パティスリーの名店「PHILO&Co.」のパン製造を日仏商事がサポート
大阪の福島区にあるパティスリー「PHILO&Co.(フィロ アンド カンパニー)」。パティスリーの世界大会「クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー」で第2位に輝いた実績のある赤崎哲朗シェフの味を求めて遠方からも客が訪れる、地元に愛される名店です。
明るく広々とした店内の一角。そこにはパティスリーには珍しいパンコーナーがあり、カヌレなどの焼き菓子のほか、クロワッサン、ブリオッシュなどのヴィエノワズリー、さらにはバゲットなどのハード系食事パンまで並んでいます。
ホテル時代にバゲット製造経験のある赤崎シェフが「ずっとやりたかった」というハード系食事パン。その製造サポートやバリエーション提案を日仏商事研究開発課がお手伝いいたしました。パティスリーの通常業務を圧迫することなく効率よくパン製造をするためのプロセスや、パン講習の様子などをご紹介します。

▲「PHILO&Co.」店内

▲店内のベーカリーコーナー
INDEX
パティスリーを日常生活の一つに。赤崎シェフが考えるお店の理想の姿とは
―そもそもなぜパティスリーでハード系のパンの製造販売を始めようと思われたのでしょうか?
赤崎シェフ
「日本だと、ケーキ屋さんというのはハレの日だったりイベントごとではすごく重宝される職業ではあるんですけど、海外ではもっと人の生活に根付いてるように見えます。このお店を始めるときに『どれだけお客さんの日常の生活に踏み込めるか』というテーマが僕のなかにあって、ケーキよりも生活に密着している食事パンを提供することは、僕にとってはごく自然な流れだったんです」

▲「PHILO&Co.」オーナーシェフ 赤崎哲朗氏
―ヴィエノワズリーはオープン当初からやっておられますね。
赤崎シェフ
「クロワッサンなどの折込系やブリオッシュなどのヴィエノワズリーは、フィユタージュを折り込んだりする作業の延長線上にあるので。ラインナップとしてはいまの半分くらいかな。そこから3年の間にスタッフができることも増えてきて、イコールお店としても新しいことをする余裕も生まれてきたので、いよいよハード系の食事パンをやろうと思って。ただ、ハード系に関してはホテル時代に数年間かじった程度なので、いまでは技術や材料も進化しているから、ゼロから教えてもらう気持ちで日仏商事さんに相談させてもらいました」

▲クロワッサンなどのヴエノワズリーやブリオッシュなども豊富に揃えている
「お菓子作りと両立できるパン製造の方法」。日仏商事からのアンサーは??
―本格的にハード系の食事パンを始めるにあたって、具体的にどのようなリクエストをされたのですか?
赤崎シェフ
「パン屋さんのお仕事って、朝が早いじゃないですか。僕がホテル時代に経験したパンの仕事も夜中の2時3時から始めてましたから。ケーキ屋の作業と並行してこれを普通にやるのは到底無理なので、通常の作業の流れで無理なく作れるオペレーション、夕方に生地を仕込んで翌朝に焼けるおいしいパンというのをリクエストしました。あとは、一つの生地からできるバリエーションのパンを教えていただきました」
赤崎シェフからのリクエストを受けた日仏商事研究開発課は、夕方に生地を仕込んで夜の間に冷蔵庫で生地を発酵させる生地冷蔵(オーバーナイト)法を提案。低温で長時間発酵させるこの製法は、生地の甘みが増し、外はパリパリ中はもっちりとした美味しいバゲットを作ることができます。
そしてバゲットだけでなく、他のハード系のバリエーションにも使える汎用性の高いフランスパン生地を作るにあたり、欠かせないのがルサッフル社の「インスタントイースト 赤(通称サフ赤)」です。

