徹底したこだわりのもとに造られる、まちの人に愛されるフルーツサワー-京都醸造(京都)【クラフトビール採用事例】
伝統が息づく古都・京都。五重の塔がそびえたつ東寺の南側にあるのが、京都醸造です。アメリカ、カナダ、ウェールズ出身の3人の創業者が、「自分たちが飲みたいビール」を追求し、2015年にクラフトビールの醸造所を設立しました。
週末のタップルームにはその唯一無二の味を求めて、日本だけでなく海外からもファンが訪れ、賑わいをみせています。今回はヘッドブルワーのクリスさんに、京都で醸造所を始めた想いやこだわりのビール造りについてお話を伺いました。
▼Profile
京都醸造 醸造責任者
クリス・ヘインジ
アメリカ・ヴァージニア州出身。2001年に日本へ留学後、アメリカの「American Brewers Guild」にて醸造を学ぶ。さらにアメリカの醸造所、日本の志賀高原ビールで研鑽を積み、2015年にベン・ファルクさん(販売業務担当)、ポール・スピードさん(経営全般担当)と共に京都醸造を設立。
「京都醸造」という名でビールを造る理由
創業者全員が海外出身にも関わらず、醸造所の名前は、京都醸造。さらにこれまでリリースされたビールの名前も『一期一会』や『黒潮の如く』など、あえて日本語が使われています。そこには、どのような意図が込められているのでしょうか。
「会社の名前に京都という言葉を入れるのは、少し抵抗があったんです。僕たちは海外出身だし、京都を背負うのは荷が重すぎる!と。でも、そのプレッシャーがあるからこそ、ふさわしいものを造らないといけない。怖がるものではなくてチャンスとして捉えようと考えて、京都醸造という社名にしました」(クリスさん)
一見さんお断りという言葉があるほどに、保守的なイメージが強い京都。しかし、クリスさんは「クラフトマンシップを大切にしながらも、新しい文化を受け入れる余地があるまち」だと感じているそうです。
「京都には伝統を重んじる、新しいものを好む、2つの層が存在していると思うんですね。ですから、私たちがクラフト(手仕事)にこだわって質の高いものづくりを続けていけば、きっと京都の人に伝わるんじゃないかと。一方で、京都に進出する会社や売れている商品を見ると、新しいものを受け入れてアップデートしていく文化もあることがわかりました。ですから、京都にクラフトビールが根付く可能性は充分にあると思えたんです」(クリスさん)
単に京都でビールを造り販売するだけでなく、地域の産業や小売店の人たちとコラボレーションをするなど、まちとの関わりを持つことも重視しています。
「『ご自愛シリーズ』という、京都の会社や団体と一緒にビールを造るシリーズがあります。第一弾は、京都醸造の常設店(樽生ビールを卸売している店)の皆さんとスタイルや材料、ネーミングに至るまでアイデアを出しあってビールを造りました。また毎夏、与謝野町のホップ(ビールに苦味や香りを添える植物)を自分たちで収穫してビールを造っています。朝収穫してその日のうちに仕込む、ここでしか造れない貴重なビールです」(クリスさん)
このシリーズの売り上げは、地元の活動をサポートする団体に寄付されます。ビールを造り、まちに還元する。「京都で造る」だけではなく、「京都と造ること」をとても大切にしているのです。
ユニークなビールの名前から生まれる、コミュニケーション
京都醸造のビールの特徴の一つが、ユニークなネーミング。爽やかな香りと低アルコールでぐびぐび飲めてしまう『週休6日』、ホップの産地や独自のビール文化を持つ6つの国に焦点をあてたシリーズ『六遊記』。いずれもビールの名前というよりも、小説のタイトルのよう。「どんな味なんだろう?」と飲む前から、ワクワクさせてくれます。
「私たちは、ビールを造るときにどんなビールが飲みたいか、どういう存在でありたいかを考えます。スタイルの名前である『IPA』や『ピルスナー』というネーミングにしてしまうと、それが伝わりきらないんですね。『なんでこんな名前なんだろう?』という興味をそそる名前にすることで、ビールを手に取ってくれる人もいるだろうし、スタッフやお客様同士の会話のきっかけになるかもしれません。そんな想いもあって名前にはこだわっているんです」(クリスさん)
フルーツの味わいを最大に活かしたビール造り
ネーミングもさることながら、新しいビールを発想するアイデアもユニーク。2021年に販売した4種類のフルーツの果汁を使用したフルーツサワービール『果物生活』は、野菜を手軽にとれる某ドリンクを飲んでいる時に思いついたのだそう。
「飲んで元気が出るようなビールを造りたいと思い、パッションフルーツがメインのレシピを考えました。なるべく本物の果実の味や風味を感じるような仕上がりをイメージしており、色々と検討した中で最も質が良いと感じたレ ヴェルジェ ボワロン(以下ボワロン)のピューレを使いました」(クリスさん)