる傾向がありますが、各社にお聞きすると山陰地方はむしろパンの売上げが高くなるそうです。

前編では、山陰地方での「法事パン」の歴史を中心に法事パン全体のまとめをご紹介しました。
後編では取材を行った各社の法事パンの取り組みやその様子についてご紹介します。

 

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