▲ルサッフル社「インスタントイースト 赤」
発酵持続力に優れたこのパン酵母は、冷蔵温度帯でも安定性抜群です。イースト臭も少なく、糖分の少ないリーンなパン生地には欠かせない商品です。常温での保管が可能なので、管理のしやすさも特長のひとつです。
▼商品ページ
赤崎シェフ
「パンのバリエーションについては、成形せずに焼くリュスティックという食事パンと、それにオリーヴを練りこんだもの。あとは僕がやりたかったフーガスとブレッツェルの作り方を教えてもらいました。成形については、僕とスタッフ何人かで日仏さんのラボで講習会をやってもらいました」

▲日仏商事本社ラボでのパン研修の様子
―スタッフさんも講習会に参加されたんですね。
赤崎シェフ
「みんなパンは未経験なんですけど、『やりたい』って手を挙げる子がけっこういましたね。日仏さんで講習をしてもらって、成形の仕方とかいろいろとコーチしていただきました。やっぱりね、パンのプロに教えてもらうのはすごく勉強になりました。ベーカーズパーセントとか、ちゃんと計算式を使って捏ね上げ温度を調整するとか。粉が変わるだけで生地の状態もガラッと変わるので『生地の力が弱いから1回ガス抜きしてパンチして力つけましょう』とかね。
2023年8月にパンコーナーを改装する予定があったので、それに合わせて3か月、毎週月曜日にお店でトレーニングしました。その都度パンの写真を送ってアドバイスをもらったり、いろいろ相談にのってもらいながら、おかげさまでなんとか形になりました」

▲フランスパン生地を利用した「リュスティック」(左)とオリーヴを練りこんだ「パン オ オリーヴ」(右)

▲同じくフランスパン生地を利用した「フーガス」。ハーブを練りこんだ南フランス・プロヴァンス地方の伝統的なパン
効率よくパンを製造。1日の製造スケジュールを綿密に組み立て
―いまハード系の食事パンを作られてるのは赤崎シェフおひとりで?
赤崎シェフ
「ハード系は生地の仕込みはスタッフがやって、成形は僕がやっています。オープン当初からやっているブリオッシュやヴィエノワズリー系は、いまではスタッフがだいぶできるようになってきました」
―パティスリーの営業をしながらパンを作るのは大変ではないですか?
赤崎シェフ
「意外とね、パンが増えたからといって労働時間はそんなに変わってないんです。たくさんの量を焼いてるわけではないので、夕方のオーバーナイトの生地の仕込みも営業時間内に終えています。
製造スケジュールとしては、ブレッツェル、これは冷凍耐性のある生地の作り方を日仏さんに教えてもらったので、週に1回、分割成形、冷凍して、毎日使う分だけ冷凍から出して最終発酵をとって焼いています」

▲ドイツ発祥の「ブレッツェル」
赤崎シェフ
「バゲットやリュスティックなどのハード系は、毎日夕方5時6時にオーバーナイトのバゲット生地を仕込んで、次の日の朝8時前ぐらいから生地を復温させておいて、分割・成形を9時前には終えて10時くらいから焼いています。毎日粉4kgを使って20本くらいのバゲットを焼いています」
パンを焼く温度設定の方がお菓子よりも高いので、11時に焼き立てを並べるオペレーションだから、大体10時から11時の間に、うちのデッキオーブンだと250度の設定で、バゲットから始まって温度が下がっていくにしたがってお菓子を焼いていきます」
―パン製造で注意することはありますか?
赤崎シェフ
「パンもお菓子と同じで小麦粉、アレルギー物質を扱うので、パンの作業を終えたら作業台をきれいに拭き上げて、粉の舞わない場所・時間帯をしっかり作ってから非加熱の生菓子を作ったり、焼き菓子の梱包作業をします。どの時間帯にどの場所で何の作業をするか。その作業の振り分けをパズルみたいにうまく組む必要がありますね」
―パンきれいですね。
赤崎シェフ
「ありがとうございます。職業柄なのか商品を均一にするっていう教育がされてるのかな。きちっと並べるとか、寸分たがわずクリームを絞っていくとかね。どうしても無意識に揃えてしまうところがある。ケーキだとすべての仕上げがビシッと揃ってないと商品にならないですけど、パンだと、例えばリュスティックとか、ラフに作ってそれが絵になるっていうものもあるじゃないですか。そういったパンの表情の違いとかが好きです。 パンはそういう遊びの部分があるんで、『きっちり揃えないといけない』というパティシエ脳になっているスタッフの学びの場としてもいいのかなと思います」

▲「PHILO&Co.」のショーケース。パティシエとしての資質がパンづくりにも生かされている

▲「PHILO&Co.」のバゲット。本職のパン職人にも引けをとらない出来栄え
パン製造を始めてからのユーザーの反応。そして赤崎シェフの今後の展望
―食事パンを販売し始めてからのお客様の反応は?
赤崎シェフ
「いいですよ。味はすごく褒めていただいてます。普段のお客さんは近隣の住民の方が多いんですけど、このあたりは下町というよりもすこしアッパーというか。ホームパーティーとかをやる人が前もって何本ちょうだいとか。他のパンも毎日ほぼ売り切っています。
近くに別のパン屋さんもありますけど、そこは惣菜パンやサンドイッチとかも置いているので、住み分けができている感じです」
―パン製造に使われている機械設備について教えてください。
赤崎シェフ
「ミキサー、デッキオーブン以外でいうと、ホイロ(ドウコン)。最終的にハード系のパンまでやるつもりだったので、オープン時に揃えました。クロワッサンとブリオッシュ生地の時から使ってます。
あと、パン屋さんになくてケーキ屋にある機械だとブラストチラーを利用してますね。昨今の物価高もありますが、コスト云々を抜きにしても、食品をごみ箱に捨てるということが極力ないように僕たちは常に考えていかないといけない。といって夕方に来られたお客さまに、時間が経って美味しくなくなったバゲットを出したくない。そこで、ロス軽減させる対策としてやっているのは、焼き立てを急速冷凍して、商品がなくなったら解凍・リベイクして出すというやり方です」

▲ブラストチラーを活用することパン本来の美味しさをキープ
赤崎シェフ
「パンもお菓子も焼き上がってから劣化が始まるので、すぐに急速冷凍で止める。朝に焼いたバゲットの半分を冷凍してます。一般の方は冷凍すると味が落ちると思っている方が多いようですけど、常温で置いておくよりはるかに美味しく食べられますから。
パンとお菓子は焼く温度がぜんぜん違うので、パンが足りなくなったからといって、そのためにオーブンの温度を上げるのは効率的ではない。うちはパティスリーとしてブラストチラーがあるので、朝焼いたものを冷凍しておけば、好きなタイミングで美味しい状態のパンを出せるので、それは強みかなと思いますね」
―最後に、パンづくりの魅力と今後の展望についてお聞かせください。
赤崎シェフ
「ハード系のパンの材料と配合ってすごくシンプルじゃないですか。でも小麦粉の種類を変えただけでもガラッと商品の味わいやビジュアルが変わる。そこが楽しいですね。味はもちろん、商品の見た目も大事だと思うので、2つを両立させることを考えながら粉を変えたり、技術は毎日生地をさわって練習して上げていくしかないですけど、そういうところも含めて楽しいですね。スタッフが成長して、僕がもっとお菓子から手を放すことができたら、さらにパンを増やそうと思ってるんです。ゆくゆくはクリスマスマーケットやマルシェみたいな、いろんなものが揃うコーナーをやってみたいですね」
日仏商事研究開発課では皆さんのパンづくりのサポートを行っています。ベーカリー開業を考えておられる方はもちろん、パンづくりにおけるお悩みやバリエーション展開など、下のお問い合わせボタンからお気軽にご相談ください。


住所:大阪府大阪市福島区福島4丁目1-77
営業時間:11:00~19:00
定休日:火・水
公式ホームページ:https://philo-co.com/
公式インスタグラム:https://www.instagram.com/patisserie.philoandco/